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贄の花嫁  作者: 彩世 幻夜
狂想曲
57/111

波乱の幕開け

 一曲、一曲。曲が変わり、ペアが変わる毎に度々聞かれていたフィナーレが、一際盛大に、長々と会場に響く。


 今日のイベントのメインでありフィナーレのダンスが、終わる。


 まずは公爵が席を立ち、ゆっくり、大きな拍手を会場に響かせ、それに従うように、会場を割れんばかりの拍手の音が満たしていく。


 ミリアは、共に並ぶ娘たちも含めて促され、まずは公爵に、続けて会場の観客に、優雅にお辞儀をして見せる。


 2人の公孫子は一歩下がり、代わりに公爵が少女たちの前に立つ。

 公爵は、侍従からそれぞれ一枚ずつ、白い封書を受け取り、それを少女たち一人一人に直接手渡していく。


 ――いかに貴族の娘とはいえ、まず政治になど関わらない小娘が、公爵閣下に直に目通りする機会は殆どない。

 たまに夜会で見かける事があったとしても、少女たちにとってはダリオの方が余程も魅力的な存在であり、公爵は敬うべき存在ではあっても、家の当主や父や兄と共に形式的な挨拶をするだけ。

 当然、公爵から直に物を手渡されるなど、普通には有り得ない。

 

 今、舞台に居るのは、選ばれた者達なのだと、これはそれを明確に示すもの。


 そして、ミリアにも、それが手渡される。

 ジルベルトに渡された、この夜会への招待状の封書とよく似た白い封書は、次段階への招待状。


 まずは、第一段階突破を認められた。

 殆ど重みを感じない、薄い紙の封書は、ミリアにとっては夢へと一歩近づいた証でもある。


 招待状を、丁寧に受け取り、深々と頭を下げる。


 「我が孫たちを支えるべく選ばれた娘たちよ。――この国の民の未来のため、是非ともその力を貸して欲しい」


 全員にそれが行き渡った後、公爵はとりわけ声高にその言葉を会場に響かせた。


 「今宵の宴はこれにて締めるが、此度の宴は始まったばかりだ。最後まで、どうかお付き合い願いたい」



 ――ミリアは、知らない。ここにいる、本日の主役とも言うべき少女たちもまず知らないだろう。

 だが、前回の宴を知っている彼女たちのエスコート役の中には、概ね前回と変わりない展開だと胸を撫でおろしたいのに。


 彼らの関心も既に、次の段階へと進んでいた。


 既に、“選ばれた者”と“選ばれなかっと者”の明暗は分たれた。

 あぶれた者には勿論、面白くない気持ちはあれど。

 しかし、あの中の一人は必ず、『贄の花嫁』となる。


 『贄の花嫁』を欠かせば、即自分たちに跳ね返るリスクを理解しているから。

 少なくとも、あの舞台の上に立つ少女たちを直接攻撃しようとする者など居ない――というのが、これまでは当たり前の、この国の常識――。


 しかし。

 これまでの次代侯爵の公孫子はこの時点で何人もの候補を選んできた。

 無論、次代伯爵も、侯爵に人数では劣る場合は多かったが、数人の候補を選ぶのが恒例だったのだ。


 だが。

 今回、ジルベルトが選んだのは、たったの1人。

 ダリオは数人の候補を選んだが――


 つまり、今回その栄誉を賜われるのは、あの中の、たった2人。

 あまりにも、『贄』候補が多すぎた。


 ――どちらでもいい、と思っていはいたけれど。

 「……少し、考える必要があるかもしれないな」


 どこか普段と違う展開に、安心しきれない気持ちを抱える貴族たちの中、その男は心の中で呟いた。


 ……そう。今宵の嵐が一旦過ぎ去っても、まだまだ波乱は始まったばかり。


 ミリアは、今宵の反省をしっかり噛み砕いて飲み込みながら、帰りの馬車に乗り込んだ。 

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