円舞曲という名の武『闘』曲
それぞれ、綺麗に着飾った娘達が、円形の舞台の上に一列に並ばされ、招待客らの前に立たされる。
……貴族のご令息――特に後継の長男であれば、ある程度の歳になれば、人前に立つための心得等、家庭教師から習うものだが、貴族のご令嬢というのは基本、お屋敷の中で使用人に囲まれ大事に育てられるもの。
こんなふうに大勢の前に立たされる経験が初めてでないのは、決してミリアだけではない。
けれど、ミリア以外の娘達が、一様に浮かない顔をしている理由はただ一つ。
今、この舞台にいるのはミリアも含めて計10名。
そのうち、次期侯爵の花嫁となれるのが、ただ一人だけと、令嬢たちは既に文字通り目の当たりにしてしまっている。残るもう一枠は、伯爵の花嫁。
この中の誰かたった一人を除けば、他全ては伯爵の花嫁候補として選ばれているのだ。
彼女たちの気分としては、文字通りスケープゴートとして競りにかけられる山羊だろう。
ミリアも、『贄の花嫁』の呼称は気に入らないが、これまで蝶よ花よと育てられた温室育ちのお嬢様に対して、訓練した軍の兵士でさえ手こずる魔物を恐れるな、というのはさすがに酷だと思うし、娘をそんな場所へ喜んで送り出そうとする親から受けるプレッシャーを思えば、同情はする。
何より、ミリアは彼女たちの中で唯一、ジルベルトの思惑を知っていて、見方を変えれば出来レースや八百長とも取れる事をしている。
そういう意味で、彼女たちに対して少なからず罪悪感があった。……彼女たちの中の、ある一人を除いては。
ミリアは、ひしひしと、前からと後ろから、随分と刺々しい空気を纏った視線が突き刺さってくるのを感じていた。
ジルベルトやダリオがテーブルを巡っていた際、兄弟どちらともがやけに構っていた娘として、ミリアの近くのテーブルについていた者には散々探るような視線を浴びせられてはいたけれど。
ジルベルトが選ぶ花嫁が唯一と客たちが認識した途端、彼が珍しく親しげだったミリアの噂は、あっという間に会場中の者たちが知る事となった。
――それは当然、“彼ら”も。
これまでいたテーブルのあった方とは逆サイドを前に立つミリアの視界には、嫌でもヴァネッサをエスコートしてきた伯爵夫妻の姿が映り込む。
続けて進行役に促され、今度は、客席に背を向け、公孫子立ちの方へと向き直らされれば、ヴァネッサから射殺されそうな目で睨みつけられる。
それを見ながら、ダリオが明らかに面白がっている目でこちらを見て微笑んだ。
――この状況下では幸い、と言うべきか。舞台の上れなかったご令嬢方が、その微笑みに、ミリアの背後でため息をつく気配がいくつも感じられる。
……が、舞台の上の令嬢からは、随分と生ぬるい視線を向けられる。
「それでは、殿下方。さっそく……」
それに気づいているのかいないのか、進行役は淡々と、己の仕事を遂行していく。
二人を促し、それぞれ列の両端に並ぶ令嬢の手を取り、ダンスを踊る。
……つまり、この後ミリアはダリオと踊らなければならないし、ヴァネッサがジルベルトと踊るのも黙って見ていなければならない。
後者も、もちろん面白くはない。……けれど。先程からのダリオの視線が気になる。
必死に練習して、付け焼刃ながらそれでも見られるダンスを踊れるようにはなったけど。
この手のことに関しては、ミリアはヴァネッサにどうしたって勝てない。
というか、この並び順からすると……
大変にこやかに、慣れた様子でパートナーをリードするダリオと、ステップこそ正確無比なのだが、どうにも相手の女の子がぎこちないせいで、まるで初心者同士のダンスのようだ。
……相手のご令嬢の方は、幼い頃からみっちりダンスのレッスンを仕込まれてきたはずで。
ミリアにきっちりレッスンをつけてくれたジルベルトも、ダリオのような優雅さには欠けても、基礎はしっかりしていたはずなのに……。
まあ、ダリオの方も、彼のリードが上手いからこそ優雅に見えるが、彼と踊る令嬢の顔は複雑そうだ。……普段は順番待ちも多く、ダリオと踊ることは、令嬢たちの憧れだったが、“今”彼と踊りたいという者をもの中から集って、自分から手を挙げるものがいるとは思えない。
順に令嬢の手を取り、そして。
まず、ジルベルトがヴァネッサの手を取り、ダリオがミリアの手を取る。
それを分かっているからだろう。優雅に微笑んでいるように見えて、ダリオの目をまっすぐ見上げてみれば、ちっとも笑っていない、深淵の闇を覗くかのようにくらい瞳孔がこちらに向けられていた。
「……お手並み、拝見と行こうか」
観客を背に、彼らの死角となる場所で、ダリオがにやりと意地の悪い笑みを浮かべ――楽隊が、新しい円舞曲を奏で始める。
それは、大変優雅で、どちらかといえば静かな曲調の円舞曲……のはずが、ミリアには武闘会を盛り上げる為に奏でられる曲のように聞こえた。




