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贄の花嫁  作者: 彩世 幻夜
前奏曲
46/111

運命へ続く道

 その日は、街を上げてのお祭り騒ぎになる。

 主要な道には露店が並び、食べ歩きのできるような軽食を売ったり、簡単なゲームをさせる屋台や、見世物小屋もある。

 商機に目がない商売人や、それに群がる人々を誘導し、街の警備に当たる公務員などの一部を除けば、まるで祝日のように、ほとんどの職場が臨時休業を決め込むのが、この国の“慣習”である。

 

 花嫁選定の宴に参加することのない一般庶民にとって、宴に代わるほんの少しの贅沢な娯楽の一つになっているのだ。

 “贄の花嫁”はともかく、侯爵の花嫁は、庶民の娘からすれば、ある意味玉の輿のようなもの。

 元々、血を差し出すことに関して、血税を払っている分、抵抗は殆ど無い。

 正妻は成り得ない、という一点だけ、自分で納得できるなら、御伽噺の中の話に憧れるような感覚で、それを羨む少女も少なくないのだ。

 何より、今回の次期侯爵様の噂など、街の一般庶民の娘の耳にまでは滅多に入らないから、貴族の娘たちのように複雑な気分になる事も無く、気楽に夢を見られる。


 ミリアは、これまで、どちらかといえばそのような、市井の娘のように暮らしてきた。

 しかし一方で、伯爵の娘という事で、一応屋敷に置いて貰っていたおかげで、そんな彼女たちと比べるまでもなく、貴族の噂に近かったミリアは、早い段階で彼らの噂は耳にしていた。

 ――元々、贄の花嫁になるのが夢だったから、昔はむしろ自分から噂を集めに行っていたくらいだ。


 そして今、ミリアは彼ら兄弟本人と直に会う機会を得て、彼らの人柄を我が目で見て確かめる事ができて、そして今ジルベルトの企みも知っている。


 だから、ミリアの心の中には、無知な憧れも、無意味な恐れも無い。

 ――ただ、緊張感だけはある。


 夜会など、招待客として出席するのは初めてで、こんな夜会用の豪奢なドレス――デザインはジルベルトに合わせてシンプルなものだが、その素材は下手をするとヴァネッサの衣装部屋にわんさかあるドレスの、一体何着がこれに等しい物で作られているだろうという高級品だ。

 その、シンプルなデザインも、今朝、わざわざ着付け係まで伴って、自信満々な笑みを浮かべて自ら出向いて届けてくれた針子のラウル君が胸を張るだけの事はある。


 ジルベルトが寄越してくれた馬車に一人乗り込み、会場となる公爵邸へ続く道を、ゆっくり進む。

 前にも後ろにも、着飾った年頃の令嬢と、その両親や兄弟、親戚と思しき面子を乗せた馬車が延々と続いているから、その進みはのろく、露天を冷やかして歩く街の人にどんどん追い越されていく有様なのだ。

 彼らは、露天を冷やかしながら、両手両足の指の数では足らない程に並ぶ馬車に乗る貴族たちをも冷やかして歩く。

 年頃の娘たちは貴族の姫の着飾った姿に、男の子達は御者の操る立派な馬に目を輝かせ、大人たちの一部は今回はどの令嬢が選ばれるかと、賭けにいそしんでいる。


 だが、たった一枚の扉を隔てた馬車の中は、どれもこれも、多かれ少なかれ、ピリピリと痛いくらいに張り詰めた緊張感が漂っている。


 親は、自らの娘が殿下方のお目に留まるようにと。

 娘たちは、自分が伯爵の目に留まることのないようにと。


 緊張感、という意味ではミリアも例外ではないが、そのベクトルが違う。


 ミリアは、認めて貰わなくてはならないのだ。――ジルベルトでも、ダリオにでもなく、宴に集うこの貴族たちと、街を賑わす民たち全員に、ジルベルトの考えと、そしてミリアが彼の花嫁になる事を。

 1人や2人に認めてもらうより、はるかに難しい事を、ミリアはこれからやらなくてはいけない。

 その中に、きっと彼女も、その家族も居る。


 その顔を見なければならない事も、通らなければならない道と分かっているが、気分が落ち込むのは無理もないだろう。

 個人的には、大多数の他人より、彼女たちの説得の方が面倒だ。


 ――しかし、ゆっくりとながら公爵邸は近づき、その姿が大きくなっていく。


 「さて、付け焼刃のダンスとマナーで、どこまで切り込んでいけるかしらね」

 ミリアは、気持ちを切り替え、気持ち、座席に姿勢を正して座り直す。


 ――さあ、勝負の時だ。

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