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贄の花嫁  作者: 彩世 幻夜
前奏曲
39/111

届けられた一報

 公爵家からの公式な布令は、主に2種類の方法で国民に知らされる。

 一つは、各家に郵送される公式文書にて。

 一つは、公共施設などに広く貼り出される触書にて。


 ……この国の識字率は低くはないが、その程度には大きな振れ幅がある。

 ごく簡単な字であれば、国民のほぼ90%以上が読むことができる。

 けれど、少し難しい文字や言葉まで理解できるのは、富裕層や貴族、人間に比べ長命な吸血鬼たちなどの一部に限られる。


 例えば政治に関わる貴族達にしか関係しない布令であれば、前者の方法がとられ、多くの民により広くより正確に伝えたい場合は、布令の意味を理解し、説明することの出来る者の居る場所で、後者の方法を採る。


 今回の布令は――直接関係するのは貴族のみ。もっと言えば、その資格ある娘の居る貴族のみである。……が、同時に事は全国民に関わる事。


 故に、この布令だけは、毎度決まって両者の方法が同時に使われる。


 花嫁候補を有する貴族にのみ、前者の方法で、その日の日時詳細が記された書状が届き、その他一般には花嫁選びの宴の開催のみ報せる布令が各所に貼り出される。


 けれど、ミリアは唯一、そのどちらでもない方法で、それを知った。

 それも、その布令が出される前日に。


 「――ただいま、ミリア」

 店頭は既に片付けを終え、一人夕食を摂ろうとしていたミリアは、裏庭の玄関から聞こえた声に、思わず手にしたフォークを落としそうになった。


 待ちに待った、けれど怖かった瞬間。


 「お、おかえり……なさい」

 そのせいか、ミリアらしくなく声が上ずり、思わずどもる。

 気持ちだけは、今すぐ席を立って彼に駆け寄りたいのに、体が動かない。


 だから、彼が厨房へやって来るまで、彼のその姿に気付かなかった。


 上から下まで、きっちり隙なく着こなしているのは、いつもの仕事着でも、先日初めて見た軍服でもなく、それは――


 「……ミリア、済まない」


 彼が、公爵家に連なる者である事を示す、煌びやかな衣装を身に纏いながら、深々とミリアに頭を下げた。


 ――“王子様”。


 この国を治めるのは大公爵様で、この国に王様は居ないのだから、その名称は間違っている。

 頭では分かっていても、彼の姿はまさに“王子様”そのもの。

 上着やマントの留め金や各所の装飾に貴金属や宝石がこれでもかとふんだんに使われているのに、悪趣味ではなく、品のある装い。

 正直、これよりゴテゴテ着飾った貴族たちを、ミリアは幾度も目にしているのに、それでもその言葉が真っ先に脳裏に浮かんだ。


 なのに、その彼からの突然頭を下げての謝罪。


 「……ダリオ様の事、上手くいかなかったの?」

 彼のその衣装の意味は、良く分からない。

 “ただいま”とは言ってくれたけれど、もしかしたら今日は帰ってきたわけではなく、公邸に顔を出す用事のついでに寄っただけなのかもしれない。

 けれど、彼が謝るべき事柄というのが、思い当たらない。

 いや、一つ、二つ――ある。一つはそれ。

 ……貴族社会というのが、単純明快には出来ていないことくらい、ミリアだって知っている。

 もともとそういうのが苦手だと自他共に認めるジルベルトが、そういう事を得手とするダリオに対し不利なのは分かっていた。

 だから、その処分が彼の思う通りにいかなかったのか。


 ……それとも。

 

 ――もしかして、カーラさん……?


 ミリアのタンカに、彼女が動いたのだろうか。

 まさか、その件に関しての謝罪では……?

 戸惑いと、恐怖に、ミリアは二の句が継げない。

 「……ああ。――例の宴の開催日時が、正式に決定した。明日にも公爵家から公式発表がある」

 だが、ジルベルトが続けたセリフは、ある意味予想外なものだった。


 「ええ!?」

 

 いずれその日が来るのは、当然分かっていた。

 けれど、今それを聞くとは思っていなかったミリアは思わず素っ頓狂な声を上げ、今度こそたまらず席を立ってしまった。


 「……だから、これを届けに来た」

 そう言って、渡されたのは一枚の封書。

 ひと目で高級紙と分かる封書に、公爵家の紋章が刻まれた封蝋。

 「正式な招待状は、既に参加で公爵に直接手渡してある。……これは、宴への参加資格のある令嬢にのみ配られる入場券代わりの招待状だ」

 これを持たない令嬢は、普段は家紋の入った某かを見せれば招待状なしでどこでもフリーパスな身分の家の娘でも会場に入る事は許されない。


 「……例の件は、公爵にも直接報告申し上げた。だがやはり、代替わりを間近に控えた今、俺たち双子の醜聞を公にはできないと言われた。無論、内々にペナルティは与えられるだろうが、表向きは何もなかった事になる」

 とても素敵な格好をしているのに、その表情は苦々しい。

 「代わりに、俺が伯爵位を継ぐ件について、許容範囲ギリギリまでの根回しをしてくれる確約はとりつけた……が……」


 一度上げた頭を、もう一度深々と下げ、ジルベルトは言う。

 「――済まない」


 ミリアは、自分の取り越し苦労についため息をつきたくなりながら、静かに腰を下ろす。


 「……ジルベルト、もう夕食は食べたの?」

 「いや、まだこれからだ」


 「もし、まだ少しでも時間があるなら、一緒に食べていって」


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