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贄の花嫁  作者: 彩世 幻夜
前奏曲
35/111

騎士たちの願い

 テオと初めて会ったのは、母を亡くしてすぐの事だった。

 厨房に追いやられ、使用人同然の扱いを受けるようになった頃。伯爵邸に納品に訪れた父についてきた彼と出会った。

 それ以来、彼とは幼友達としても、男友達としても一番親しい友人として付き合ってきた。

 今回、屋敷を出て店を構える際にも、食材を安く提供してくれるなど、色々と世話になっている。

 だから、彼の忠告ならミリアも素直に聞き入れる。

 けど――


 「……ごめん」


 出会った頃のものとは違う、太く骨っぽい男の手――その、出会った頃と同じ温もりを、ミリアはそっと突き放した。

 「……テオのことは好きよ。だけど、そういう好きとは違うから。それに、もう決めたことなの」


 テオが、真剣に想いを告白してくれていることは分かる。

 でも――


 「……牧場主の長男坊との平凡ながらも幸せが保証された未来を蹴って、ブリアーニ伯爵夫人として島へ赴く未来を選ぶ。私には到底理解できません」

 ミリアの返答に答えたのは、テオではなくカーラだった。……答えというよりも、思わずこぼしてしまった呟きという方が正しそうだが。


 「ジルベルト殿下は、我ら騎竜隊のみならず、軍に属する者ならばほぼ全ての者が敬愛と忠誠を捧げる、最高の統率者(リーダー)だ。無論、あの方の特殊なお立場は皆も承知している。……いつまでも我らの守りに就いていられる身分の方ではないと。だが、だからこそ我らは――私は、切に願う。あの方がその名を継ぐその時、殿下の隣に居る者が、殿下の名や名誉、立場、能力を少しでも損ねるような者でない事を。――あの方に相応しい、最高の“花嫁”を」


 けれど、一度こぼれた言葉を途中で留めようとはせず、彼女は呟きとは言えない声量と、はっきりとした口調で続けた。

 「今日一日、貴女の護衛としてついてまわり、貴女を見た私からすれば、貴女は“最高”には程遠い」


 ひとつ、息継ぎの間を置いて。


 「……確かに、先代や先々代の花嫁のような、何も知らない、何も出来ない箱入りの姫よりはずっと、貴女は相応しい。それは、認めよう。――だが、貴族の息女に拘らず探すのであれば、もっと適任な者が、騎士団にはいくらでも居る」


 ――贄の花嫁は、その役目から“人間”で、“女性”でなくてはならない。“貴族”という条件が外れても、騎士団の中、割合的に多いのは吸血鬼であり、人間も男性の方が多い。……ジルベルトに年齢的に合う適齢期、という条件を足せば候補はさらに減る。――それでも。


 「仮にも、騎士を名乗るからには、相応の戦闘技能は備えている。無論、それに相応しい覚悟も、過酷な状況に耐える精神力も。血の気も多いし、体力もあって。何よりジルベルト殿下のお役に立ちたいと真摯に願う娘が、私が直に知るだけでも20人は居る」


 カーラは、殺気の類こそ感じないが、温度を感じない冷たく鋭い視線をミリアに向ける。


 「私は、吸血鬼。――私には、贄の花嫁になる資格はない。……悔しいが、信頼のおける、最高の“花嫁”に殿下の御身を委ねるしか、私に出来ることはない。だからこそ、言う」


 声にも、脅しつけるような気配はないのに、言葉が冷たく刺さる。


 「貴女は、ジルベルト殿下の花嫁に相応しくない」

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