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贄の花嫁  作者: 彩世 幻夜
前奏曲
34/111

求婚

 普段の仕入れとは違う時間。牧場や農場はともかく、今の時間ではまだ市は開いていない。

 「……魚は、諦めるか」

 店の修繕をするなら、もう一度魚を買うためだけに出る時間は無い。

 荷車も、テオから仕入れた資材と、畜産物、それに から仕入れた農産物で既に一杯だ。


 これ以上積んでしまっては、ミリアの力では荷車を引けなくなる。


 「――帰ろう」

 港へは下りず、丘を登る道を選んだミリアの後ろを、カーラは黙ってついてくる。

 ……テオのところを出てからはもうずっとこうだ。

  のところでは、テオの時のように自身やジルベルトの事を話したりはしなかった。

 テオに簡単ながらも事情を明かしたのはやはり、口止めのためだったらしい。


 ――だが。


 ……なんだろう、何故だかずっと、見られている。

 護衛対象としてというのではなく、観察でもされているような視線を感じる。


 視線に、敵意や悪意は感じない。けれど、好意的な視線でもない。


 店に戻り、壊れた棚を撤去し、金槌と釘とを手に新しい棚に付け替える。

 ミリアにとって、作業自体はそこまで難しいことではない。だが、作業量の多さと人手の無さはやはり時間を余計に食う。

 昼前には戻って作業を始めたのに、気づけばもう西の空が赤くなっている。


 「……ああ、もう……、そろそろ明日の仕込みも始めなくちゃ」

 文字通り、“取ってつけたような”出来だが――

 「……今はここらで妥協するしかなさそうね」


 もうじき、テオも来るだろう。

 「あの……、夕食は……」

 伺うように、ミリアは彼女に尋ねる。

 「お構いなく」

 しかしやはりすげない返事で断られてしまう。


 ジルベルトは――まだ帰って来ない。


 台所に立ち、竈の火を熾す。

 いつもの仕込みと同時に、夕食の支度を始める。

 思えば、いつも店の余り物で済ませているから、一から夕食を作るのもまた初日以来だ。


 牛肉をたっぷり入れたシチュー。

 豚肉のハーブ焼き。

 鶏肉の団子と野菜をたっぷり使ったポトフ。

 焼きたてのマフィンと、バターたっぷりのスクランブルエッグ。

 

 テーブルが料理で埋まる頃、店のドアを叩いたのは――テオだった。


 「いらっしゃい」

 「おう。悪いな、もっと早く来てやれればよかったんだが、今日は色々忙しくて、結局こんな時間になっちまった。――彼も、まだ戻ってきてないのか」

 「……うん。昨日の件の事後処理、やっぱり難航しているみたい」


 「事後処理が難航、ね。って事は本当に昨日の一件、ヴァネッサお嬢の仕業じゃなかったのか」

 「うん。……誰の仕業とは言えないけど」


 「――本当に、本気なのか」

 肉をつつきながら、テオがボソリと呟いた。

 「お前が、一度言いだしたら聞かない事くらい知ってる。……お前が騎士団に憧れていたのも知ってる。けど……、もし俺が行くなって言ったら、考え直してくれるか?」

 「え……?」

 「……いつか、言おうと思ってたんだ」

 食器を置き、テオは意を決したようにミリアの手を掴む。

 「本当は、この店がもっとちゃんと軌道に乗って、俺が牧場を継いで……そうしたら言おうと思ってたんだ」

 狭い食卓を挟んで、間近に迫るテオ。


 「ミリア、お前の事が好きだ。俺と一緒に生きて欲しい」

 

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