表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
贄の花嫁  作者: 彩世 幻夜
狂想曲
109/111

嵐の予兆

 ――その一報を、彼が耳にしたのは、闇が薄れ、水平線の向こうに太陽の気配が濃厚に

漂い始めた明け方の事だった。


 痛みをこらえるように、彼は自室のバルコニーから遠く海の果てに目を凝らし――次いで、

眼下に広がる屋敷の敷地から公都を目の届く限りの端から端まで、その光景を目に焼き付ける。


 公邸、議会、街。それぞれに飛び交う幾多の噂の事は、当然彼の耳にも届いている。


 前代未聞の事態の続く今回の選定は賛否両論で、誰かが制さなければ、無事に着地点

を見つけるまでに果たしてどれだけの時間を必要とする事か……


 「だが、最早一刻の猶予も許されぬ」


 開け放ったままの窓に背を向け、彼は執務机の上の呼び鈴を手に取った。




 やがて、水平線の向こうから顔をのぞかせた太陽がすっかりその姿を顕し、街の闇が払わ

れた頃。

 緊急の議会が召集された。


 議会に参加する資格のある貴族全てに公爵の直印入りの強制召集状とあっては、普段は

領地に引っ込み、滅多に顔を出さない者たちも重い腰を上げざるを得ない。

 街から公邸へと続く道には、先日の宴の際以上に大量の馬車が並び、ひどい渋滞を起こし

ていた。


 そして“それ”はダリオにも届けられた。

 詳細は一切記されておらず、本当に議会への出席を命じるだけの書状だ。

 しかし、このタイミングでの議会召集。

 例の策を弄した本人である彼にはその理由に当然心当たりがあった。


 「これで、今度こそ確実に奴を仕留められる」


 そう思えば、ついつい口の端が緩みそうになるのを必死にこらえながら、しかつめらしい表

情を保ったまま、議会室の扉を開けた。

 そうしてまずは、既に席についている面々の顔をぐるりと見回す。


 当然といえば当然だが……目当ての顔は見当たらない。

 ――見当たらなくて当然だろう。

 今頃、あの娘と共に仲良くひっくり返っているはず。少なくとも、議会に出席などできるはず

もない。


 ますますもって、笑いをこらえるのが難しくなってくる。


 公爵直印の勅書を無視すれば、部下一人の不始末とその管理責任や任命責任を問うよ

り遥かに効果的に彼を攻撃できる。


 ダリオは、今は空席の公爵の椅子に、彼が座るその時をじっと待った。


 ――勝利の瞬間を、信じて。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ