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贄の花嫁  作者: 彩世 幻夜
狂想曲
106/111

簡単で難しい方法

 「……知識はあっても出来ない、というのは、まあ分かる。だが、お前にできないことが、俺に出来るという、その根拠は何だ?」


 ……ジルベルトは軍人で、医師ではない。

 怪我とは切っても切れない職で、上級士官として多くの命を預かる身であるため、応急処置の知識はあるし、訓練も怠る事なく重ねているから、当たり前に出来る――が。

 それ以上の治療方法の知識はあれど、実際に行う技術は無い。

 それは、いくら頭で剣の型を覚えようと、それだけで剣を扱えるようにはならないのと同じこと。実際に剣を振って身体で覚えなければ、実際の役には立たない。


 「……方法そのものは、吸血鬼であれば誰でもできる簡単な事。しかし、それを実際にやってのけられる者は多くない、これはそういう方法だからです、殿下」

 「――俺なら、出来ると?」

 「さあ、どうでしょう。少なくとも私には……出来ません。私に出来るのは、殿下にその方法をお伝えする事だけです」

 出来るか出来ないかは、ジルベルト次第だと、言外に告げ、医師はミリアの首へと手を伸ばし、襟元をくつろげた。


 「その方法とは、彼女の血を吸う事」


 勿体ぶった割にはあっさりと、彼はそれを告げた。


 「……は?」

 そのあまりに単純明快な言葉を理解しきれず、ジルベルトは間抜けた声をあげた。


 ――確かに。軍に於いて、毒を持つ魔獣に噛まれる等して負傷した兵に対する応急処置として、毒血を抜くという方法がある事は知っている。

 実際、部下に対して行ったこともあれば、自らに施した事もある。

 だから、全く分からないわけではないが……


 「吸血鬼をも昏倒させられる強力な毒を含んだ血です。当然、相応のリスクを伴います」

 困惑するジルベルトに、医師は淡々と続けた。

 「彼女の毒血が、正常に戻るまで。……しかし、毒に疲弊した身体から血が失われ過ぎれば、当然それが負担となり、より容態が悪化する恐れもある」

 医師の言葉を聞きながら、ジルベルトははだけられた彼女の首筋に目を落とす。

 「……しかし、彼女を供血者とし、契約を結んでいた殿下は彼女の血の味をご存知のはず。毒血か清浄な血かを明確に判断できるのは、貴方だけでしょう」


 自らの身を危険に晒しながら、失敗すれば最悪の結果が待つリスクだらけの方法。

 成る程、行為そのものは吸血鬼としては日常レベルの簡単なものだが、確かにこれは相当に覚悟の要る行為である。

 そして、今、それに有利な条件を持ち合わせているのが、ジルベルトなのだ。


 「――! いけません!」

 それを彼が理解しきる直前、カーラが悲鳴のような声をあげた。

 「殿下、貴方は我が軍にとって――いえ、我が国……ひいてはこの大陸に於いて、失うことの出来ないお方です。そんな事、させられません!」


 ジルベルトとミリアとの間に割り込み自らの身体を壁として、彼の前に立ちはだかる。

 「私は、貴方の側近として、それを許すわけにはいきません」

 強い眼差しで、ジルベルトを見上げる。

 

 「殿下に代わりは居ませんが、花嫁候補は他にも居るのです」

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