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贄の花嫁  作者: 彩世 幻夜
狂想曲
103/111

回り、回って

 吸血鬼としても年配と言われるような者たちの集まる夜会で奏でられるワルツは、どれもゆるやかで優美なもの。

 忙しく、くるくる回らねばならない類の曲はなく、ゆったり優雅に踊りを楽しめる。


 “あの”宴では、そもそも楽しむどころではなかったミリアとしては、ある意味これが“初めて”公の場で彼と踊る機会でもある。


 あの日に比べればだいぶん大人しいが、それでも充分華やかな衣装に身を包んだ彼の手を取り、、ミリアは少しの緊張を孕みつつも一歩、ステップを踏み出した。

 今宵の主賓たる彼に、ダンスの円の中の客たちは、優雅に踊りながらも、器用に二人を避けて広く場を空ける。


 見物を決め込む者たちの視線を一身に浴びる事に慣れないミリアは、人前に立つことが仕事であるジルベルトの平然とした様子に、自然と鼓動が早まる。

 ……今宵の客は、皆吸血鬼だというのに。

 人間より遥かに優れた五感を有する彼らにとって、それを察するのは簡単なこと。

 向けられる視線が、次第次第に生暖かい微笑みへと変わる様子を、くるくる回りながら見せつけられ、それによってまた鼓動が早くなる。


 この場ではミリアたち同様に“例外”に数えられる彼女だけは、面白くなさそうな顔をしていたが……

 やがて曲が終わると、ぱらぱらと微笑ましい空気を読んだような静かな拍手に迎えられる。


 まるで、小さな子どもの発表会の成功を讃えられているかのような空気感に、ミリアは顔が火照るのを感じながらも、なんとか顔に微笑みを貼り付け、会釈を返した。


 「お嬢様、お飲み物はいかがです? 殿下もよろしければご賞味ください」


 盆に乗せたワイングラスをそれぞれ差し出す。

 「お嬢様、奥様もどうぞ」

 続けてカーラと彼女の母である当主夫人にもグラスを勧める。


 先に受け取っていたらしい当主が、乾杯の仕草を真似て、グラスを持ち上げた。


 「なかなか、貴重な様子を拝見させていただきまして。いや、実に素晴らしい」

 ほくほくと、上機嫌な様子で、ジルベルトを促す。

 「このような場での噂は、ダリオ殿下の華々しい話ばかりで、ジルベルト殿下のお話はそうそう耳には入りませぬ故、失礼ながらどんなものかとつまらぬ事を考えておりましたが……」


 それに答え、付き合う形で苦笑を浮かべながらワインを舐めるジルベルトに、彼はさらに満足げに言葉を続けた。


 「成る程成る程、これは確かに似合いの相手同士。つまらぬ勘ぐりは時間の無駄と、よくよく分かりました」


 流れるように、また次の曲がかかり、主賓の抜けた穴を埋めるように、前の曲では見物を決め込んだ者たちも舞台にあがり、くるくると踊って回る。

 逆に、ジルベルトたちを追うように舞台を降りた者たちは、宴の主の言葉に、同意するように微笑む。


 その意見への同意を求められるのを嫌うように、カーラは自らの杯に口をつけた。


 ミリアも、少しばかり居た堪れない気持ちをごまかすように、グラスを傾け、一口、苦酸っぱいそれを口に含み、喉を湿らせた――直後。



 くるり、くるりと色とりどりの衣装が回る舞台と一緒に、視界がぐるりと回った。

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