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第8話 【奇妙な生存者】

 朝から降り続く雨は、激しさを増しながら会議室の窓を叩いていた。粥村かゆむらは眼前の資料に目を通しながら、和都竜災害対策本部係官による竜災害の最終報告を聞いていた。


水月みずつき(6月)23日、旧甲国領きゅうこうこくりょう森厳市しんげんし竹郷たけごう地区にて竜災害発生。森厳軍竹郷駐留保安兵が対応するも全滅。同日同地区壊滅。

 同月24日、災害発生より二日目。森厳市長へ災害発生の第一報。竜災害対策兵団発足。ゆがみの中心が都心部に移動、規模拡大。川野辺かわのべ地区壊滅。

 同月25日、災害発生より三日目。十紀政府へ竜災害発生の一報。近隣都市、旧越国領きゅうえつこくりょう堅信市かたのぶしより歪の中心に位置する川野辺地区へ竜災害対策兵団を派兵。その時点において堅信市長への川野辺地区壊滅の報は未達。同日山之中やまのなか地区壊滅。

 同月26日、災害発生より四日目。竜災害対策兵団、川野辺地区へ到着。本格的な魔物討伐開始。同日山野辺地区壊滅。

 同月27日、災害発生より五日目。二村特務少佐及びその随伴者、山野辺地区にて歪を作り出す竜を討伐。

 同月28日、災害発生より六日目。十紀皇国軍山野辺地区へ到着。魔物討伐、被害状況確認、及び死者・負傷者の回収。竜災害沈静化。

 同月29日、災害発生より七日目。竜災害完全集結宣言。第一次行方不明者捜索開始。山野辺地区で奇跡的に民間人一人を救出。しかし、その後は生存者を発見できず。

 同月30日、災害発生より八日目。第二次行方不明者捜索及び、死者確認、埋葬。

 穂月ほつき(7月)1日、災害発生より九日目。第三次行方不明者捜索及び、死者の身元確認、被害状況精査。被災負傷者保護。捜索終了宣言。

 同月2日、災害発生より十日目。周辺地域の魔物殲滅作戦開始。被災者状況確認となっております。」


 係官は資料をめくると一つ咳払いをして続けた。


「次に人的被害状況を報告いたします。

 竹郷地区行方不明者五十六名、死者三十三名。川野部地区行方不明者四十名、死者二十七名。山之中地区行方不明者三十二名、死者十三名。山野辺地区行方不明者八十三名、死者四十五名、生存者一名。と、このようになっており、未だ多数の行方不明者が出ていますが、生存の可能性は低いと見られ、これにより第三次生存者探索は打切りとなっております。」


 係官は長い説明を終えると、周囲に聞こえない様にほっと安堵のため息を吐いて着席した。


「旗田、資料に不備でもあったか?」


 係官の報告に眉根を寄せている旗田に粥村は尋ねた。


「いえ、不備というか、山野辺の生存者一名について前々から腑に落ちない点があるんです。」


「ふむ、言ってみろ。」


「はい。山野辺の一名というのは、私が預かり、現在和都郊外の施設に保護させている青年なのですが……。

 実は山野辺で竜災害が発生した日に前線を維持していた二村特務少佐が『生存者が残っている可能性はまず無い』と言いきるほどの被害甚大な場所で保護されているんです。しかも記憶こそ失っているものの、外傷はごく軽く殆ど無傷と言っても良い程でした。息があれば必ずそれを嗅ぎつけて襲う魔物が、気を失っただけでほぼ無傷の人間を見逃すとは考えにくいんです。」


 粥村はあからさまに面倒臭そうな顔をすると、大きな溜め息をひとつ吐いて言った。


「どうでも良いだろそんなこと。相変わらずお前は細けぇなぁ。目撃者がいるわけでなし、しかも記憶を失っているとなれば、今更真相を突きとめるなんて無理だろうし、その意味も無い。

 良かったじゃないか。一人でも生き残りがいて。記憶を失ったのは、まあ不憫だがな。この件はこれで終わりだ。余計な事に時間をかけていられない。面倒事はサラッと終わらせるに限る。」


「そうですか。わかりました。」


 旗田は粥村の渋面をこれ以上歪ませぬよう引き際を心得た。矢咲の下で保護している男については、今後別の伝手で調べを進めるしかないらしい。旗田の心にある人物の不敵な顔が浮かんだ。




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