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第5話 【あだ名と社会保障】

 穂月ほつき二十日(7月20日)、火日ひび


 どうやら僕には『大ちゃん』というあだ名のようなものができたらしい。何でもナントカ大輔という名の役者に似ているのだそうだ。名無しというのは何かと不便だったので、ありがたいといえばありがたいが…。

 そう言えば、ここの人達は少し変わっている。何かと親愛の情をわざわざ言葉で伝えてくるのだ。そういう変わった風習でもあるのだろうか。

 僕もそれに倣って矢咲さんにいつもの感謝の気持ちも含めて


「矢咲さんいつもいつもありがとうございます。あなたの事が好きです。」


 と言ってみたら変な顔をされた。

 更に「君の場合、そういう台詞は誰かれ構わず言って回らないほうが良いよ。」と注意された。親愛の情を示すにも、作法や相応しいタイミングのようなものがあるのだろうか。奥が深い。


 ところで前々から気になっていた、この施設について尋ねた。

 矢咲さんが言うには、この施設の目的は社会における経済的弱者の救済にあるらしい。その前提となる話として、十紀の社会保障制度や通貨制度についても大雑把に教えてもらったので、その概要を記しておく。


 十紀で戸籍を有する人は乳幼児から高齢者まで、全ての国民が毎月上限ニ斗(約30㎏)分の米を支給されるそうだ。そして十紀では米も通貨として使えるらしい。

 赤ん坊が出まれ、役所へ届け出をすると、その赤ん坊に対して"米札こめふだ"なるものが発行される。毎月末までに米札を米問屋へ持っていくと、米札に直接その月の印を押され、替わりに米を最大で二斗貰えるとのことだ。


 ちなみに、十紀の通貨を日本円に換算すると次の通りだ。(円は僕が大体の目安として算出した金額)

 金貨(単位:キン)≒ 50,000円

 銀貨(単位:ギン)≒ 5,000円

 銅貨(単位:ドウ)≒ 1,000円

 錫貨(単位:セン)≒ 100円

 屑銭(単位:リン)≒ 10円


 更に米を現金換算すると次の通り。

 一俵(60㎏)≒ 20,000円

 一斗(15㎏)≒ 5,000円

 一升(1.5㎏)≒ 500円

 一合(150g)≒ 50円


 毎月何もしなくても、通貨としての使用も可能な米を貰えるなんてすごいと感心する僕に、矢咲さんがこの制度の欠点も示してくれた。


 ・あくまで上限がニ斗であり、不作の年はもちろん減らされる

 ・上限のニ斗であっても、食べたり必要な物を購入して生活していくにはギリギリな量である

 ・医療や年金などの社会保障は皆無

 ・身寄りのない人、正規の職に就けない寡婦や未成年、障害者などがこの制度を頼りに一人で生きていくのは困難


 これら経済的弱者の為に、地域の有力者や有志が共同生活の場として作り上げたのが、ここのような施設なのだという。ここと同様の施設が各都市に作られているらしい。これらの施設を頼ってやって来るのは、何らかの理由で一人暮らしを余儀なくされた女性や老人、夫や実家の庇護を受けられない母子、孤児が多いそうだ。

 どおりでこの施設には女性や子供、老人ばかりが目立つわけだ。


 この施設の人達が何故こんなにも親切なのかがわかったような気がする。皆それぞれに痛みや傷を負い、だからこそ人の痛みにも敏感なのだろう。僕は鈍感なところがあるので、どこかで無神経な言動をして、彼らを困らせたり悲しませたりしていないだろうか。

 僕にしかできないことで、この施設の人たちに恩を返すことができるはずだ。それを考えていこう。


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