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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

Dark ness of War field in Europa

作者: Шанку

舌打ちをしながら空を見上げる。


憎いほどに雲一つない青と白色の絶妙なグラデーションが施された綺麗な空だ


小さい頃はこのような綺麗な青空を見るたびに喜んだものだったが、はっきり言って今は喜びの欠片すら見当たらない


空から降り注ぐ熱気。乾いた地面からの灼熱。そして横から轟くエンジン音と履帯(キャタピラ)の音


もう一度舌打ちが自分の口から飛び出した


周囲には石ころ一つありゃしない見晴らしのいい砂漠だってのに、この戦車に乗っている連中はゆっくりと慎重に進んでいやがる。


そんなことしてねぇで俺ら随伴歩兵を戦車に乗っけてさっさと進んだらどうなんだと思うが、ヤツらは聞く耳を持たずにさっきから真剣な顔して周囲を警戒していやがる


操縦士なんて俺ら随伴歩兵よりも蒸し暑くて苦しいところにいるのに、俺らよりもやる気があるってのは一体どういうことなんだろうか。被虐嗜好でもあるんだろうか


それなら砲手や戦車長たちは加虐嗜好のある連中だな。自分たちだけ開放感のある砲塔に位置して風にあたっているようなものだからな。


それにしても・・・暑い・・・熱い・・・エンジンの排熱が随伴歩兵の後方にいる俺にかかってきてむちゃくちゃ熱い


ため息をさっさと吐き出したいが、口を開けた瞬間に喉が渇きそうだから諦める


諦めて、反対側のヤツに話しかける



「なぁ、おい。目標(ゴール)まであとどのくらいあるんだよ」



・・・こちらに見向きもしないで欠伸(あくび)してやがる・・・よく欠伸なんてできるな。いや、車体から若干離れてやがる。


畜生。この距離じゃこの戦車の駆動音にかき消されるだけだし、これ以上声を張り上げれば戦車長”様”に叱られるのが目に見えている。






先日のことだ。ハンガリーを進んでいた俺らに通信が入った。


ルーマニアにある油田が昼間に空爆を受けたらしい


特に被害は大きくなかったようだが、あの流れ星が8機ほど不時着したのだとか


まぁそれも他の隊の連中が片付けてくれたらしいからこれもまた問題じゃない


問題だと思っているのは、その不時着機の中に、もしかしたら漏れがあるかもしれないということらしい


たしかに油は必須だ。取られちゃたまらないとも思っている。


だがあそこを主に使っているのはイタリーの方だったはずだ。何もソ連進行中の俺らゲルマンを動かす必要は無かったのではなかろうか


しかも今の編成は俺らの姫君”ヴェスペ”ちゃん一両と、我らの騎士様”Ⅳ号戦車”2両のたったの3両だ。


・・・やけに火力に特化したものだけの編成・・・しかもただの不時着した爆撃機相手にだ。


あいつらが携帯式対戦車(パンツァー)擲弾発射(ファウスト)器なんざ持っているわけがない



考えすぎたせいで喉が渇いてきた・・・腰に下げた水筒を手に取り口につけた瞬間、姫君が止まった


慌てたせいで多少こぼれてしまったが、なんとか飲むことはできた。生ぬるかったが


戦車長が砲手と何かを話し合ったあと、俺らを見渡して言った



「ここから5km離れたところに不時着機と思われるものを発見した。これからⅣ号戦車一両にお前とお前が随伴して確認してこい」



そう言って、俺とさっき欠伸していたヤツを見た。


冗談じゃねぇ。5kmも歩けとかふざけんな


今度は内心で舌打ちして、欠伸野郎を連れてⅣ号戦車の方に向かう



その時は、お互い無言だった。



「これからそちらに随伴させていただくマトル・ベルシュタイン一等兵です。よろしくお願いします」


「同じくアーバン・アルベルト二等兵であります!よろしくお願いします!!」



無駄に威勢のいいヤツだ。というかこいつ俺より階級低かったのな。


Ⅳ号の戦車長が俺らを一瞥したあと、すぐに視線を戻し、告げる



「俺たちがここから2.5kmまで乗せてってやる。そこから先は自分たちの足で行け」



こいつ・・・うぜぇ・・・そんなことくらい分かりきってるっての


大体戦車長やるくらいだから階級が俺らよりも高いことは知っている。それなら俺たち格下の心理くらい心得てんだろ?


乗ってもいいという言葉には素直に感謝し、履帯を覆っている装甲の上に登る


アーバンも反対側に回って履帯装甲の上に乗る。


それを戦車長が確認したあと、戦車が動き出した。



登ってから後悔した。熱を含んだ鉄ってのは、熱い。肌を撫でる風は暖かいし・・・熱した鉄板の上で焼かれるよりは、歩いていた方がずっとマシだった。



そうかからないうちに戦車は止まった。


それから自分とアーバンは戦車を降り、目標まで向かう



確かに、そこに不時着機が一機あった。


だが、妙なことに傷一つついていない。本当に爆撃に行ったのか疑わしいくらいに・・・


ゆっくりと、慎重に爆撃機まで近づいていく。


後ろではアーバンがライフル銃を構えてついてきてくれている。何かあったとしても大丈夫だろう


そーっと、ドアを開く。


物音一つしない不思議な空間がそこにはあった。


念の為にライフルを背中に下げ、ナイフを持っておく


不思議なことに、この機体には爆弾が一切積まれておらず、大量の木箱が入っていた。


木箱のラベルには数字ばかり書かれていてまったく分からない


中は空洞なのだろうか・・・木箱の隙間から中を覗いてみれば、爛々と輝く小さなものが4個と、光を反射した錦糸のようなもの


なんなんだろうか・・・何気なくその上にあった箱に手をつけた次の瞬間


木箱がガタガタと激しく揺れだした。


それに合わせて他の箱もガタガタと激しく揺れだす。


ビックリして入口の方に駆け出そうとするが、アーバンが入口からこちらにライフル銃を構えているままなのを見て動きを止めた。



「お、おい。どういうつもりだ二等兵・・・」



何も言わずに引き金に手をかけたアーバン


今の手持ちはナイフのみ。しかも今の体勢じゃどう攻めようったって読まれて終わりだ


勝ち目がまったくない・・・



「なぁ、落ち着けよ。なんでこっちに銃向けてんだよ」



銃を向けられているせいで段々とイラついてきた俺は、そう逆ギレ気味に問いかけるが、尚も無視


後ろではさっきから木箱たちがガタガタとうるさくて怖くて仕方がない。


我慢の限界に達した俺は、走り出そうとして姿勢を少し低くする。


すると、先ほど手をついた木箱が壊された音がして、何か身の毛のよだつ鳴き声がしたかと思うと、自分の天地がひっくり返されていた。


その反動でナイフが振られ、自分の上に乗っかったのであろうものを切りつけた。それと同時に銃声も響いた。



ほぼ一瞬の出来事。自分の上体に馬乗りになっていた何かの首が切られ、黒い液体が頬に降り注いだあと、そいつの頭が吹っ飛び失くなっていた。


その一瞬の間に見えた顔は、まるでバラバラの粘土を下手くそに積み重ねたかのような顔の肉に、目のようなものがある部分に、充血のしすぎと暗闇の効果で底知れぬ闇のような穴があり、肉食獣のような牙を剥き出しにしたおぞましいものであった。



悲鳴を上げ、上体に乗っかっていた死体を蹴落として這いの体でアーバンの元に向かう。


そして、立ち上がって担いだままだったライフルを構えたあと、木箱の方に向き直る。


それまでの間に2発の銃声があった。



先ほど自分がいたのであろう場所に死体がもう一体追加されている。



「一等兵殿。申し訳ないが、この機体に砲撃を頼んできてもらいたい」



普段の俺ならば食ってかかっていただろうが、現状が現状なだけに大人しく頷いたあと、気づいた。


どこかから少女のすすり泣く声が聞こえる。


・・・俺はもしかしたらそっちの気があったのだろうか。いや、だが、確かに聞こえる。



音は壊された木箱の下のあたりから聞こえていた。


・・・正確な位置がこの距離から分かるあたり、やはりそうなんだろうか



「アーバン二等兵!すまないがそのまま援護してくれ!!」



アーバンがこちらに驚愕の視線を向けてきたが、ライフルをまた担ぎ直し、そのままその木箱もとに向かう。


そしてナイフを取り出し、あまり深く刺さらないように木箱に突き刺し、開けていく



「一等兵殿!何をやっているでありますか!!」



そうして更に2発の銃声。焦ったのか一発外したらしく、金属と金属が打ち合わさる音が響いた。


あともう少しで開けられる。そんな時にナイフを持った手を掴まれた。


人間の手に不釣り合いなほど長く鋭く伸びた鉤爪が腕に食い込む


反射的にナイフから手が離れてしまったが、歯を食いしばり反対側の手でナイフを掴んだあと勢いよくナイフの切先をその喉元に振るう。


一切抵抗がなく、きれいに振り切れたあと、一瞬の閃光の後にそいつの顔が急な角度まで傾き、こめかみから紅の花を咲かせる。



「一等兵殿!早く!!」


「分かってる!」



焦りに包まれ、ナイフで慎重に開けることに焦れた俺は、切って開けた部分を手でつかみ、強引に引っ張る。


バキバキバキと強引に開けられた木箱の中から、薄汚い布に身を包んだ少女を見るや否や、その少女を引っ張り出して横抱きにしたあと、爆撃機の入口から飛び出す。



アーバン二等兵もそれに続いて、入口に手榴弾を投げ捨て、駆けてきた。


爆音と熱風。同時にその二つが自身に襲いかかってくる。



振り返りはしないが、後ろからライフルの銃声がまだ聞こえてくるので、走ることをやめられない


幸いなことに、銃声のおかげか戦車がすぐそこまで来ていた。


戦車長が直接マシンガンを入口に乱射している。


その間にアーバンが先に戦車に上り、少女を引き上げてもらった。


それに自分が続いたのを戦車長が確認したあと、ゆっくりと戦車が後退していく


それでも尚マシンガンは撃つのを止めない。車体が大きく揺れる。と、同時に視界が遠のき、耳が音を拾わなくなる。


急なことに体勢を崩してしまうが、しばらくしたあとに物凄い速度で大きな音が頭に響いてきた


何気なく少女の方を見ればアーバンが耳を抑えてくれていた。


ったく、真昼間だってのに・・・爆風が微かにこちらまで届いた。


さっきまで自分たちがいた爆撃機は、見事に炎に包まれていた。


そこから黒い影がいくつもこちらに駆けてくる。



速さが尋常じゃねぇ・・・こいつら、自動車を超えるくらい早い・・・


揺れる車体の上でかがみ姿勢になり、ライフルを構える。


ゆっくりと対象と自分が水平になるように銃を構え、銃口に取り付けられているアイアンサイトを対象の胴に合わせ、引き金を引く



風船が割れた音を更に大きくしたような音が響いたあと、またマシンガンの音が耳から続く


弾は運良く奴の眉間を貫いたようで、その姿は見えなくなったが、次々と煙や炎の中から別のやつが姿を現してくる。



悪態をつき、銃の筒の後部にあるボールのような部分を掴み、一気に引き下げたあと、勢いよく上げ、排莢したあと、先ほどの動作を逆に辿っていく


そしてまた水平に構え、サイトを胴に合わせたあと、引き金を引くが、弾はヤツのうしろに砂煙を作った。どうやら頭上を超えたらしい



マシンガン・排莢・マシンガン・照準・マシンガン・ライフル・マシンガン・射撃・マシンガン・命中・主砲・排莢・照準・射撃・マシンガン・命中



気が遠くなるほど作業と化した一連の動作は、マシンガンによって上半身と下半身を別れさせられたヤツを最後に終わったようだ。


他に敵影が見えないことを確認して、ホッとため息をついたあと、爆撃機の方を見る。



更に自走砲(ヴェスペ)からの砲撃が加えられて、無残になっていた。


あれで生き残っているヤツはもういないだろう・・・溜まり積もった緊張を吐きだし、ほぐす


そして、少女の方を見る


アーバンが少女の耳と目をカバーしていてくれたおかげで、何ともなさそうだが、アーバン自身の顔がもうダメそうだ



「・・・アーバン。あんがとよ。今度俺の行きつけのバーでも教えてやるよ」



そう言ってみたが、あいつは聞こえなかったようで、何の反応も返さない


無理もない・・・こんなに酷い爆音の中で、聞こえるのはよっぽど戦場なれしたヤツだけだ


だが、言っておきたかった。そして一人で大声で笑い転げていると、片足が動かせなくなっていることに気づいた。


それと同時に何かが地中から飛び出して、自分にのしかかると同時に両肩に鋭利なものが突き刺さる。



痛みと恐怖と驚きが混ざり、絶叫する。


ソイツは涎をふんだんに俺の服にトッピングしながら、牙だらけの口を喉元に近づけていく


そこからは、まるでスローモーション映像を眺めているようだった。


ゆっくりと近づく口。戦車長が驚き、マシンガンを構えなおそうとする。アーバンも驚きで動けなくなっていたが、彼が我に戻るよりも早く、少女が彼のライフルをぶん取り、撃つ


銃弾がのしかかっているヤツの頭を通過したが、火事場の底力でも発揮したのか意地でも離さないつもりでいる。


そんな奴に容赦なく喉元、背中、後頭部、腕と次々に風穴を開けていった。


そして、怪物は一声遠吠えをあげたあと、絶命した。



あの黒い液体が自分の軍服を染めていく。そしてその黒い液体が傷口に至った。


そこから、傷口に入っていく・・・自分の中に得体の知れない何かが入ってく


とてつもない嫌悪に鳥肌が立つが、体全体から力が抜けていき、徐々に楽になっていった。


なんだこいつは、とてつもなく気分がいい・・・


だが、それと同時に底知れない冷たさも感じた。


まるで遠く深く、何もないところにポツンと自分だけが置いていかれたような、そんな寂しさや冷たさ


そんなものを感じたまま、俺は気を失った。

この物語はフィクションです。実際に存在する人物及び・・・との関連性は皆無です。

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