談笑
「来てくれると思ってたよ。」
「・・・・・どうも。」
マックに着くと、淵の方の席でまたも優雅に腰掛けてポテトを食べているあの人の姿があった。
周りには殆ど人がいない。それもそうだなと思う。この辺りは田舎で、しかも平日で。大抵はドライブスルーとかお持ち帰りが多い為、店内で食べる人はほとんどいない。夕方になると学生が増えるくらいだ。
「あれ?お昼は・・・ってそういえば、さっきカレー食べてたね。」
「はい。」
私は手に持ったホットのカフェモカをテーブルに置き、反対側の椅子に座った。テーブルを見れば、ハンバーガー、ポテト、ナゲット2箱、コーヒーがトレイにのっている。・・・・意外と食べるんだなこの人。私は普通のセットできついくらいなのに。
「・・・・・こういうの、食べるんですね?」
「え?」
「・・・・お金持ちの人はマック食べないイメージだったので。」
ポルシェ、高級スーツに靴。とてもこんな所で食事をする格好ではないと思う。
そう言うと、面白かったのか目の前の人はぷっと吹き出して笑った。
「あははは、お金持ちねー。まあ確かにそうなんだけど、たまにはこんな所で食事するのも好きよ。ジャンクフードってたまに物凄く食べたくなるのよねー。」
「ああ、それはわかるような・・・・。」
私の家は厳しくて、カップラーメンは年に1度しか食べられないものだった。故に、私にとってはカップラーメンは御馳走だった。それはファーストフードも同じで、それも年に1度しか食べられなかった。最近になって自分でお金を払えるようになったり、昔ほど厳しくなくなったのでよく食べるようになったけれど。それでも私には毎日それはきつい。月に1回くらいでいいんだ、ほんと。
と、そこで私の懐かしい思い出は避けておいて。
・・・・・・?あれ?今、この人の喋り方・・・・。
「?なに?急に黙っちゃって?私何か変な事言っ・・・・ああ、これね。んもー、周りに人がいなくてやっと話せた!私本来はこういう喋り方なの。流石に貴方と初対面でこういう風に話しかけると不味いと思ってね、ちゃんと話してたんだけど・・・ああいう堅っ苦しいの苦手なのよねー。これが地、これが素よ。」
「・・・・・・・お。」
「お?」
「オカマさん、初めて見ました。」
そう言うと、この人は飲み込もうとしたポテトをひっかけ咽ていた。ごほごほ苦しそうに咳込んでいる・・・・いや、なんか笑って、る?
「しょ、初対面でここまで言う子初めて見たわ!あっはは、もー面白い子!!」
「は、あ・・・。」
「ああでも勘違いしないでよ。私は女装家とか男好きでもなくて、単にこういう喋り方なだけよ。女の子の方が好きだし、スーツとかのが好き。可愛い女の子に可愛い格好させるのは好きだけどね。」
「つまり、オカマさんじゃない?」
「そうよ。」
にっこりと笑う。・・・・笑顔も綺麗だなと思った。
女の子が男の子みたいに乱暴な言葉を使うのはよく聞くけど、実際に男の人が女言葉を使うのは初めて見た。けど、この人には違和感が全然ない。むしろ似合ってる気がする。
「ああそういえば。まだ名前言ってなかったわね。四ノ宮水月よ。年齢は秘密!3人兄弟の長男、宜しくね。」
「あ・・・葉桜弥生、です。3月に20歳になったばかりです。3人姉妹の・・・末っ子です。宜しくお願いします。」
お互い自己紹介をする。目の前の人・・・四ノ宮さん。名前まで綺麗だと思った。
「あら末っ子なのね。しかも女3人ばっかの。うちは男3人なんだけど、これがまあ煩くてね。よく喧嘩したもんよ。」
「女ばっかりでもしますよ。年が近いっていうのもあるけれど、3人が3人気が強いんで。」
「まあ女の子って男よりも大人になるのが早いからねえ。でも大人になるにつれて喧嘩は減っていくと言うけれど・・・相も変わらず私は末っ子とはよく言い争いになっちゃうのよね。」
「うちはだいぶ減りましたよ。とゆうより、喧嘩することがもう馬鹿らしいというか、何と言うか・・・。」
「やっぱり女の子は大人よねえ。男はいつまでたっても馬鹿のままで一生を終えるから。」
・・・・この人も女言葉使ってるけど男だよな。けれどまあ、男という生き物は馬鹿だと言う事は知っている。
単純で、へ理屈で、馬鹿で。ああ、最近は女々しいとかも入るのか。男なのに女々しいって。
私の家の女性は、というか女系は全員が全員さっぱりとしている性格だ。男らしいというか、あまり女性らしくは無い。
故に女姉妹全員未だ未婚だし、そもそも結婚に興味がない。どちらかといえば仕事の方が好きな部類だ。
昔なら絶対にそんなことは認められていなかったが、現代では男女平等。とゆうか寧ろ女の方が仕事できるんじゃないかと私は思っている。政治家が半分女ならば、日本の未来だって明るくなると思うけれど。
「・・・・と、ついつい脱線しちゃったわね。こんな世間話してごめんね?」
「いえ、別に・・・。」
「じゃあ、ここで本題に入りましょうか。ねえ弥生ちゃん。」
いきなり下の名前で呼ぶのかよ。と突っ込みたくなったが、それでは本題に入れないので、ここはスル―して「はい?」とだけ答えておいた。
「うちのお店で働く気は無い?」
「・・・・・・・。・・・・・・・は?」
危ない、思わず飲んでいたカフェモカを落としてしまう所だった。私は静かにそれをトレイに置き、今一度言われた言葉を頭の中で復唱する。
『うちのお店で働く気は無い?』
お店・・・・如何せん妄想力豊かな為、どうしてもそっち系のお店を想像してしまう。
そんな私の気持ちを察してくれたのか、四ノ宮さんは慌てて言葉をつづけた。
「あ、誤解しないでね!何もオカマバーとかキャバクラの勧誘じゃないから!!ふっつーのお店!貴方が今働いているような喫茶店・・・カフェで、働く気は無いかってこと!」
「・・・・言い方が物凄く紛らわしいですよ・・・。」
「ごめんねー、よく言葉が足りないって睦月にも怒られるのよねー・・・。私としてはそれで通じると思っちゃってるから。」
「えっと、何でしたっけ・・・・カフェ?ですか?」
項垂れている四ノ宮さんにそう聞くと、「そう!」と勢いよく頭を上げた。急に上げると首の筋肉とかによくないんじゃないだろうか。
とゆうより、明らかに言葉が足りなすぎるだろう。もし周りに人がいて会話を聞いていたのなら、100パーセント風俗の勧誘だと思うに決まってる。そしてそれが近所の人ならば「やだ、こんな田舎でそんなお誘い・・・しかもあれ葉桜さんとこの弥生ちゃんじゃない!?やだ、あの子そんな所で働く気なの!?」というおばさんの勝手な妄想から周りに回ってうちの評判が悪くなる・・・。・・・・この短時間でここまで妄想できる自分もすごいな。
「実は、私の弟・・・二男なんだけど、お菓子作りが物凄く上手でね。試しにフランスの大会に出てみたらこれが優勝しちゃって。」
「凄すぎません、それ・・・?」
「そう、凄いのよ。名だたる名店が出てる中素人が優勝しちゃったんだから。それで自信もついたのか、カフェがやってみたいって話になって・・・。昔から夢だったのよ、私と睦月の。あ、睦月ってのは二男のことね。それで私が場所とか探して、睦月はメニュー考えたりして・・・。そして、ようやく見つかったの!私達のお店が!」
「はあ・・・。」
何だろう、このテンションの高さは。
けれど睦月さん・・・二男さんか。優勝って凄すぎると思う。フランスの大会って世界的にも有名だし、そこで優勝したってことは世界が認めたってことだ。それだけ凄い事ならニュースになると思うけれど・・・そんなニュースやってたっけ?
「場所は見つかった、メニューはほぼ決まった。後は従業員とコンセプト。」
「コンセプト。」
「お店のテーマ、イメージってところね。唯のカフェをやるのはつまらない。沢山の人が来てくれて、笑顔になってもらう。しかも新しい。悩んで悩んで・・・・出した結論。ずばり!『不思議の国のアリス』よ!」
「・・・・・・・ん?」