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cafe wonderland  作者: 天草暦
18/19

禁止

「おいしい・・・・!」

「こっちのプレートも全部美味しいよ!見た目も可愛いし、味もいいって最高過ぎるでしょー!」


お昼時。やはりオープン初日というのもあって、ランチタイムの時間も嬉しい事に満員状態だった。

ちなみに今日のプレートランチはカニクリームコロッケで、付け合わせに色鮮やかなサラダとトマトソースのパスタ付き。

これにドリンクとプチデザートがついて800円。この辺りのカフェだと結構お手頃な価格だと思う。

他にも美味しそうな香りがそこら中から漂ってくる。・・・さっきご飯食べたばっかりだけど、なんだか食べたくなってきてしまった。まだお腹いっぱいだから無理だけど。


「ジャック、カレーランチとプレートランチ。」

「了解。」


カウンターから蓮さんに呼ばれ、カレーとプレートをお盆に載せて目的のテーブルへと運ぶ。

朝からずっと女性ばっかりだったけれど、お昼時になるとカップルの人たちも増えてきた。まあ大方彼女に連れてこられた、みたいな男の人が多いんだろうけど。今私が持っていくのも同じ年くらいのカップルだ。


「カレーと、プレート。」

「ありがとう!」

「うまそー・・・あれ?これなんか普通より量が多い様な・・・。」

「男の人だから、ちょっと大盛りにやってくれたんじゃない?そうでしょ、ジャックちゃん。」

「・・・・帽子屋の考えている事なんて知らない。」

「あ、そっか。ジャックちゃん女王様と王様以外は嫌いなんだっけ・・・・。」

「いや、でもありがと。」

「・・・・・。」

「・・・・あれ?俺は無視されてる・・・?」

「しょうがないよー、ジャックちゃん男嫌いなんだもん。」

「滅びればいいと思う。」

「それ俺を目の前に言っていいのかな!?」

「・・・・・。」

「シカトだ!うう・・・・でも俺、クーデレ嫌いじゃない・・・・。」

「もー、あんたの好き嫌いどうでもいいの!食べよ食べよ!ごめんねージャックちゃん、引きとめて。」

「・・・また何かあったら呼んで。」


そう言って、その場を離れる。・・・・ううん、こんな感じでいいのだろうか。まだ誰も「何だその態度は!」みたいな人はいないけど・・・むしろ「もっとツンを!」とも言われてしまったけど・・・。

と、どん、と軽く誰かとぶつかってしまった。見上げると、楽しそうな奏さんの姿があった。


「おっと、ジャック悪い悪い。」

「・・・・・っち。」

「舌打ち!?ひっどいなージャック、もうちょっと仲良くしてくれても良いのにー。」

「・・・・くたばればいいのに。」

「いや、小声にしても聞こえてんぞー。」


そのやり取りを見ていたお客さんから笑い声がもれる。それなりにうけたらしい。

常日頃奏さんと練習してただけあって、それなりに息のあった掛け合いは出来るようになってたから、嬉しい。

私と奏さんは目を合わせ、心の中でこっそりとハイタッチした。

そうこうしている内に14時になり、ランチタイムは終了。この後14時半から16時半まではティータイムの時間に入る。

その間に再び休憩が入るのだ。休憩の時間には睦月さんのデザートが待ってる。これを励みに頑張っていこう。

そしてティータイムの時間になる。基本、皆の目的はあれだ。


「アフタヌーンティーセット。お待たせ。」

「おおおお、これよこれ!夢にまで見たアフタヌーンティー!」

「うっわー、サンドイッチとかケーキとか一杯のってる・・・!幸せ・・・!」


そう、イギリスと言えばこれ。ティースタンドにサンドイッチやケーキ、プリンやクッキーなどがのせられているアフタヌーンティーだ。ちなみにお値段は紅茶付き(紅茶が飲めない人用に、一応コーヒーとかにも変えれるようになっている)で1000円である。

私も今実際目にして感動していた。夢にまで見たアフタヌーンティー、一度は食べてみたかったものだ。

3段あって、一番下にハムとレタス、卵がはさまったサンドイッチ、真ん中にチーズケーキやチョコレートケーキ、一番上には焼きプリンやクッキー。勿論スコーンも。これら全て睦月さんが作ったものだ。・・・美味しそう。


「えっと・・・これってどこから食べればいいんだっけ?」

「ジャックちゃん、なんか作法とかってある?」

「普通は、一番下のサンドイッチから食べていくけど。ここはイギリスとかじゃないから好きなところから食べればいい。」

「へー、そうなんだ・・・。」

「んー・・どれも美味しそうだけど・・・好きなのからいくか!」

「だね!」


本来アフタヌーンティーは下のサンドイッチから食べていく、らしい。本で一応勉強はしたけど。

けど格式高い所じゃなければ好きなのから食べていっても全然構わない。cafe wonderlandはお客様はアリスなわけだから、アリスの好きなようにすればいいのだ。


「ジャック、休憩だって。」


と、後ろから肩をたたかれ声をかけられた。振り返ると先に休憩に入っていた悠里の姿があった。


「そっか、いってくる。」

「ゆっくりしてきなよ。」


悠里と変わるように私も休憩に入る。ちらりと壁にかかった時計を見れば、もう3時半だった。あと2時間半・・・。なんだかあっという間なような気がした。

休憩室の扉を開ければ、そこにはぐったりと疲れ切って項垂れている春君と秋君の姿があった。・・・生きてる?

恐る恐る近寄っていくと、2人は私に気付いたようでゆっくりと顔を上げる。


「お疲れー、弥生・・・。」

「2人とも、疲れてるね・・・。」

「まーねー。僕ら、言ってしまえばこんなの初体験なわけだからさ。」

「慣れる日が早く来るといいんだけどねー。」

「2人なら、大丈夫だと思うけど・・・。」

「「どの辺りが??」」

「えっと、何て言えばいいのかな・・・。う、上から目線だったらごめんね。」

「いやいや、気にしないからだいじょぶだって。」

「で、なになに?」

「水月さんのレッスン、ちゃんと出来てるし。お客さんとの会話も上手だし。初めてとは思えない位上手だよ、2人とも。だから、もっと自信つけていいと思う。・・・・正直私より出来てると思うし。」


朝からずっと心配で見ていたけれど(勿論悠里も)、初めてとは思えない位だった。作法とかもちゃんとしてたし、双子の掛け合いがお客さんにうけていたし。まあ設定が殆ど普段の2人と変わらないんだけど。

私が生まれて初めてのバイトの時なんて、それはもう酷いものだった。水月さんがやってくれたみたいなスパルタレッスンでもやっていれば話は別だったんだろうけど・・・・いきなり始まったからなぁ。

とゆうか、あの頃の私ならそのレッスン受けてたらもうバイトやろうとか思わなかっただろうな、うん。


「・・・・それってさー弥生。」

「うん?」

「もしかしなくても、すっごい褒めてる?」

「褒めてるよ。むしろ凄いと思ってるし・・・。」


そう言うと、秋君と春君は顔を見合わせ、物凄く嬉しそうに笑った。その笑顔を、私にも向けてくれる。


「ありがとー、弥生!」

「なんか、ちょっと疲れぶっとんだ!」

「・・・・ならよかったけど・・・そういう笑顔は私よりもお客さんに向けた方が喜ばれるかと・・・。」


唯でさえ顔が整ってる双子が一気に微笑みかけたら、確実にノックアウトされるだろう。私も思わず照れて顔を背けてしまった。・・・・美形ってずるい。

私の言葉にそこまで喜んでもらえるとは思わなかった。まあ誰だって褒められたら嬉しいものだけど、さ。


「それより!弥生デザート食べないの?冷蔵庫に冷やしてあるよー。」

「僕らもまだ食べてないんだー、早く食べようよ。」

「あ。そうだったね、一体何が・・・。」


3人で冷蔵庫に向い扉を開ける。「好きなの選んでね。ただし一つのみ。」と書かれた紙が貼ってあるサランラップに撒かれたトレイの中には、色鮮やかなプリンが入っていた。赤色、緑色、黄色・・・・どれも冷えてて美味しそうだ。


「・・・・・どれにしよう・・・。」

「全部美味しそうだから迷うよねー、これ。」

「僕緑ー。抹茶かな、色的に。」

「ちょ、春早くない?」

「秋と弥生が優柔不断すぎるんだよ。早く決めないと休憩終わっちゃうぞー。」

「んー・・・じゃあ僕黄色。弥生は?」

「・・・赤にする。」


春君が緑、秋君が黄色、そして私は赤色のプリンを選び、席に戻って口に入れる。

冷たくて、尚且つ滑らか。甘すぎないプリンは絶品だった。甘酸っぱさが広がって、これは苺だということが分かる。

正直プリンってそこまで美味しいのって見た事が無かったけど、これは美味しい。酸味があるから、何個でも食べれてしまいそうだ。・・・・・幸せだなぁ。

と、横からふと視線を感じた。左を向くと、秋君がなにやら私とプリンをじーっと見つめている。


「・・・・・どうしたの?」

「んー?幸せそうだなーと思って。ねえ春。」

「僕ら長年生きてきて、弥生みたいな人見た事無いよ。」


右から春君も参戦してくる。長年、って君らまだ19年しか生きてないんじゃ・・・。

と、いまだにじっと見てくる秋君を見て、一つの考えに至った。私はプリンをスプーンですくい、秋君の方へと差し出す。


「え?」

「・・・・あれ、一口欲しかったんじゃないの?」

「・・・・僕弥生みたいに食いしん坊じゃないんだけど・・・。」


違ったようだった。だってずっとプリン見てくるから、苺の方が食べたかったのかと思って・・・。

この差し出した手が異様に恥ずかしくなってきた。うん、早く引っ込めよう。そう思った瞬間、秋君に手首を掴まれ、スプーンに載っていたプリンをぱくりと食べた。


「まあ、もらうけど。あ、苺うまい。」

「・・・・やっぱり欲しかったんじゃない。」

「・・・・・うん、そういうことにしておいて。」

「あー、秋ずるい!弥生、僕にも頂戴?抹茶一口あげるから。」

「うん、いいよ。」


さっきと同じように、一口すくって春君にも差し出す。楽しそうに春君は口に運んだ。

・・・・何だろう、なんか可愛い。餌付けしてる気分って、こんな感じなんだろうか。


「うまっ!じゃー、弥生、口あけて。はいあーん。」


春君がさっきと同じく緑色のプリンをスプーンにすくって私の方へと差し出した。私も同じようにぱくりと頂く。・・・うん、抹茶もおいしい。抹茶はちょっと苦味があるけど、それがプリン自体の甘さと絶妙にマッチしていた。


「・・・弥生、マンゴー食べる?」

「もらう。」

「即答!やっぱ食いしん坊じゃんねー。」


秋君からもマンゴー味を一口もらう。うん、美味しい。その勢いで皆で綺麗に完食。まさかの全種類制覇してしまった。


「弥生ってさー、こういうの平気なんだね?」

「何が?」

「何って・・・こういう一口頂戴、とか。」

「?それ普通じゃないの?」

「まー・・・女子には普通だよね。男であんまこういうのやんないからさ。」


そういえば、確かに言われてみると男の人達で一口頂戴、とか変えっこしない?っていう光景は見た事が無い気がする。

女の人はよく全員違うもの頼んでシェアしようよ!みたいな流れになる事が多いので、それが当たり前のことのように思っていたけど・・・そっか、違うんだな。


「・・・・次からは気をつけるね。」

「いや、別に気をつけることはないんだけど。」

「でもね弥生、それあんまり男の人相手にやったら駄目だよ。」

「?何で?」

「・・・・・え、それ本気で言ってる?ねえ、これ本気トーンだよね秋。」

「弥生ってさー、結構天然?たらし?」

「何でたらしになるの・・・・?」

「・・・無自覚ですな。」

「ですな。とにかく弥生、気心知れた人以外には、それ禁止。」

「え、え?」

「「禁止」」

「・・・・・はい。」

「さ、休憩代わりに行きますかー。」

「あとちょっとだねー、最後まで頑張ろーね、弥生。」

「うん、だね。」


次の人と交代するために、私達はホールへと戻る。

・・・・「禁止」と言った時の2人が、私にはヒール靴を注意された時の睦月さんと同じように見えた。何なんだろう、あの絶対に逆らっちゃいけない感。

けど、どうして禁止なのかはいまいちよく分かっていない。・・・・衛生面?

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