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cafe wonderland  作者: 天草暦
11/19

完成

6月27日、午前9時40分。私はN駅に到着した。

前に行った道を進む。平日なので、土曜日の様な人だかりではなかったが、やっぱりそこは都会。それなりの人波をかき分けて、あの横断歩道へ。またもや信号は赤だったので、待つ事になった。

辺りを見渡してみたが誰一人姿は見えず、少し寂しい半面、悠里が迷っていなくてよかったという安心感もあった。

あれからおよそ1カ月。私は言われた通り家でもヒール、外でも出来るだけヒールというのを繰り返した。睦月さんに言われていた通り、膝や足首に痛みを少しでも感じたら履くのを止めるようにもした。おかげさまで、歩く姿も綺麗に見えると言われたし(家族や友人に)、以前よりは痛みも少なくなってきた。4,5時間くらいなら余裕で立っていられそうだ。

勿論今日もヒールだ。ただ、動きやすい格好と言われていたので、替えのスニーカーは一応持ってきたけれど。

6月後半になると流石に暑いので、今日はヒールの高いサンダルを履いてきた。これも美里と一緒に買いに行ったものだ。(バーゲンで2,000円。安いのはよくないと言われているが、案外ちゃんとした作りなのでそんなに靴ずれもない)

信号が青に変わる。周りにいる人達と共に、私も歩き始めた。

横断歩道を渡り、脇道へ。道はビルの間にあるので、日陰になっていて気持ちが良かった。

脇道を抜けると、そこにあったのは以前工事用の幕はもうなくなっており、代わりにおとぎ話に出てくるような、可愛らしい家がそこにはあった。

近付いてみると、檻のような門がある。辺りはレンガで囲まれており、ちょっとやそっとじゃ中を覗けない高さだ。

どうしよう。勝手に入ってしまってもいいのだろうか。水月さんはここで待ち合わせと言っていたが・・・。


「・・・・何突っ立ってんだ?」


突然後ろから声をかけられた。驚きつつ振り返ってみると、そこにいたのはスーパーの袋を片手に持った蓮さんの姿があった。よく知った顔を見て少し安心する。蓮さんなら、ここまで来てどうすればいいか分かっているかもしれない。


「あ、えと。おはようございます。は、入っていいんでしょうか?」

「いいに決まってんだろ。ほら、行くぞ。」


そう言うや否や蓮さんは門を開けて普通に入って行ってしまった。慌てて私も後をついていく。と、門が開きっぱなしになっていたので閉めるのも忘れずに。きぃ、と金属がこすれ合う音が聞こえた。

中に入ると、そこはまあ、庭園と駐車場だった。門から入って左側が駐車場、右側にはまるで漫画やアニメに出てくるような、バラ庭園があった。いや、バラかどうかはまだわからない。ちょっと遠いし、赤い花が咲いてるのは見えるがそれがバラなのかどうか。

そして、私の目に飛び込んできたのは、とても可愛らしい、とても大きなカフェだった。

入口の扉は木で出来ており、ドアノブが丸く可愛らしい。カフェ自体は茶色と白で統一しているようで、壁には蔦がからまっている。扉の傍には鳥かごやらアンティーク調の置物まで置いてあり、その傍にはカフェボードが置いてあった。(まだ何も書かれてはいない)

少し意外だった。不思議の国のアリスをテーマにしてるくらいだから、お城とか、はたまた赤やピンクの暗い感じをイメージしていたから。外見は、オシャレで隠れ家的存在のカフェにしか見えない。まあ隠れ家にしては広すぎるけど。

一言感想を言えば、素敵だった。こんなカフェが近くにあったら通いたくなるような、そんなカフェだ。


「すご・・・・。」

「・・・・まあ、感心するよな。」


蓮さんのその一言で、はっと我に変える。そういえば、一人ではしゃぎすぎて蓮さんの存在をうっかり忘れていた。

とゆうか、あまりにも私がずっと見ているのでてっきり置いて行かれたと思ってたが・・・意外にも、蓮さんはずっと待っていてくれたようだ。態度はそっけないが、案外優しいのかもしれない。


「やっぱ、女はこういうの好きなのか?」

「まあ、それなりには。こういう絵本の中に出てくるのようなのは、憧れますし。男の人はそうでもないですよね。」

「そりゃそうだろ。男でこんなの好きなのはあの店長くらいなもんだ。」

「ああ、確かに・・・。」


水月さん、こういうの大好きそうだもんな。おかまだし。

もうそろそろいいと思ったのか、蓮さんが「行くぞ」と言うので私もついていき、ようやくカフェの中に入った。

ぎい、と扉が開かれる。木だから重いのかなと思ったら、意外と軽かった。

中に入って、また感心する事になる。中も白と茶色で統一されており、大きな窓がいくつかあって、そこから光が差し込む。

アンティーク調の椅子とテーブル。テーブルには白のクロスがかけられている。壁には絵画やいくつかの時計が飾られていた。その時計はどれも時間はあっていない。天井から下げられているランプは、丸くて可愛らしい。ほのかなオレンジ色の明かりが目に優しかった。ざっと見渡してテーブルが10、それからカウンター。広いスペースを利用して、ゆったりくつろげるよう席と席の間隔が広めにしてあった。せまいとやはり窮屈だし、圧迫感を感じる為長居をする人が少なくなるらしい、と前にテレビで喫茶店特集をやっていた時に知った。


「あ、やよ。おはよ。」


と、既にカフェの中には水月さん、睦月さん、悠里の姿があった。その言葉に私も「おはよう」と返事を返す。


「水月さんも、睦月さんもおはようございます。」

「おはよう。」

「おはよ。さてこれで後は双子ちゃんと奏君だけね。後10分、って。10分前行動厳守!って言っておけばよかったかしら。」

「案外道に迷ってたりしてね。」

「・・・・悠里じゃあるまいし。」

「やよ!?」


その時、後ろの扉が開かれる音がした。振り返れば、噂していた3人の姿。奏さん、秋君、春君の姿だった。

3人ともが声を揃えて「おはよー」と挨拶したので、私達も返す。これで、全員集合だ。


「いやー・・・しっかし驚いたね。こんな広いなんて。」

「そう?カフェってこれくらいじゃないの?」

「だよね。僕らの部屋これくらいの広さあるし。」

「・・・・お前らどんだけ金持ちなん。」

「はいはい、そこまで。じゃ、全員揃ったところでまずはカフェの中の案内でもしましょうか!」


言って、「こちらでーす!」と何やら旗を持ったガイドさんの様に水月さんが歩いて行くので、私達も付いていく。実際手に持っているのはバインダーなんだけれど。

カウンター横には扉が二つあって、一つは「WC」と書かれた札が付いており、一つは「STAFF ONLY」と書かれた札が。片方は言わずもがなお手洗いだと分かるが、もうひとつは・・・スタッフ専用の何かがあるのだろうか。

水月さんは「STAFF ONLY」の扉を開ける。中に何があるのか、少しだけわくわくした。


「この左の扉の向こうは、貴方達の休憩所と着替え室があるわ。お手洗いは右の扉に一つ。さ、入ってみましょうか。」


そう言って水月さんは左側の扉を開ける。中は、シンプルな長テーブルとイスが4つ。辺りにはテレビや冷蔵庫、パソコンなどがある。その向こうにも扉があるので、向こうが着替え室だろう。

と、そういえば気になった事があった。外から見たとき、この建物は2階建てだった。けれど、今までざっと見渡して、上に行く階段は一つも無かった気がする。もしかして、外から上がるのだろうか。気になったので、水月さんに聞いてみる。


「あの、水月さん。」

「ん?ああ、そうそう。弥生ちゃんの着替え場所は別よ?2階にあるから、そこで着替えてもらうわ。」

「え?」

「2階は私と睦月の家でね、外からしか上がれないから弥生ちゃんにはちょっと大変かもだけど。階段を上がると二つ扉があって、一つは白。一つは茶色の扉。弥生ちゃんは茶色の方に着替え室があるから、そこで。まあ、後で案内するけれど。」


質問の回答はもらえた。やはり、2階に上がるには外からしか無理らしい。とゆうか、やっぱり住むんだなと思った。

私の働いていた喫茶店も2階はマスターたちが住んでいた。個人経営の店は、基本2階は住まいになる事が多いらしい。だから今回ももしかしたらそうなのかと思ったけど・・・まさか当たったとは思わなかった。

まあ前にも誰かが住んでいたんだから、住めない事は無いとは思うんだけど・・・。水月さんの様なお金持ちの人が、これくらいの広さじゃ満足できないんじゃないかと思うくらいだ。さっきも秋君と春君、部屋と同じくらいって言ってたし。


「・・・・でも、着替え室って別に一緒でいいんじゃ。」


そう言った瞬間、周りの人たちは全員固まってしまった。・・・そんなにおかしい事をいっただろうか。

わざわざ私一人だけの着替え室を準備しなくても、注意さえすれば全員同じ部屋で着替えればいいんじゃないか。という事を言うと、全員が全員呆気にとられたように私を見た。


「・・・弥生ちゃん、貴方性別は?」

「一応女です。」

「いや、やよ女の子だから・・・。それじゃあ、僕らは?」

「・・・・男の人でしょ?」

「・・・・そこまで分かってんなら分かるだろ。」

「やよちゃんってさー、女子トイレ混んでると男子トイレいけちゃうタイプの人?」

「したことはないですけど、非常事態の場合はそうするでしょうね。だって見なきゃいいんだし。」

「うっわあ・・・ほんとすごいね弥生。」

「え、じゃあ僕らの着替えも見なきゃいいってこと?」

「・・・そもそも、例え全裸見ようが私何とも思わないし。興奮もしないよ。・・・・おかしい?」

「「うん、それはもう。」」

「まあ俺は一緒でもいいけどね!うっかりぽろり的な何かが・・・!」

「奏君はちょっと黙りなさい?」

「・・・・・さーせん。」

「とにかく!弥生ちゃんの着替え室は2階!決定事項!女王様命令!」


びし、と指を突き付けられてそう言われた。人に指さしちゃいけないと思うんだけど。

しかし、そうか。私おかしいのか、とも思う。でも、普通たかが男の人の体見て興奮しないと思うんだけど。

それがまあ好きな男の人ならば多少変わるかもしれないけれど、別にたいして興味が無い男の人の体なんて見たって何とも思わない。それに、私多分平気で着替えれるかもしれない。

そういえば、前にこういう話を美里にしたら「・・・・あたしが言うのもなんだけど、あんた女子力低すぎない?とゆうか、もう少し自分を女扱いしなさいよ。」とドン引きされた覚えがある。ああ、私いま全員にドン引きされてるんだろうか。

けれど私には、自分が言った事が間違っているとは思えないし。・・・これが、女子力が低い、ということなのか。

とゆうか、彼らだって別に私ごときに裸を見られたってどうってことないだろう。これが絶世の美少女だったりしたら話は別だが、普通の少し女子力の低い私なら、そう構える事も無いと思うけど。


「それじゃあ大体案内を終えた所で・・・着替えてもらいましょうか。」

「え、早速ですか?」

「そりゃもう。男性陣は各ロッカーに名前が書いてあるから、そこにある衣装を着なさい。今日はメイクとか髪型のセットは良いから。とりあえず着て、もしサイズが合わないようなら言ってちょうだい。弥生ちゃんは私と2階行きましょうか。」

「あ、はい。」


こうして、私は水月さんと共に休憩室から出た。休憩室と従業員専用トイレの間には物が置かれた棚と扉があり、どうやら裏口の様だった。そこから外へ出ると、辺りには木が生い茂っていた。見れば、もう一つ門がある。


「あれはね、従業員用入口。私達は全員裏から入る事になってるから。さ、こっちよ。」


従業員専用の入口は入口のよりだいぶ小さい門だった。まあ、従業員しか入れないしな。

後をついていくと、確かにそこには階段があった。登っていくと、水月さんが言っていた通り茶色と白の二つの扉がある。水月さんに促されたので、茶色の扉のドアノブに手をかけて、開ける。

中に入ると、そこは小さな屋根裏部屋のような感じで、タンスが一つと大きな三面鏡のついたドレッサーと、スタンドミラー、床は可愛らしい花柄の絨毯が敷かれており、壁にも小さな花柄が。何と言うか、凄く可愛らしいお部屋だった。

私は靴を脱いで上がる。水月さんもそれに続いた。


「ここが貴方専用着替え室よ。内側からカギをかけれるから、着替える時はちゃんと施錠するように。着替えはその中に入ってるわ。」


その中、とタンスを指さされる。不安と楽しさが半分入り混じった気持ちを持ちながら、私はタンスを開けた。

そこにあったのは、一つの衣装。赤と黒で統一された、とても可愛い服だった。私はそれを手にとる。


「えっと、これですよね?」

「そうよ。あ、そっか着替えるなら私邪魔よね。外に出てるから、着替え終わったら言ってくれる?」

「ちょ、待ってください!」


出て行こうとする水月さんを必死で引きとめる。水月さんは何事かという顔で私を見た。


「・・・・弥生ちゃん、いいから女の子の自覚を持って・・・。」

「いや、あの。着方が、分かりません。」

「へ?」


コルセットやら無駄に大きいかぼちゃパンツやら、髪飾りまであるがこうした格好をした事が無いので全く分からない。

下で男性陣が着替えている訳だし、私が支度に手間取って待たせるのは申し訳ない。


「・・・・流石に、最初から着つけさせる訳にはいかないから、とりあえずそのシャツとかぼちゃパンツだけ履いたら呼んでくれる?コルセットは流石に誰かにつけてもらった方がいいものね。そうしてくれるかしら?」

「お願いします。」


そう言うと、水月さんは「じゃあ、扉の向こうで待ってるわね」と告げて外へ出た。

残された私は、まあやれるだけやってみるしかない。とりあえず服を脱いで、新しい制服に袖を通した。

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