幼なじみ(愁)前編
やっと稟と思いを伝え合う事が出来た。
(尤も、まだ彼女の口から好きだと言われてはいない・・)
思えば幼稚園の頃、あまりにも可愛らしい稟に一目惚れした俺。
何とか俺だけを見てくれるように幼いながらも知恵をしぼり、邪魔者を葬りながら常に稟の横に居続けていたんだ。
その甲斐があって、今朝は念願の「二人でラブラブ恋人繋ぎ」をしながら登校した。
幸せ全開っ!
て顔の俺とは対照的に、稟は顔を真っ赤にして俯きながら歩いていた。
又それが本当に可愛いんだなぁ。
そんな事を思い出しながら昼休み、稟のクラスへと急ぐ俺に後ろから声がかかる。
「オイ!
たぁ・かぁ・みぃぃ!
どう言うつもり?
ちょっと顔貸しなさいよ!!」
はぁー。。
やっぱり来たか。
そう観念して振り返ると、凄まじい形相で俺を睨みつけている女子生徒が一人。
新堂 葵
俺と稟にとっては幼稚園の頃からの幼なじみだ。
コイツも稟の事が大好きで、いつも俺の邪魔ばかりしてくるうざい奴。
今も頭から湯気を出したみたいに怒ってる。
多分今朝の俺達のラブラブ振りが伝わってるんだろう。
「何なのよあんた。
昨日、私が委員会で離れた隙にやってくれたわね。」
ドスの効いた低い声で威嚇したって少しも恐くなんかない。
俺は余裕の笑みで新堂に伝えた。
「あのさ。
お前が何と言おうと俺達は離れないぜ。
もういい加減に諦めろよ。」
すると新堂は、もう我慢出来ないというように詰め寄ってまくし立てた
「あんたは何にもわかってないのよ。
あんなに目立つ事をしたお陰で、稟がどれだけあんたのファンって子達にあたられてるのか。
本当に稟の事が好きだって言うならアイツらを何とかしなさいよ!」
そう言うと、足音も荒く去っていった。
その後ろ姿を見送りながら呟く。
「そんなの分かってるさ・・・。
だけど俺は、稟を絶対に離さない。
絶対にだ。」
気持ちを切り替えて稟の所へ急ごうと歩き出すと、又も呼び止められる。
「愁君。お話があるんだけど、ちょっといい?」
同じクラスの森口紗耶香だ。
彼女のお陰で俺達は前へ進んだと言えなくもないんだが。
媚びた目で見つめられるのにはウンザリする。
ってか。
ただのクラスメートなのに何で「愁君」なんだ?
イラッとした俺は、つい冷たい口調になってしまう。
「話って何?森口さん。
俺急いでるんだけど。」
しかし森口は慌てた様子もなく話し出す。
「ごめんなさい。
私、今朝愁君が城之崎さんと一緒に登校して来たって聞いて・・
愁君は優しいから、城之崎さんに言われて仕方なくだったんでしょう?
いくら幼なじみだからってそれは無いわよね。」
「へ?」
コイツ何を言ってるんだ?
ポカンと口を開けてまじまじと顔を眺めてしまった俺に森口は言葉を続ける。
「だからね、私思ったの。
明日からは私が一緒に居てあげればどうかなぁって。
私なら、城之崎さんよりも愁君に釣り合うんじゃないかしら。」
俺は心の中で大きく溜め息をついた。
俺に近づいて来る女は大体、自意識過剰な馬鹿が多い。
その中でもこいつは飛び抜けてるよな。
変に感心しながらもハッキリ言ってやろうと口を開く。
「全然意味が分からない。
あんたさぁ。
自分が何を言ってるか分かってんの?
言っとくけど。
俺の稟はあんたなんかとは比べ物にならない位、顔も心も綺麗なんだよ。
それに反対。
稟が俺に頼んだんじゃなくて、俺が稟とは一時も離れたくないんだって事。
分かった?
分かったらもう俺には話しかけないでくれ。」
そう言うと、背中を向けて足早にその場を立ち去った。
だから気付かなかったんだ。
一人残された森口が歪んだ微笑みを浮かべていたのを。