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おさな馴染み(稟)

放課後



誰も居ないガランとした教室の中



気がつくと愁と抱き合っていた私。



なんでまたこんな事に?





高見 愁と私、城崎 稟は幼なじみの同級生。



家が近所だったから?


はたまた両方の母親同士が親友だったせいからか、私と愁は昔から仲が良かった。



幼稚園の頃から愁は本当、女の子みたいに可愛くて泣き虫だった。



今から思うと、可愛いい愁を他の子達は構いたかったんだろうけど。


本人にとっては嬉しくはなくて、私の傍にピッタリとくっ付いてばかりいた。



「僕、稟ちゃんしか好きじゃない!」


って言いながら泣きじゃくっている愁が可愛くて護ってあげたかった。



結局幼稚園、小学校、中学校と毎日一緒に登校していたんだけど、それを別におかしいとは思っていなかった私はずいぶん世間知らずなんだと思う。



それでも流石に、高校生になるとそれは普通ではない事に気がついた。



登校初日、いつも通りに愁と二人で登校した私に、何人もの女の子達が詰め寄ってきた。



「城崎さんは高見君と付き合ってるの?」



「城崎さんって、何で高見君とそんなに親しいの?」等々。



その度に彼女ではないだとか、幼なじみなんだとか一々説明している私って何なんだろう?



愁に怒って言うと、人事だと思ってクスクス笑うけど、私にとってはすごく大変な事だったんだ。



結局、それからは愁と二人で登校することは無くなった。



愁は最後までゴネてたけど、私はどうしても譲れなかったのだ。



愁との関係を聞かれた時に、彼女達が見せたあの表情が深く私の心に刺さったから・・・



中には言葉にしてた子もいたっけ。



「ヤッパリねぇ。

あなたみたいなメガネっ子、彼女のわけがないかぁ。

ごめんなさーい。」




・・息が出来なかった。


私はみんなから見て、愁の傍に居るには相応しくないんだ。



それからは愁を避けてしまう私が居て・・



何よりクラスが別々の私達は、それっきり話はおろか家に戻ってからでも顔を合わす事が無くなった。



愁と疎遠になっちゃった私だけど、何故か彼についての噂話はよく聞こえて来る。



愁の整った顔がステキなんだとか。



そんなにペラペラ喋る方ではないけど、女の子にはいつも優しくて相談事にも親身に応えてくれるらしい。



ふーん。


いいんじゃない?


私には関係ないから。



そんな風に思う様にしてた。



今日、クラス中を一つの噂が駆け抜けるまでは。




森口 紗耶香さん


愁と付き合う事になったと言われている子だ。



二人は毎日一緒に帰っているらしい。



愁とは同じクラスで、一年生の中で一番可愛いって言われてる。



スラッとした抜群のプロポーション。



すこーしだけ色を落とした髪の毛をくるんとキュートに巻いて、パッと見分からないくらいのナチュラルメイクが似合う女の子。



要するに、あんなにうるさかった女の子達を黙らせる程二人はお似合いってこと。



そっか・・・。


どうしたんだろう?


心の中がワサワサしてる・・





そして、その日の放課後

噂の二人は仲良く並んで玄関から出て来た。



ボンヤリと自分の席から外を見ていた私は、偶然二人が玄関を出て歩いて行くのを見てしまった。


あぁ。噂は本当だったんだ。



愁の横に私以外の人間がいるなんて・・



食い入るように二人の後ろ姿を見つめていた私は、自分の頬が濡れている事に気付いてびっくりした。



私。泣いてる?


なんで?


思わず眼鏡を外して涙を拭っていたら。



「稟?」


窓の下から声が聞こえた。


見ると、窓の下から私のいる3階を見上げて愁が話しかける。



「どうしたの?稟。

待ってて今そっち行くから!」



と愁が言ったかと思うと、すごい勢いで玄関に戻っていったのだ。



「えっ?な、何?」



何が起こったのか分からない。


オロオロしている間に、大きな音をたてて教室の戸があくと、急いで走って来たらしい愁が肩で息をしながら入って来た。


「稟?どうしたの?

何で泣いてる?」



そう言いながら自分のハンカチを出して私の涙を拭いてくれた。



「ほら、涙を拭いて。

眼鏡はちゃんと掛けてないとだめだよ。」



そう言いながらキチンとメガネを掛けてくれた。


「・・どうして?

どうして私なんかに構うの?

ただのおさな馴染みなのに・・。


私なんかいいから彼女の所に行きなさいよ。」


せっかく愁に拭いて貰った涙だったけど、あっという間に又溢れ出し、みるみるうちに顔がぐしょぐしょになった。



愁はそんな私に唖然としたのか、「稟?・・」


と、囁いたまま立ち尽くしてた。



広い教室の中、外からは運動部の人達の掛け声やざわめきが入ってくる。


なのに、今の私にはそんな音なんて一つも耳には入ってこない。



私の姿を見て直ぐに来てくれた愁の優しさが嬉しくて。



でもその優しさは、たった今私が彼に対して認識した類いの愛情ではないのが分かってるから。



哀しくて、苦しくて・・


結局、本人にぶつけちゃって嫌われるんだ。





今までの人生で一番って言うほどの号泣も、時間が経てばヤッパリ収まってきた。



それと同時に徐々に我に返ってみると、いつの間にか私は、愁の腕の中にいて優しく髪を撫でられていた。



もう、泣き声は殆ど止まってしまったけど、この体制をどうしたらいいのか分からずに固まった私に愁は静かに話しかける。



「もう、落ち着いた?


ならこのままでいいから俺の話を聞いて。」



私は愁の腕の中、思わず息を詰めた。



「俺は昔から稟が好きだよ。


稟しか好きじゃない。


昔からそう言ってるし、態度でも現してるつもりなんだけどな。」



そう言うと、抱き締めていた腕を緩めて俯いていた私の顔を上げさせた。


とんでもない顔になってるのを気にする余裕もなく、私は唖然としたまま愁を見詰めて呟く。



「嘘・・

だって愁は森口さんと付き合ってるって・・」



その言葉を聞いて、愁は不思議そうに聞いてきた。



「森口さんって、何で?」



私が噂の事を話すと可笑しそうな顔で、


「あれは一緒に帰ったと言うより、一緒の方向に向かって歩いてたって感じだと思うよ。


挨拶されたから返したけど。」


と、ウインクしながら言った。



ホッと息を吐きながらも私には分かったんだ。



きっと、森口さんは愁と一緒に帰りたくて毎日玄関で待ってたんじゃないかって。



黙ってしまった私に愁が囁く。



「だからね。

ヤッパリこれからは前みたいに二人で登校しようね。」



と、ニッコリと微笑むと

「これは約束のキス。」


と言って、そっと唇にキスをくれた。


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