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リチャード・マクベイン伯爵の恋(後編)

大分時間がかかりました。。


しかも前編、後編でと言っておきながら嘘ついちゃって。。



本当にすみません

「お帰りなさいませ。」


パーティーから屋敷に戻ったリチャードを、ガストンが出迎える。



外した手袋をガストンに渡しながらリチャードは話しかける。



「ガストン。

例の博士との話はどうなった。」


主の問いに、彼は後ろをついて行きながら答える。



「はい。

それが昼間のうちに連絡をとったのですが、博士は今体を壊して寝込んでいるとの事でした。


如何がいたしましょう。」



「・・・そうだな。

体調が回復したら、是非一度会いたいと伝えてくれ。」



「かしこまりました。

それから、マーシャル博士は独身だそうです。」

その言葉にリチャードは「そうか、分かった。」とだけ答えた。



書斎に入り、書類を前にしても内容が一つとして頭に入って来ない。



頬杖をついたリチャードは、先ほどのシェリルの言葉を思い出していた。


「今日がついに来てしまったのですわ。

私の恋は終わったのです。」



そう言うと、彼女はその神秘的な程美しい蒼色の瞳を苦しげに揺らした。


今日が彼女の誕生日だったのだと言う。



「人の心を試そうとうした私が馬鹿だったのですわ。」


そう言うと、小さな花のような唇を強く噛んだ。


「そんなに強く噛むものじゃない。

その可愛い唇が傷つくから止めなさい。」



そっと囁いて抱きしめると、その細い体はリチャードの腕の中にすっぽりと入った。



「我慢なんかしなくていいから泣けばいい。」


と、リチャードは優しくシェリルの背中をさすりながら言葉を繋げる。



しばし、シェリルの泣き声が辺りに響いていたのだった。





物思いに耽っていたリチャードは、ガストンのドアを叩くノックの音で我に返った。



「入れ。」



静かにお茶を運んで来たガストンが、部屋を出ようとしたした時、「ガストン」と呼び掛けられた。



「明日、ある令嬢に花を届けて欲しい。」



ガストンはひどく驚いた。

リチャード様が、女性に花を贈りたいと言った事など今までなかったからだ。


どんな高価な宝石でも、無造作に与える方が、花だけは贈った事がなかったのだ。



いや一度だけ。

あの時以来だろう。。



「かしこまりました。

花は何にいたしましょう?」


その問いに少し考えた後

「白い薔薇を18本頼む。」とリチャードは言った。



「メッセージも添えてくれ。

 『再会を期して』

とでも。」



そう話す主の顔には見覚えがあった。


そう、確か5、6年程前のパーティーの帰りもこの様に穏やか笑顔を見せていた。



つい、主の顔を見つめ過ぎていたのだろう。



執事にはあるまじき事だったのだが、リチャードは咎めもせずにその微笑みのまま語る。



「6年振りに妖精と再会したんだ。」



ああ、やはりそうか。

と、ガストンは思った。

そして、主にこのような顔をさせる事が出来た女性に是非とも会ってみたいと思うのだった。




それから10日後の昼下がり、ガストンの願いは叶えられる事となる。


主がその令嬢をアフタヌーンティに招待したからだ。



最初その話を聞いたガストンは、我が耳を疑った。


何故なら、主が自宅に女性を招いた事など今まで一度たりとも無かったのだ。



その日屋敷中の者が注目する中、令嬢を迎えにいった自家用車は静かに車寄せに止まった。


直ぐに運転手が出てくると、丁寧な仕草で車のドアを開ける。



すると降りてきたのは、正に妖精だった。



うららかな春の陽に輝く金色の髪、その輝きにも負けないくらい愛くるしい容姿。



出迎えた主はと見ると、今までの女性に対する態度とは違って本当に嬉しそうな様子だった。



「シェリル。よく来てくれたね。」


そう言うと、リチャードは彼女の手をとりそっと口をつけた。



「いいえ、リチャード様。私、お庭を見せて頂くのをすごく楽しみにして来ましたのよ。」



と言って微笑むと、主に庭へとエスコートされて行った。



その二人の後ろについて行きながら、ガストンは一人微笑まずにはいられなかった。



席に着いたシェリルは、おもむろにバックから小さな袋を取り出すと、そっとリチャードに渡す。


「・・これは?」


不思議そうに尋ねるリチャードに、顔を赤くしたシェリルは答える。



「あの。これはサシェですわ。実は。。

この間頂いた薔薇で作ってみましたの。

良かったら枕元にでも置いて下さい。


ハーブも入ってますからきっとよく寝られると思いますわよ。」



驚いた顔のままリチャードは呟くように尋ねる。


「何故。私に?」



シェリルははにかんだ笑顔で答えた。


「私、男性からお花をもらったなんてこの間が初めてだったのです。

だからとても嬉しくて。

枯らしてしまうのが忍びなくて。


何より、リチャード様にもこの香りを分けてあげたかったんです。」



黙ってしまったリチャードに不安になったシェリルはおずおずと話しかける。



「・・・リチャード様?もしかしたら、薔薇とかハーブの香りはお嫌いでしたか?


ごめんなさい。


もしそうでしたら、私持って帰り・・」



「そうではない!!

違うんだ。」



思わず大きな声を出してしまった事を詫びたリチャードは、諦めたように話し出した。



「私は今まで、貴女の他にはただ一人だけ女性に花をあげた事がある。


それは、義母だ。」



リチャードの母はリチャードを産んで直ぐに亡くなった。



赤ん坊だったリチャードを育ててくれたのは、

代々マクベイン家で執事をしているカルヴィン・ベイカーの妻で、ガストンの母であるアデリンだった。



もちろん、その時はまだガストンは産まれてはいなかったが、その姉がちょうど同じ頃に産まれていたので一緒に母乳をもらっていたのだ。



その内ガストンも産まれ、執事一家からは分け隔てない愛情を感じてはいたが、母のいない寂しさは年々増していった。



そんな時、父スチュアートが後添いを迎えたのだ。



エルヴィラという名の若くて綺麗な義母に、10歳だったリチャードは直ぐに懐いた。


少しでも時間があると

「お義母様。」


と言って付いて回ったほどだった。



エルヴィラの方も嫌な顔一つせずにリチャードを可愛がっているように見えたのだが。。



あれはエルヴィラが伯爵家に来て半年がたった頃。


いつものように庭から花を摘んで義母にあげようと部屋の前まで来たリチャードは、エルヴィラが小間使いに話している会話をドア越しに聞いてしまった。



「はぁ。

もうそろそろあの子が来るわね。」



「エルヴィラ様ったら。駄目ですわよ、嫌な顔を見せちゃあ。」



クスクスと笑いながら小間使いは続ける。



「でも本当に、大変な慕われようですわねぇ。

羨ましいくらいですわ。」


すると不機嫌な声が返ってきた。



「冗談じゃないわ!

誰が子供なんか。

スチュアートの息子だから相手をしてやってるだけよ。」



その途端、ドアの外で何かが落ちる音がしたと同時に、人の走り去る靴音が響いた。



小間使いが慌ててドアを開けると、そこには摘まれたばかりの花々が床に散らばっていた。



使用人達が探し回っている中、広い屋敷の中をどう歩き回っていたものか。


いつしか雨が降り出し、土砂降りになっても、リチャードは外で濡れ続けていた。



そしてやっとカルヴィンが探し出した頃には、リチャードの体はすっかり冷え切っていて意識もなく地面に倒れていたのだ。




二週間後、意識不明の状態からようやく抜け出したリチャードだったが、前とは全くの別人になってしまっていた。



ついこの間まで見せていた人懐っこい笑顔は影を潜めて、無表情な中に浮かぶのは冷笑。



周りも何が出来るでもなく。

あれっきりエルヴィラとリチャードとは、一つ屋根の下に住みながらも顔を合わせる事さえなかった。



その内リチャードは寄宿舎のある学校へ行く事になり、学校が終わってももう、義母のいる屋敷に戻ることはなかった。





「だから私は、貴女がこんなにも私の贈った花を大事にしてくれた事に対して戸惑ってしまったんだ。

もちろんこのサシェは大事にするよ。

ありがとう、シェリル。」


少し照れくさそうに微笑むリチャードを見ながらも、シェリルの涙はなかなか止まりそうになかった。



「わ、私はいつだってリチャード様の味方ですから。

何か困ったことがあったらいつでも私に言っていただいていいんですのよ。



一生懸命にそう言い募るシェリルの頭を優しく撫でていたリチャードだったが、しばらく考えた後話しを切り出した。



「実はシェリル。

私には一つ厄介な事があってね。

貴女に是非とも助けてもらいたいんだ。」



それに対してシェリルは目を輝かせて大きく頷いたのだった。





そして今夜、リチャードとシェリルはマクベイン家本邸にやって来た。



リチャードが住んでいる別邸も確かに豪邸ではあるが、さすがに本邸ともなれば規模が違う。


いかに自分が場違いな所に来たのかまざまざと知らされたような気がした。



その気持ちが分かったのか、腕を組んでいたリチャードが耳元で囁く。



「美しい私のシェリル。このまま誰にも君を見せたくないぐらいだ。」



チラリとリチャードの方を見ると唇だけで大丈夫と言って片目をつむってみせた。



思わず微笑んだ時、何処からともなく年配の執事が現れて深々と頭を下げた。



「リチャード様。

お帰りなさいませ。

皆様ももう、先程からお待ちでございます。」


そしてシェリルの方を向くと穏やかな微笑みを向けて言った。



「執事のカルヴィンでございます。

ようこそいらっしゃいました。」



声をかけられたシェリルは慌てて自分も名乗った。


「シェリル・バンクスです。

あなたがカルヴィンね。リチャード様からあなた方のお話は伺っていますわ。

どうぞよろしく。」



その言葉に心からの笑みを浮かべたカルヴィンは、「もったいないお言葉でございます。」


と言ってシェリルに頭を下げると、リチャードに向かいこう言った。



「リチャード様。

この方なのですね。」



リチャードも優しい笑顔を向けて応える。



「あぁ、そうだ。

やっと見つけた。」



その言葉を聞いたカルヴィンは何度もうれしそうに頷いた。



そして二人をパーティー会場になる大広間へと案内したのだった。



その部屋へと一歩足を踏み出した途端。


部屋の外まで聞こえていたざわめきが一瞬のうちに無くなり、あたりは水を打ったように静かになった。



その静けさの中、リチャードのエスコートに身を任せながらゆっくりと中央まで進んで行った。



やがて、女性ばかりの華やいだ集団の真ん中、中年と言ってしまうには惜しいほど色香を滲ませている婦人の前まで来ると、リチャードは足を止めて話しかける。



「お待たせいたしましたお義母様。」


そして、無表情ながらも優雅な動作でお辞儀をした。



シェリルもそれに習って白色のイブニングドレスの裾を両手で軽く持ち上げお辞儀した。



「まぁ。珍しいことね。貴方が女性を伴っていらっしゃるなんて。」



と、リチャードに話しかけながらも不躾な視線をシェリルに這わせているのだった。



「ええ。彼女はシェリル・バンクス男爵令嬢です。

近々結婚を申し込むつもりですので。。


是非、お義母様に紹介したいとこうして連れて参りました。」



リチャードの言葉に回りの人間達は皆息を呑み、又一斉にささやきだした。



ただエルヴィラだけは、小馬鹿にしたような表情はそのままでシェリルに向かって話しかける。



「貴女。今おいくつなのかしら?」



「18歳でございます。」



「まぁ。可愛らしいこと。

でも寄りによって、リチャードとはね。

悪いことは云わないからお止めなさい。


貴女にならもっと相応しい方がいらっしゃるわ。」



そう言うと、もうその話は終わりとばかりに今度はリチャードに話しかけた。


「貴方も考えたわねぇ。確かに私は、決まった方がいたら連れて来なさいとは言ったけれど。


この方は、今まで貴方が連れて歩いていた方達とは全然違うじゃない。


一体何処で拾って来られたのかしら?」


と言うとクスクス笑った。



思わず固まってしまったシェリルの背中を優しく撫でながら、冷たく突き放すような口調でリチャードは言う。



「貴女にシェリルの事をどうこう言われたくはないですね。


どう言おうと、彼女の良さなんか貴女に分かる訳がないんですから。


まあ一つだけ言えば、彼女は決して私を裏切ったりはしません。」



「・・そうだわね。」


エルヴィラは呟くように言うと、気分を変えるように周りに明るく声をかけた。



「さあさ。

皆様、恥ずかしい親子喧嘩なんかお見せしてしまい申し訳ありませんでした。

どうぞ。

お気を悪くなさらず最後まで楽しんでいって下さいませね。」


そう言うと、シンとしてしまった会場に室内オーケストラの音楽が響きだし歓談が始まった。



「シェリル。すまなかったね。」


と謝るリチャードに、シェリルは優しく首を横に振って微笑んだ。



それを見てホッとしたリチャードは、ソッと耳元に口を寄せると、「もう少ししたら帰ろう。」とささやいた。



その時、

「本当に仲がよろしいのね。」

と、後ろの方から少しハスキーな声が聞こえた。


二人が振り向くと、そこには赤みがかった金髪に、オニキスのような黒い瞳の女性が挑むような視線をリチャードに這わせていた。



「イレーナ。。」


驚いたように名前を呟くリチャードに、彼女は嫣然と微笑みかけながら近づいて来た。



「お久しぶりですわね。

どうやら私は、まだ忘れられてはいないみたいで嬉しいですわ。」



と、リチャードの頬に触れようとしたが、リチャードは後ずさってそれを拒否した。



その事には別段気を悪くした様子もなく、イレーナは話しかける。



「リチャード。

私、離婚しましたのよ。どうしても貴方の事が諦めきれなくて・・」


「私達はもう終わっているはずですが?

貴女の離婚と私とは何も関係ない。」


そう言うと、シェリルを連れて出て行こうとした。



しかし、イレーナは両手を組んだ姿勢のまま振り絞るような声で懇願する。



「リチャード。お願い。もう一度だけ私にチャンスをちょうだい。

私の中ではまだ終わってはいないの。」



しかしリチャードは冷たく、「私の中ではもう過去の事です。

今更蒸し返すのは時間の無駄だ。

何より今の私にはシェリルがいる。」


そう言うと、物言いたげなシェリルの背中に腕を回し、囲い込むように歩き出した。


しかし、シェリルはイレーナの切羽詰まったような言葉や、態度が気になり思い切って振り向いてみた。



すると、力無く両手で顔を覆っていたはずのイレーナが、何故か此方へとフラフラ歩いて来るのだ

表情も虚ろでブツブツと何か呟いている。



何だろうと思っている内にそれは聞こえて来た。


「リチャ・・は私だ・・もの。・・に誰・・渡さな・・」


その意味が分かってリチャードに伝えようとしたが、もう遅かった。



イレーナがすぐ後ろまで来てしまっていたからだ。



片手で振り上げたナイフをリチャードの背中に向けて。


「いけない!!」



とっさに自分がどう動いたのかシェリルは覚えていない。



ただ焼け付くような痛みを両手に感じた事と、正気に戻ったのか驚いたように自分を見つめていたイレーナの顔。



そしてあまりの痛みに気を失っていく時、聞こえていたリチャードの必死な呼びかけ。


それらを最後に記憶してブラックアウトした。





意識が戻ったのは次の日の朝。



やはり手の痛みで目覚めたシェリルは起き上がって部屋を見渡したが、此処がどこなのか分からず途方にくれた。



見るからに高価そうな布団や枕は何も答えてはくれない。



「多分、マクベイン家だわね。」と呟いた時、そっとドアが開いて人が入って来た。



「あら。目が覚めたのね?

痛みはどう?」


と、ベッドまで近づくと傍の椅子に腰掛けたのはエルヴィラだった。



「昨夜は本当にごめんなさい。

貴女には謝っても謝りきれないわ。」



そう言う彼女自身も全然寝ていないのか病人のような顔をしていた。



「イレーナの事だけど・・あれから、あの娘の両親が病院に入れたわ。


嫁ぎ先では、もう何年も別居状態だったようね。

あの後正気に戻ったのか、しきりに貴女に悪いことをしたと言っていたそうよ。」



そしてもう一度謝った後、すまなそうに言う。


「でもね。

私はリチャードに教えてあげたかったの。

彼の事をずっと思い続けている人間も居るんだという事を。」



結局、裏目に出てしまったわね。

と苦く笑ったエルヴィラにシェリルは言った。



「ご自分が、リチャード様に教えて差し上げればよろしいのに。

エルヴィラ様はリチャード様の事を本当はすごく大事に思っていらっしゃるのでしょ?」



エルヴィラは驚いてシェリルの顔を見つめた。


「何故そう思われますの?」


問われてシェリルは、エルヴィラがリチャードと言い争いをした時に一瞬表情が変わったからだと説明した。



「あの時のエルヴィラ様は本当につらそうでした。

話して頂けますわね?

あのお花の事件があった時の事を。」



「まぁ。

そんな事までリチャードは貴女に話しているのね。」と呟いた後エルヴィラは話し出した。



「リチャードは本当に可愛いい子供だったわ。

私は彼が愛おしくてたまらなかった。


その事は、小間使いのアイリーンにはお見通しだったから、私はいつもからかわれていたのよ。


あの日もちょうどそうやってからかわれていたの。」


そう言ってため息をつくと「まさか聞いていたとは思わなかったのよ」

と言った。



「そのあとリチャードは全然熱が下がらなくて。。

私は何度もあのこの部屋まで行ってはみたけど、入れてはもらえなかった。

その内学校へ行くようになると家にも来なくなって。。


だから、ああいうパーティーでも開かなきゃ顔さえ見られないのよ。」



と言った時、「嘘だ!

嘘に決まってる。」


シェリルの様子を見に来たんだろう、リチャードがドアの側に立ってエルヴィラを睨んでいた。



「リチャード様。

今のエルヴィラ様のお話は本当ですわ。

貴方はちゃんと愛されているんです。」



リチャードは、しきりに首を横に振って否定する。


「この人は電話で話す時だって、一方的に要件だけ話して切ってしまう。

別に俺と話したい訳ではないんだろ?」



エルヴィラは少しずつリチャードに近づくと、彼の手を取って自分の頬に当てた。



「私は恐かったのですよ。貴方に拒絶されるのが。だから断る隙間を与える前に切っていたのです。


そうして私はずっと貴方に謝りたかった。


リチャード。ごめんなさい。。」



シェリルにはちゃんと分かっていた。


この二人は又仲のいい親子になるだろうと。



やがてエルヴィラは笑顔で部屋を去って行った。

去り際に何気なく、「手は出来るだけ跡が残らないようにお願いしておきましたわ。

未来の伯爵夫人に傷跡なんてごめんですものね。」と言うと、二人にウインクを投げて出ていった。



残された二人は、しばし見つめあった後、お互いに名前を呼び合い又笑いあった。


そして遂にはリチャードから話し出す。


「シェリル。貴女には本当に迷惑をかけて申し訳ないと思ってるんだ。」


シェリルも、

「いいえ。私が傍に居なければ、イレーナ様もあのような事はしなかったかもしれませんわ。」



大きな怪我をしながらも、まだ相手を思いやるシェリルの姿にリチャードは胸が一杯になった。



ソッと手の怪我に気をつけてシェリルを抱きしめると、「良かった。。

死んでしまうのではないかと本当に怖かったんだ。」とささやいた。



「平気ですわ。

田舎育ちは丈夫なんです。」


と笑いながら返したシェリルだったが、しばらくの沈黙の後、リチャードから体を離すと俯いたままで話しかける 。



「リチャード様。

私、そろそろコンエールに帰ろうかと思っています。

いつまでも此方には居られませんもの。」



そう一息で言うと、やっとリチャードの顔を見ることが出来た。



「どうして?・・・シェリルは、もう私と一緒に居るのが嫌になったのかい?」



リチャードはすごく驚いた顔をしてシェリルを見つめている。



「これ以上、周りの方達を騙すような事は辞めにしたいんです。


皆さん、私とリチャード様が本当に愛し合っているんだと思ってますわ。

だからもう、私。」



するとリチャードは、必死な様子で言い募る。


「それなら、振りではなく本当にしてしまえばいい。

貴女が私の妻になってくれたらいいんだ。」


そう言うとシェリルにおい被さり口づけた。



「いけません。

私は・・婚約者に棄てられた女なのです。


リチャード様には相応しくありませんもの。

貴方にはきっと他にも素敵な方が・・」




その後の言葉はリチャードの情熱的な口づけと、愛してるの言葉でかき消されてしまった。





数時間後


すっかり意識を飛ばしてしまったシェリルの寝顔を見つめながら。



リチャードはささやく。


「愛している。

貴女を手に入れる為なら俺は何だって出来るんだ。」


そう言うと、彼女の乱れた前髪を直しながらそっと額に口づけた。




今年はこれで終わりです。


後一話は主人公がアンドロイドのキャシーになります。


では又来年もよろしくお願い致します。



皆様良いお年を!


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