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幼なじみ(愁)後編

だいぶ遅くなりました。

一つ先に謝る事があります。

この話の中にテニスの試合シーンがありますが、実は私ドシロウトでして全部想像です。



実際とかけ離れていてもフィクションと言う事でどうか目を瞑って下さい。

そして迎えた日曜日。



俺と稟は学校のテニスコートへとやって来た。



まだ時間には早いというのに、すでにコートの回りはすごい人、人、人で埋め尽くされているようだ。



くだらない。


こいつらにとっては楽しい暇つぶし何だろうが、全く馬鹿げてる。



今更ながら大きな溜め息をついていると、けたたましいくらいの大声で稟の名を叫びながら新堂が走って来た。



「稟!

大丈夫だからね。」



そう言うと、ガバッと稟に抱きついたので、俺は慌てて二人を引き離そうと新堂の腕に手を掛けた。



「コラ新堂!稟から離れろお前っ」


だが奴は離れようとしない。



「いーやーだー!」



尚も稟にベッタリとしがみついている。



その中に合って、当の本人はと言えばクスクス笑ってばかりだから、終いには俺達まで笑い出してしまった。



ひとしきり笑いが治まった時、「楽しそうね。」と声がかかった。



微笑みさえ向けて近付いて来る森口にカッとした俺は、つい怒鳴ってしまった。


「お前さぁ、どういう積もりだよ。

こんな試合なんかしても何の意味も無いんだぜ。どっちかが勝っても負けても、稟を好きだって思う俺の気持ちは全く変わらないからな。」



しかし森口は態度を変える事もなく、周りを指差して言った。



「愁君。あなたはそうでも今此処に集まった人達はどうかしら?

正々堂々と試合をしておきながら、結局取り決めは無効ですって言っても通らないと思うわよ。」

そう言うとクスクスと笑う。



「おまえっ!」


切れかかった俺が森口に詰め寄ろうとした時、稟が口を開いた。



「森口さんの言う通りだわ。

愁、心配しないで。

正々堂々と試合をして私が勝てばいいのだから。

それから森口さん。


私が勝ったら約束通り、もう二度と愁を付け回したりしないで下さいね。」



そう言うと真剣な顔で森口を見つめた。


「稟・・」


「りぃんー・・」



か、格好好すぎる!


そうなんだ。


稟は本当、名前の通り真っ直ぐで稟としてて。


幼稚園の時だって、新堂にイジメられてた俺をいつも庇ってくれたっけ。

そんな稟を俺は・・



と、昔の事を思い返している隙に一歩遅れてしまい。


いつの間にか稟は新堂に抱き締められていた。



何なんだよコイツ。


「離れろ新堂!

稟はなぁ、お・れ のなんだからな!」



「何言ってんのよ!

稟はねぇ、物 じゃないの 物 じゃ。」



そして又掴み合いになろうかとした時、森口の苛立った様な声がかかった。


「まぁね。

この試合が終わったら、今みたいにはいかないでしょうから。

せいぜい、仲良くしてらっしゃい。


それから城之崎さん。


約束は守るわ。

ただし、全国大会に出場経験のある私を打ち負かしたらだけど。」


そういうと踵を返して去っていった。



「そっか・・

森口って結構テニスが強いんだった・・」



新堂がポツリと呟くと、心配そうに稟を見つめた。



思わず俺も稟の方を向いてしまったけど、本人の顔を見た瞬間、それは無駄な心配だと分かった。


何故なら、稟の目は本当にやる気で輝いていたから。


俺は安心して稟の手を握ると「稟。思いっきり楽しんでこい!」と言った。



稟は大きく頷くと、俺の手を強く握り返してくれた。





そして始まった試合。



挨拶の後、サーブ権を決める段になって森口が言い放つ。



「城之崎さん。

あなた、私と違ってタイトルなんて一つも持って無いでしょ?


このまま普通に試合をしちゃったら私が勝つに決まってるわ。


だからハンデをあげる。

遠慮なんかしなくていいのよ。」



憐れむような顔で話す森口に、稟は強い口調で返した。



「いいえ。お断りします。

そんなものを貰って勝っても周りのみんなは納得しないでしょうから。」



周りの人間が息を呑んで見守る中、睨み合った二人は審判を務めるテニス部顧問の先生の下ジャンケンをする事になった。


ジャンケンに勝ってサーブ権を手にしたのは森口だった。



「後でハンデを貰わなかった事を悔やまなければ良いわね。」



そう言い棄ててコートに立った森口から繰り出されたのは稟の足下を鋭くついた弾丸サーブだった。



サービスエース



稟は全く動けなかった。

無理もないのかな・・


実際稟がラケットを握ったのは4年振りだから・・



そうこうしている間に森口は1ゲームを取ってしまった。



次は稟のサーブだ。



さっきのゲームが余りにも一方的だったので、心配したのだけど。


稟はリラックスするように小さく深呼吸をするとおもむろにトスアップして相手コートに打ち込んだ。



綺麗に流れる様なフォーム。



そしてその威力は。



サービスエース



森口のサーブと一緒の様に見えるかもしれないが全然違う。



稟のフォームは完璧だ。森口みたいに肩に力は入ってないし、あいつみたいに感情に流されたりはしない。



今のサーブで周りはシーンとしてしまった。



さっきまでヒソヒソ話をしていた森口の取り巻き達はポカーンと口を開けて次々と決めていく稟のサービスエースをながめている。



森口はと言えば。


思ってもいなかった相手の腕前に驚いたようだったが、流石に全国大会まで行っただけはある。



すぐに気持ちを切り替えてラリーを続けながら稟の弱点を探るつもりのようだ。



観戦者を惹きつけて離さない好戦が続く中、それでも少しづつ押していったのは稟の方で、とうとう1セット目を取ってしまった。



この試合は3セットマッチだからあと1セット取れば稟が勝つ。



コートチェンジの為、俺の前を通った稟に俺は人差し指を突き出してエールを贈った。



稟はただ頷くだけだったけど気持ちは伝わったのが分かった。





そして始まった2セット目。



思っていた通り、さっきのセットとは違って激しい接戦になった。



どちらかと言うと、試合経験の豊富な森口の方がドロップショットやロブを使い分けて稟を翻弄しようとするんだが。



対する稟は、その度にキッチリと追いついて返球するのだ。



それに段々と森口がじれてきたなぁとみんなの目にも映ってきた時、稟のライジングショットが決まったんだ。



今までどんなショットも粘り強く丁寧に返していた稟の、速いタイミングで返すそのショットに森口はついていけなかった。



ショットが決まった瞬間、いつの間にか味方になっていた周りの奴らの歓声と森口の憎悪に満ちた眼差し。



俺は何かが起きる予感がしたんだ。



それからの森口は淡々とラリーを続けている様に見えた。



今から思えばチャンスを待っていたんだろうと思う。



少しづつ巧みに稟をネット際まで誘い出して一言

「あんたみたいなブスは愁君には相応しくないのよ!!」


そう言うと、思いっきりジャンプした後鋭いスマッシュを叩き込んだ。



もの凄い音が響いて、周り中悲鳴や叫び声が広がる中、慌てた俺と新堂は稟の傍に駆け寄った。



とっさにラケットで顔を守ったのか、俯いたまま地面に座り込んだ稟の横には衝撃で吹っ飛んでしまったらしい眼鏡が落ちていた。



「稟!!大丈夫か?」

と声をかけるが何の反応も無い。



俺の横にいる新堂も、転がっている眼鏡を拾うと同じ様に声をかけているが稟の反応は無い。


どうしたんだろう?


二人で目配せしあった時、やっと稟が顔を上げて「大丈夫」だと言った。


そして、眼鏡を差し出す新堂に試合が終わるまでそれを預かっていてくれるように頼むと徐に立ち上がった。



稟が見つめるのは真っ青な顔をして茫然としている森口だ。



周りの奴等からは声にならない溜め息が大きな波の様に聞こえてくる。



「な、何なのよあなた・・・」


やっと声を振り絞った森口が呟いた。



それに応えるのは、さっきの衝撃でうっすらと右目の端に赤い痕を付けた少女。



幼い頃から余りにも可愛らし過ぎた為、何度も連れ去られそうになったという美貌だった。



「さあ。試合を続けましょう。」



そう言ってサッサと自分のレシーバーの位置に向かうと、審判に試合続行を申請した。



そうして又試合は続けられたが、勝敗は呆気なく決まった。



森口に戦う気力が全く無くなっていたからだ。



まるで電池の切れた機械のように何の反撃も出来ず、只突っ立っているだけの状態だったんだ。



試合後。

森口は逃げるように一人コートを去って行った。


俺達も帰ろうとしたんだけど、あっという間に取り囲まれて質問攻めにあった。



それもそうだろうな。


今まで全く目立たなかった人間が絶世の美女だったってのも驚きなのに。

呆気なく県のタイトル保持者を破ったんだから。


元の姿に戻って必死に言い訳している稟を見ていると、4年前の事が思い出されて胸が痛くなった。



4年前。

俺と稟は小学6年生だった。

二人供幼稚園の頃からテニスクラブに入っていて、稟は毎日のように練習に通っていた。



小さい時から基礎をしっかりマスターした事もあるけど、それを差し引いても稟には立派なプレーヤーになれる素質があった。




なのに・・それを大人が潰したんだ。



それも稟が兄の様に信頼し、尊敬していたコーチに。


そいつは稟に教え子以上の気持ちを抱いてそして迫った。



いつもなら行き帰りは一緒の筈なのに、たまたま俺に用事があって稟が一人になった時を狙われた。



だけどちゃんと神様は居てくれた。


ふと忘れ物を思い出してロッカーへと戻った俺は、いつもは鍵の掛かっている筈の用具室から稟の叫び声が聞こえたのに驚いて大人を呼んで事なきを得たんだ。



そのコーチは直ぐに首になったものの、稟の心の傷は深くて・・・



結局あの事が原因で、稟はテニスをスッパリ辞めてしまった。



なのに。



今回は俺の為にラケットを握ってくれたんだ。



帰り道、新堂と別れて稟と2人っきりになっても俺はずっと俯いて歩いていた。



そんな俺に稟は話し掛ける。


「愁・・怒ってるよね?」


「えっ?・・」


急にどうしたんだろうと、思わず稟の方を振り返えると。


稟は悲しそうな表情で俺を見つめている。



「怒るって・・何で俺が稟に怒らなきゃならないんだよ。

反対だろ?


俺のせいで稟はテニスをする羽目になったんだから。

稟が俺に怒るのが普通だよ。」



自嘲気味に話す俺に、首を横に振りながら稟は話す。



「あの時。


森口さんのスマッシュを顔で受けてしまって、私頭の中が真っ白になったの。


ブランクを埋めたくて必死に練習したけど思うようには体が動かなくて。

もう、駄目なのかなってそう思った・・


でもその時ね、愁が真っ先に駆け付けてくれて私。

愁を失いたくないって、本当に強く思った。」



「稟?」


夢じゃないよな?

あまりにも嬉しすぎて俺は信じられなかった。



でも夢なんかじゃなく、目の前の稟は真剣な顔で俺を見つめてる。



「愁、ごめんなさい。

貴方からテニスを奪ったのは私よね。

私に付き合ってあんなに打ち込んでいたテニスを諦めたのよね。


私、分かってたのに愁に傍に居て欲しくて黙ってたの。

本当にごめんなさい。」


胸が一杯になった俺は、とにかく稟をギュッと抱きしめた。



何か誤解があるみたいだけどそれはまぁ後でじっくりと、と言う事で。



今は一番聞きたい言葉があるんだ。



「稟、俺は稟が大好きだよ。

稟は俺の事どう思ってる?」



すると俺の胸の方から稟のくぐもった声が。


「大好き。」と聞こえた。



読んで頂き本当にありがとうございました。


こちらは少しお休みさせて頂いて、18禁の方を進めたいと思っております。

年齢の合う方はそちらも一度覗いて見て下さい。

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