調停者
残酷な表現が含まれます。苦手な方は、ご遠慮ください。
闇の中で、光が爆ぜる。
光は地面を抉り、周囲の人工物を巻き込んで次々と破壊を繰り返す。
人気の絶えた場所で行われているそれは、人の領域を超えた戦いだった。
十数人の装束を纏った男たちは互いの命を奪うべく、手にした得物を振るう。
そんな様子を、僅かに離れた場所で、一人の女が見ていた。
神職に似た白の装束に、胸から腹部までを覆う銀毛の皮鎧。そして右の耳に付けられた牙を模した銀の耳飾り。
女は見る者を魅了する容姿を持っていた。
整った顔立ちに、意志の強い黒の瞳。墨を流したような見事な黒髪を風に靡かせる。
目の前で行われている戦いの行く末をじっと見守ろうと思っていた彼女であったが、気付けば身体は戦場へと駆けていた。
戦いの中で、鮮血を散らしながら一人倒れる。
治療もせずにこのまま戦いが続けば、おそらくその面識も無い男は死ぬだろう。
本当に、何のかかわりも無い人間。
放っておいたとしても、誰も彼女を罰することは無いだろう。
けれど彼女は、意識するまでも無く、戦いを止めたいと思っていた。
戦いの真っただ中に飛び込んだ女は、当然目を引いた。
二つの勢力に別れて争っていた彼らは、それが敵の増援なのか、それとも倒すべき第二の敵なのかを見定めようとした。
一瞬だけ、戦いが止む。
女―――神代琴音は顔を上げ、良く通る声で宣言した。
「私は《調停者》です。争いをこれ以上続けるのであれば、私はこの場にいる全員を相手にして戦います」
「――――」
「――――」
両勢力から返事は無い。
その代わりに、彼らの意思は戦いの再開によって示された。
僅かに、琴音は表情を歪めた。
憂いを胸に押し留め、彼女は赤銅色の剣を取る。
その夜、戦いは調停者を名乗る者によって死者を出すこと無く終わった。