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百ニャン一首 ―まこと継ぎし猫たち―  作者: くろのぼっち


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序章 第六話:購買部の攻防

リンの雰囲気に違和感を覚えながらも、教室に向かうため校舎に入った。


――その“違和感”は、やがて時間とともに彼女の心をゆっくりと、

そして確実に“浸食”していくことになる。


下駄箱で履き替え、再び手をつなぎ教室へ向かおうとした時、

リンはみことの手を放し、急に立ち止まった。


「どうかなさいましたの?」


手を放してきたリンの顔を見ると、

ある一点に吸い寄せられているような視線で、

鋭く、まるで獲物を狙う猛禽類のような目つきをしていることに、

みことは思わず息を呑む。

次の瞬間――リンはみことを置いて突然駆け出した。


「えっ、ちょっ……リン!? なにを……!」


思考よりも先に体が動いていた――リンにとっては、これが人生初の全力疾走。

一直線に向かった先は、校舎の一角にある“購買部”だった。

周囲はまだ誰もいない。

置いてけぼりにされたみことは、呆れ混じりに肩で息をつく。


『準備中』との掛札も目に入らずに、リンは興奮状態のまま中に入ってしまう。

ショーケースには焼きたてのパンがずらりと並び、芳ばしい香りが漂う。

リンは息を弾ませながら、顔がくっつきそうなほど身を乗り出し、

陳列されたパンをひとつひとつ凝視していく。

右に左にと視線を走らせ、目を輝かせながら歓喜の声を上げるその姿は、

もはや小動物そのものだった。


「な、なぜ?なぜこんな所にパンがいっぱい並んでおるのじゃ!」


みことは見かねて、購買部の中へ入っていった。


「はぁ……い、いきなり走り出したと思ったら……何をしてますの?

早く教室に行きますわよ」


だがリンは聞こえていない。

興奮のあまり、みことの声など耳に入っていないのだ。

今まで見たこともないパンばかりで、

特に異様な形をしたものに、リンは興味をそそられる。


「ななな!なんじゃ!このくねくねした茶色いものは!」


……焼きそばパンである。


「こ、これは!? パンから棒が飛び出しておるぞ!」


……ソーセージパンである。棒ではない。


すると奥で準備していた購買部の女性が慌てて駆け寄り、

たしなめるように声をかける。


「こらこら!まだ時間じゃないでしょ!はやく教室に行きなさい!」


興奮状態のリンは、まったく聞こえていない。


「これはなんじゃ!あれはなんじゃ!」


と発狂していると、隣にいたみことがしびれを切らし、


「何じゃ何じゃではありませんわ。早く教室に行きませんと!」


リンを諭すも、聞く耳持たない。

それどころか、いきなり振り向いて予想の斜め上なことを言ってきた。


「みこと!これは貰っていいのか?教室で食べてもいいのか?」


「いいわけありませんっ!あなたお金はありますの?

購買部なのですから、お金を払いませんと。

……って言うか、まだ昼休みではありませんわよ!」


予想外の質問に、みことも若干『いらッ』としてしまい、

少しキツめに返答してしまう。


「購買部?なんじゃそれは?」


リンは首を傾げ、考え込む。


「……えっ?」


(知らない?……購買部を知らない?

五大財閥の一つ、彩音家のご息女だったはずですわよね。

それなりの中等部に通っているはずなのですが……。

――いえ、それほど“お育ちが特殊”だったということかしら……)


かみ合わない会話に、再び“違和感”を感じるみこと。

そうこうしているうちにチャイムが鳴り始めた。


「行・き・ま・す・わ・よ!」


と言いながら母猫が子猫を運ぶがごとく、

首根っこを掴み、引きずって教室に向かうのであった。

あきらめきれないリンは、別れを惜しむかのように手をかざし


「後生じゃ~離してたもれ~」


と、うるんだ目でうなだれる。

教室までの間、みことの脳裏には先ほどの購買部で覚えた“違和感”を

思い返していた。


(なぜパンにあんな過剰反応を?

そういえば初めて見るパンばかりで驚いていましたし、

いったい、今までどんな暮らしをしてきたのでしょうか……。

しかし何ですの、朝食を召し上がってきていらっしゃらないのかしら。

ッ!? ま、まさかの野生児!……ぞわッ、あ、ありえませんですわね……)


朝からいきなり慌ただしいイベントが立て続けに発生し、

二日目の学園生活が始まるのである。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。


二日目の学園生活には、物語のカギとなる出来事がいくつも登場します。

ゆっくりと進んでいきますが、ぜひお付き合いください。


毎週、火・金曜日、19:00頃に投稿していきます。

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