表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
百ニャン一首 ―まこと継ぎし猫たち―  作者: くろのぼっち


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

5/19

序章 第四話:掌のさくら

――校門前、

ばあやとみことの側仕えは、

二人を見送ってからしばらくのあいだ、余韻に浸りながら沈黙していた。

各々、みこと、リンの世話を長い期間してきているので、

二人の晴れ舞台に、ひときわ感慨深い想いがある。

これまでの思い出が、春のそよ風と共鳴するように、

脳裏に浮かんでは消えていき、自然と目頭が熱くなっていた。


……しかし、感傷に浸る時間はあまりにも短かった。

ばあやが側仕えに歩み寄ると、温和な顔が一変する。


「当家主より伝言でございます。“行動規定”のご準備を……」


その言葉と同時に、ばあやの眼差しがギラリと鋭く光り、

声は落ち着いていたが、その目は温和さの影に隠れた“獣”が覗くようであった。

側仕えの表情は一気にこわばり、緊張感が走る。


「ご当主様にお伝えくださいますよう」


ばあやは深く一礼し、車に戻る。

あまりの落差に感情が追いつかず、側仕えは茫然としてしまう。


「まさか……みこと様の晴れの日に、このような事を耳にするとは」


――うららかな春の陽気とは裏腹に、その場の空気は一瞬にして凍りついた。

側仕えは、去り行くばあやの車を眺めるので精一杯であった。



――正面玄関の掲示板には、クラス分けの紙が貼り出されていた。

新入生たちが、ざわつきながら群がっている中、

みことはリンを人だかりの少ない場所へと誘導し、待機させた。


「わたくしが確認いたしますわ!」


鼻息荒く威勢よくリンに告げるその横顔は、もはや完全にスイッチが入っていた。

愛くるしい存在を前にして、守護本能――いや母性本能が全開だった。

回り込むこともなく中央突破よろしく、人混みを豪快にかき分け突入していく。


「ええと……葵生、葵生……ありましたわ。1年A組……」


目を走らせたその先に―― 「……えぇっ!?」


みことは貼り紙に鼻をくっつけそうなほど接近し、何度も名前を見直す。

そこには確かに「彩音リン」の名もあった。


「同じ……同じクラスですわ!? うそ、ちょっ、これ運命……?」


歓喜が爆発したみことは、その場でジャンプしながらリンに向かって手を振った。


「リンさ~ん!同じクラスでしたわよ~!」


ピョンピョン跳ねるみことを……

周囲の新入生たちは、ぽかんとした顔で見つめていた。


「……あれ、確かあの子、財閥のお嬢様じゃなかったっけ……?」

「え?かわいいけど……テンションやばない?」


みことはようやく我に返り、咳払いを一つ。


「……し、失礼あそばせ」


そそくさとリンの元に向かう。

しかし、今のみことは知る由もない。

この“運命”が、財閥の根回しによるものであることを。



――入学式は、厳かに執り行われた。

城蘭学園の理事長が開会の辞を述べ、生徒代表が誓いの言葉を口にする。

厳粛な空気の中でも、みことは時折、視線を逸らしながらリンを盗み見ていた。

リンはというと、式の間ずっと微動だにせず、表情一つ変えず聞き入っている。

その健気な姿を見て、みことは思わず頬を赤らめ、


(……この落ち着き、少しは見習わないといけませんわね……)


みことにとって、心も魂も震わされた経験は、今回で二度目であった。



――中学1年の秋――

その出会いは突然だった……。

中学生になって初めての文化祭で、友人とともに色々見物していると、

音楽室から何やら悍ましい音?が耳に入ってきた。


「な、何なんですの?……騒音?叫び?……!?こッこれはッ!」


中を覗くと、異様な空間がそこには存在していた。

バンドなるものの音楽は知っていたが、

それとは明らかに違う、ハイテンション&激音。

メロディーなどという生易しいものはなく、ただひたすらに叫び続けるボーカル。

脳を揺さぶられん程のギターとドラム。


……魂に“スティグマ”を打ち込まれた。

もう後戻りは不可能だ。

一生にわたりこの劇症たる甘美な脈動を、

背負っていくことを義務付けられた。

悍ましくも高貴な叫びに血が煮えた。


“DEATH! DEATH! DEATH!”


「わたくしは知らない!こんな下卑たもの。

でもなぜ?なぜ血が沸く?」


体内で脈々と、轟轟と生み出され続けるマナ。


……それが出会い。


かくしてみことは、METALの深淵に取り込まれ、

現在は“隠れメタラー”として、心の中の“激情たる魂の叫び”を抑え込んでいる。

普段はお嬢様だが、感情が高ぶると心の声が荒れまくるのは、これが原因だ。



――入学式が終わり、新入生たちはそれぞれの教室へと移動した。

1年A組の教室は、木目調の温かみのある内装に、

最新設備が融合した快適な空間だ。

まだ皆、緊張気味で静かに席を探している。


「みこと、席はここでよいのか?」

「ええ、そこですわ!」


みことも席に腰を下ろした。

最初なので五十音順での席割り。みことが前でリンが後だった。

大型ディスプレイに映像が映し出され、

学園説明と校舎規則、注意事項等が説明される。

明日以降の授業予定が伝えられ、本日は下校となるとのことだった。

担任は明日からになるらしい。


(……いよいよ始まるのね、この学園生活……)


みことは後ろで静かに座るリンの姿をちらりと見やり、そっと胸に手を当てた。

こうして、二人の特別な高校生活が、静かに幕を開けたのだった。

ご覧いただきありがとうございました。


次回は、新たな出会いと、もうひとつの視点が動き出します。


時代に逆行したスルメ型展開ですが、

ゆっくりと着実に物語は展開していきますので、

気長に、お付き合いください。


来週より毎週、火・金曜日、19:00頃に投稿していきます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ