第一章 第七話:戻ってきた登校風景
――静まりかえる雑居ビルの一室。
灯りが消えたその部屋には、おびただしい数の男たちが気絶して転がっており、
そこはまるで紛争地域の戦闘直後のような、異様な静寂を帯びていた。
「白井大尉、“仮想”制圧訓練への協力、感謝します。
……ごめんなさいね、危ない橋を渡らせてしまって。
正規の潜入訓練のついでとは言え、
大佐には本当に感謝してるわ、
また借りができてしまったわね……よろしく言っておいてちょうだい」
白井大尉は直立し、京花に敬礼する。
「はッ!……こちらとしましても、実践におけるCQCの良いお手本となりました。
かの“六連覇の伝説”、“幻蹴使い”の異名……
それをこの目で拝見できるとは、光栄の極みであります!“少佐”!」
「ふふ……もう過去のことよ」
「その……大佐は……まだ納得がいっていないご様子です。
自分にはまた、戻って……」
「白井壮馬大尉、すでに終わったことです……。
それぞれ自分の立場でしかできないことを、成すべきだわ」
「失礼いたしました!」
「本隊は正規訓練に戻って頂戴。あまり大佐を待たせるのも悪いわ。
ただ……四人くらい、この子たちを会社に運ぶのを手伝ってもらえるかしら?」
「Yes, Ma'am!!」
――時は戻り、燈と閃花の登校途中。
「はぁ~~ッ?!!!あんた今なんて言った?」
燈は立ち止まり、目をまん丸にして驚いた。
「だ、だからよ~カチコミに行ったオヤジたちと半グレ連中、
全員“おふくろ”がのしちまってよ~……」
閃花は天を仰ぎ、珍しく顔を引きつらせ、肩を震わせている。
「会社に全員運ばれて……俺とオヤジは一日中おふくろの説教。
うちの全社員、反省文の提出と、おふくろ立ち会いのもと、
一週間みっちり地獄の特訓メニューでさぁ……。
半グレ連中は、おふくろに改心させられて、うちでアルバイトやってるよ。
あいつら、俺のこと“お嬢”とかぬかしやがって、
気色悪りぃったらありゃしねぇ~!」
「そ、それは……確かに黒歴史だわぁ~……というより“暗黒歴史”ね。
……しっかし、あんたのお母さん、どんだけ化け物なのよ!
送った時にお父さんと一緒にいたわよねぇ……。
眼鏡かけてて、おとなしそうな感じだったけど」
「騙されるなッ!!!自分の身内でなんだがぁ~、あれは正真正銘のバケモンだ!
俺はおふくろから一本とるために、ガキの頃から空手をやり始めたが、
一本どころか、かすりもしねぇ~!!ありえねぇ~んだよ!!
今の今まで!この歳になってもだぞ!」
いつもお茶らけている閃花が、本気で顔を強張らせながら語っている様は、
十分すぎるほど、燈に伝わってきていた。
――二人で会話をしながら歩いていると、
少々イカつい雰囲気のグループが、新入生らしき生徒を取り囲んでいた。
(上級生に絡まれてる?)
燈がそう意識した瞬間……
「へッ!新入生に手を出そうなんざ、捨ておけねぇ~なぁ~!」
そう言うと、閃花は一目散に走り出した。
「おうおうおう!!てめぇら!なにウブな新入生に手ぇ出してんだぁこらぁ~!」
イカつい感じの連中は、閃花の啖呵に反応した……その直後。
「おはようございます!!“姐”さん!!!」
全員が直立不動になり、閃花にあいさつをしてきたのだ。
「あ?おめぇらかよ、おぉ?ヒロシがいんじゃねぇか。
てめぇ、なに寄ってたかって新入生イビってんだぁ?あぁ?
やるならタイマンでやれやぁ、タイマンで!」
「と!とんでもねぇっすよ!イキのいい奴を見かけたんで、
“東雲組”にスカウトしてたんっす!!!」ドヤ顔。
――彼らは三年生で、かつて城蘭学園をシメていた不良たちだ。
去年、入学式の翌日に、閃花からいきなり喧嘩を売られ、
手も足も出ずに、ほとんどが病院送りにされた。
その後、なぜか東雲組と名乗り出し、閃花の舎弟に入ったのだった。
さらに彼ら全員、個人修練に東雲家の会社へ実地に行っており、
社長、専務(閃花の母)、幹部以下、非常に可愛がられている。
会社では、学園で呼んでいる「姐さん」とつい呼んでしまうと……
「誰が姐さんじゃボケがぁー!『お嬢』と呼ばんかい!クソボケ!」
と、そのたび幹部に半殺しにされている。
呼び名一つで戦慄が走る環境で叩き上げられているため、
現在はみな、軍隊なみに規律正しい性根に叩き直されたのであった。
「で?イキのいい奴って~のは、どいつだ?」
この状況である……少しばかり背伸びしていた新入生も、
すでに大人しくなってしまい、おびえた表情を浮かべていた。
そうこう問答していると、手をパチパチ叩きながら、颯爽と燈が割り込んできた。
「はいはい!やめやめ!みんな見てるし怖がってるじゃないの!
閃花もいい加減、止めなときなさいって!
あなたたち上級生も、ほら!解散して!ほらほら!」
「アカリ嬢!!!ご迷惑をおかけしてすいませんっした!」
燈の存在は、閃花から聞いており、
閃花の友人であり、剣技が凄腕であることを知っているため、
既に相当なリスペクトをされていた。
「ア、アカリ嬢……って、その言われ方全然なれないわねぇ」
燈の介入により、ヒヨった新入生と東雲組連中も、
大人しく解散し、学園に登校していった。
閃花は少々憮然としたが、燈らしい介入の仕方に心の矛を収めた。
「はぁ~、全くお前って奴つぁ~……ま!お前らしいか!ガハハハッ!」
「な~に笑ってんのよ!新学期の初日ぐらい大人しくしてなさいよね!
まったくもう……」
「しっかし、お前ってさぁ……もう少し、しおらしくしてたら、
絶対にモテんだろうになぁ~、スタイルだってバッチリだし……
もう少し色気が……欲しいところか?
もうちょい、スカートを短くしたらどうだ?ちょっと長ぇんじゃねえのか?」
そう言うと、閃花は燈のスカートの丈を掴み、めくり上げた!
「ッ!?……こらぁー!!!ななな!なにやってんのよー!!」
燈はすぐに閃花の手を振り払い、食ってかかったが、
閃花は逃げるように走り出した。
「ガハハハッ!!わりぃわりぃ!つい手が出ちまった!」
「こんの~!野生児ッ!!!今日と言う今日は、絶対に許さないんだからね!!
東雲閃花!!!そこになおれ!!!」
逃げていく閃花を追いかける燈。
――いつもの学園の朝が戻ってきた。
最後までお読みいただき、ありがとうございます。
次回――「今日こそ天誅!」
――このシチュエーションとセリフは、どこかで見たような……?
毎週、火・金曜日の19時に投稿していきます。




