第一章 第六話:父、猛る。
――そんな出会いから数年が経ち、今となっては懐かしい思い出だ。
あの出来事以来、しばらくはメッセージのやり取りだけだったが――
気づけば同じ高校に進学していた。
同じクラスにはなっていないが、毎朝のように登校中にこうやって絡んでくる。
直感重視で、野生本能を地で行くような荒さもあるが、
裏表のない、そして超絶ポジティブな性格に、燈は居心地の良さを感じていた。
一方、閃花の方も、
数人の男子に囲まれても臆することなく圧倒できるほどの“剣技”と気迫、
誰も不快にさせないどころか、なぜか自然と吸い寄せられるような人柄に、
自身の本能が抗えない感覚を自覚している。
つまり本人には口が裂けても言えないが、
あらゆる意味で“ホレ込んでいる”のだ。
「そういえばさぁ、家に送った時、あんた結構、ケガしてたじゃない?
それ見たお父さん、めちゃくちゃ激怒してたけど、あの後大丈夫だったの?」
「……お、おう。いやぁ~あれはあんまり思い出したくねぇなぁ……」
珍しく苦虫を噛み潰した顔になり、天を仰いだ閃花。
「な、何があったのよ……」
「いやぁ~、ま、まぁ~なんだ……いわゆる“黒歴史”だな、ありゃ。
あの後、オヤジが“カチコミ行くぞ”!つって、
うちの会社の連中をガチで招集かけてさぁ、そのまま飛び出してったんだよ」
――時は再び、閃花が中学二年生の時までさかのぼる。
閃花の実家は、中堅規模の建設業を営んでおり、父は会社の社長である。
父の性格は“豪胆・豪傑”であり、社員はそのカリスマ性に惹かれている。
……というより、“憑りつかれている”と言った方が正しいだろう。
その気風が社内に染みついているのか、
まるで親分と子分のような関係性が構築されていた。
ちなみに、裏社会とは一切関わりはない。
その娘である閃花は、社員から“お嬢”と呼ばれており、
閃花の気質も相まって、その関係は完全に“任侠映画”のそれである。
そんな“お嬢”が何者かにやられ、介抱が必要なほどの怪我をして帰ってきたのだ。
それに輪をかけて、カリスマ社長の大激怒&招集発令&開戦宣言……。
全社員一丸となり、まずは“敵”の居場所を突き止めるべく、情報収集を始めた。
「かしら!!!ヤスから連絡が入りやした!
奴らのアジトを発見!現在、繁華街、ニ丁目の雑居ビルにいるそうです」
……この会社では、幹部は社長のことを“かしら(頭)”と呼んでいる。
「なめくさりやがって!おい!リョウジ!全社員に通達ッ!
突入用の工具一式と大型スポットライトを準備次第、
現地にて気づかれないよう待機!俺が到着と同時にカチコむぞ!
……クソガキ共が、落とし前ってもんを教えてやるッ!」
「わかりやしたッ!!!かしら!!!」
リョウジは、居並ぶ幹部の前に立ち、戦意の高揚を促す。
「てめぇらー!!お嬢の仇だ!!
売られた喧嘩だ!買ってやろうじゃねぇかッ!!!」
幹部たちが「おうよー!!!」と、一斉に声を張り上げる。
……そんな異様な喧騒の中、冷たい視線を放ちながら、
無言で見つめる女性の姿があった。
――その頃、雑居ビルでは……
薄暗い部屋の中には、半グレと思われる男たちが十数人たむろしていた。
「なぁ、あの急に乱入してきた女はなんなんだよ。
あいつが乱入してこなきゃ、あのクソ生意気な女をボコボコできたのによー!」
「ありゃ仲間じゃねぇなぁ……偶然、通りがかったみたいだったぞ」
「それにしてもよ~あのクソ赤髪女、いきなり喧嘩売ってきてなんなんだよ!
俺たち天下の“AgreeKill”だぞ?知らねぇのか?やっちゃうよ~んw」
「ワラワラww……」
男たちは、先ほどの閃花との乱闘を終え、しばしの休息をとっていた。
閃花と半グレ集団・アグリーキルとの間に因縁はない。
そう、ただ単に閃花の野生本能スキル『強ぇ~奴との喧嘩上等!』が、
発動しただけ……。
――男たちがくつろいでいると、
急に何かの金属を削るような騒音が、入口から聞こえてきた。
「な!!何の音だ!!」
男たちは全員立ち上がり、音のする方向に意識が向かう。
「お!おい!まさか扉壊してるんじゃねぇのか?」
騒音はすぐさま消え、次の瞬間、『ドゴッ!!』という破壊音とともに、
部屋の明かりが一斉に消えた。
一瞬にして暗闇の恐怖に叩き落とされた半グレの男たちは、
みな固唾を呑みながら警戒態勢を取り、
侵入してくるはずの入口に向かって待ち構えた。
すかさず数名が部屋に入り込んできたと思った直後、
大型スポットライトが一斉に照射された。
――まるで特殊部隊の突入シーンである。
男たちは反射的に目を覆い、視界を焼かれると同時に、
パニック状態に陥ってしまう。
直ちに大柄の男が奥からゆっくり入ってきて、一喝!
「クソガキ共ーッ!!!
よくもうちの娘にちょっかいかけてくれたじゃねぇかッ!!
落とし前つける覚悟はあんだろうなーッ!!!」
男たちは眩しさと、男の圧倒的な迫力に恐怖し、
早々と戦意喪失してしまい、その場で立ちすくむしかできなかった。
侵入してきた大柄の男――
閃花の父は、部屋の中央へとゆっくり進み、
半グレの男たち一人ひとりの髪をむしり上げ、顔を確認していく。
「頭はどいつだ!!!お前かー!!……お前かー!!」
辺りの椅子や瓶を蹴り散らかし、一人ずつ睨みつけては床へ叩きつけた。
190センチ近くの大柄と、がっしりとしたガタイ、声の迫力、
何よりもその鬼気迫るオーラに圧倒され、意気消沈してしまった半グレ一同。
しかし、中には気骨……いや、狂乱か?金属バットで襲い掛かる奴がいた。
「なめんじゃねぇ~よ!おっさん!」
閃花の父は、髪を掴んでいた半グレの一人を、
一旦、人間の盾として雑に受け止め、襲い掛かってきた者にそのままぶん投げた。
「しゃらくせぇわー!!!このクソボケがー!!!」
二人まとめて一気に吹っ飛ばされ――
まるでボーリングのピンのように転がっていった。
閃花の父の強さは、いわゆる武道や格闘技からくるものではない。
若い頃は鳶職の中でも伝説級の武闘派だったこともあり、
荒ぶる魂の強さ……そんな言葉がぴったりである。
そんな猛者を前に、もう誰一人として歯向かう気概などなく、
半グレの男たちは皆、俯きながら呆然としていた。
閃花の父は頃合いと見るや、部下に指示を出す。
「おい、リョウジ!!部屋の明かりをつけろ!!」
「うっす!!了解です!!」
リョウジが部下に部屋の点灯を指示した瞬間だった!!!
スポットライトが次々に消えていき、一瞬……部屋は真っ暗になった。
「うッ!」
「だぁッ!」
「がはッ!」
鈍い打撃音が次々に聞こえ、『ドサッ…ドサッ…』と、
立て続けに人が倒れていく音がした。
閃花の父は何が起こったかわからず、振り返る。
「おい!!リョウジ!!てめぇ何やってんだ!?……えっ?」
「毅旺さん……やりすぎです」
「きょ、京花……さん?……ぐっ!」どさッ……
東雲毅旺は、その場で崩れ落ち、そのまま意識を失った。
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次回――「戻ってきた登校風景」
――親が強烈だと、子も強烈なのですね。
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