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百ニャン一首 ―まこと継ぎし猫たち―  作者: くろのぼっち


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序章 第一話:春の邂逅

※この作品はフィクションであり、一部史実をもとに創作しています。


プロローグから時は巡り、物語は遠い未来へと進みます。


桜の咲く春、新たな学び舎に集う者たち。

すべての歯車は、音もなく、静かに動き始めます。


少しだけ不思議な、けれど確かに「何か」が始まろうとしている、

そんな物語の最初の一歩です。

※この作品はフィクションであり、一部史実をもとに創作しています。



ひとはいさ こころもしらず ふるさとは

はなぞむかしの かににほひける



春の空はどこまでも穏やかだった。


まだ冬の名残で、頬にあたる風は少し冷たいが、


陽ざしは柔らかく、雲ひとつなく澄み渡っていた。


校庭の桜並木は八分咲き。


枝先で淡い桜色の花びらがゆらゆらと揺れ、


時折、風に誘われてふわりと舞い落ちる。


あと数日もすれば、この学園は春の香りで満ちるのだろう。



『私立城蘭学園高等学校』――


百年近い歴史を持つこの学び舎は、


古いだけでなく新しいものも積極的に取り入れ、


伝統と革新が見事に調和していた。


優秀な生徒が集い、互いに切磋琢磨する場。


今日、この門をくぐる新入生たちは、


胸の内に希望と不安を同居させながら、その一歩を踏み出していく。


門前には、友人同士肩を寄せ合い、


笑顔で写真を撮る者もいれば、緊張のあまり無言でうつむいて歩く者もいる。


それぞれの未来を夢見て、入学式を迎えた。



そんな人波の中に、ひときわ目立つ二人がいた。


年老いた女性に手を引かれ、門の外で立ち尽くす小柄な少女。


老婆と呼ぶにはあまりにも背筋の伸びた気品の漂う女性と、


まるで小学生かと錯覚させるほどの幼い顔立ちの少女だ。


しかし纏っているのは確かにこの学園の制服で、


門の向こうをじっと見つめている。


彼女の瞳には、校舎や校庭、


そして、そこを行き交う無数の生徒たちの入り混じる期待と不安が映っていた。


しばらくすると、周囲を通り過ぎる生徒たちが、


次々と小声でささやき始める。



「え? 何あの子! めっちゃ可愛くない?」

「妹連れてきたのかな?」

「見学の子?いや……制服着てるじゃん……」



そんな声がささやかれる中、


二人はすでに十分以上の間、校門の外で校内を眺めながら立ち止まっている。



「リン様、今日からここがあなたの通う学び舎になります」



年老いた女性が柔らかい声で告げると、少女の肩がびくりと揺れた。



「お、おおお……大きいのう……人もたくさんいて頭がクラクラしてきたぞ。


しかし“ばあや”、いつまでここにおるのじゃ?」



少女の言葉はどこか古風で、


周囲の現代的な雰囲気と不釣り合いだった。


それもそのはず、


最近のマイブームである時代劇アニメ『ごじゃる殿下』に感化され、


口調まで真似してしまっていた。


彼女が「ばあや」と呼んだその女性は、


ただの“付き人”には見えない雰囲気を醸し出している。



「リン様にとっては初めての環境になりますから、


少しずつ、時間をかけて慣らしていきませんと。


頑張って慣れてくださいね。


今日はご褒美に、とっておきの黒蜜抹茶プリンをご用意して、


お待ちしておりますね」


「な、なんと……! お、おやつの時間以外に食べても良いのか!?


じゅ、ジュルリ……」



傍から見れば、祖母に手を引かれて登校する小学生のような光景である。


その時だった。


低く唸るような駆動音を響かせて、一台の高級車が門前に滑り込んできた。


磨き抜かれた黒塗りの車体に、登校中の新入生たちの視線が集まる。


側仕えがドアを開けると、そこから一人の少女が優雅に降り立つ。


すらりと揃えられた足元、微笑む口元、


風に髪がふわりと舞うその所作に、


新入生たちの多くが立ち止まり、


ざわつきと同時に皆、思わず見とれてしまった。


春風の香りが優雅に舞っているような、うららかな高貴さを漂わせ、


門前の空気を一瞬にして支配した、その少女の名は――



葵生みこと(あおい・みこと)。



学園の有力な出資者、葵生財閥の令嬢である。



静かにそして確実に、


この春、リンとみこと――二人の運命は交わり、遠い記憶が、ゆっくりと目覚め始める。


まだ、誰もその意味を知らぬままに。

最後まで読んでくださってありがとうございます。


次回は、もう一人の少女「葵生みこと」が登場します。


物語はまだ、静かに始まったばかり。

よろしければ、次話もお付き合いください。

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