第一章 第五話:出会いは乱闘の中で
家から学園までは、それなりに遠い。
燈は電車を降り、学園までの道を歩いていた。
今日から、二年生としての新学期が始まる。
気持ちを新たに、通い慣れた道を一歩一歩たどる。
通学している生徒を眺めると、新入生らしき初々しい姿も散見され、
一年前、自分も同じ立場で、同じ気持ちだったと感慨にふける。
燈が一人で登校していると、後ろから『ばしんッ!』と、
いきなり肩をたたかれる。
(来たわねっ!)
既に腐れ縁になりつつある人物が、声を掛けてきた。
「おっす!!!ひさしぶりじゃねぇか~!燈。
元気してたか?俺がいなくて寂しかったんじゃねぇの?」
一年の時はクラスは違えど、中学の時の因縁?で、
仲良く?なった――東雲閃花である。
「げほッ……ちょっと~あんた力が強いんだから、
か弱き乙女に加減しなさいよね!」
「ガハハハッ!お前がか弱き乙女とはな!
剣を持たせりゃ、野郎なんぞ相手にならねぇだろうが、
さしずめ“裏番”ってところじゃねぇか?」
「だ~れが裏番よ!こんな見目麗しい少女に向かって!」
「ん~……お前も黙ってりゃ、イケてんだろうけどなぁ。
しかし、どうだい?骨のありそうな新入生はいそうか?」
「骨?……そんな視点でなんて見てないわよ。
あんまり新入生に絡むのやめなさいよ。
もう今日からは“先輩”なんだからね!ちゃんとお手本になってあげないと!」
「おめぇは俺のオカンか!」
登校時のいつもの会話が戻ってきたことに、
燈も閃花も、どこか懐かしい気持ちになりながらも、
言葉には出さないが、互いの居心地の良さを再確認していた。
東雲閃花とは三年前に偶然出会った。
別々の学校だったので、それまではお互い全く面識はなかった。
――話は出会いの場までさかのぼる。
ある日のこと……。
燈は友人とショッピングに出かけていた。
夕方になり帰宅するために別れ、近道をしようと裏路地を歩いていた時、
急に叫び声が聞こえてきた。
「うりゃ~!ざけんじゃぁねーぞ!」
何事かと気づかれないように覗いてみると、
少女一人相手に、半グレ風の男連中が十人以上で取り囲んでいた。
呆気にとられ、目を疑う燈。
(はぁ?どういうこと?……いやいや!まずいでしょ!
警察に……いや、囲まれてる!時間がない。
まずは三~四人こちらに引き付ける!)
そう思ったと同時に、燈の体は動いていた。
その日は先ほどまで小雨が降っていたので、傘を持参していたが、
この“傘”は、実はただの傘ではなく、
護身用として木刀と変わらぬ強度の“特製傘”であった。
人数が多いので、なるべくこちらに引き付けることを最善と判断し、
剣道の型で、掛け声を張り上げ、注意を引き付ける。
(まずは手前の三人!!!……左から!)
「キィェー!!!メーーン!!!」
燈は素早く間合いに踏み込み、躊躇なく左側の男の頭に打ち込む!
「うわぁー!」
頭を打ち抜かれた男は、うめき声を上げながら崩れ落ちる。
(一人目!!!次!肩を打ち抜く!!)
すかさず、隣の男の左肩を狙って突きを放つ!
「うおッー!な、何なんだこいつ!」
二人目も蹲り、即座に三人目の胴を打ち抜き、這いつくばらせてから、
ひとまず態勢を整える。
いきなり燈の参戦に、少女を襲っていた男たちは、
一斉に燈へと視線を向ける。
「な!なんだ!あの女はよー!いきなり乱入してきやがったぞ!」
燈の急な参戦により、一息ついて体勢を立て直す少女。
十人以上の男たちに無謀にも絡んでいき、
窮地に陥っていたのは“東雲閃花”であった。
拳は赤く腫れ、息は荒いが、それでも目だけは死んでいない。
しかし、さすがに“少々”反省していた。
男たちが燈に意識を向けている隙に再び立ち上がり、
窮地を脱する可能性がでてきたことで、わずかだが抵抗する力が復活した。
「誰だかしらねぇが助かったぜ!
こっちは任せろ!悪ぃがそっちを何とかしてくれ!」
その言葉は燈には届いていなかった。
生まれて初めての“実践”である。
雨上がりの裏路地は薄暗く、足場は最悪。
湿った空気は呼吸を乱す。
一瞬のミスが命取りになる……(これは試合じゃない!)
――呼吸を整える。
視界が絞られ、音が消える。
相手の肩が揺れた瞬間、燈の体はもう動いていた。
考えるより先に、踏み込みが走る。
(二人同時に行くつもりで!!!)
「ハァーー!!キィェー!!!」
先ほどの奇襲と違い、相対しての攻防であったが、
燈の打ち込みと、高速の踏み込みに相手は翻弄され、
素人が達人を相手にするが如く、
軽くいなされていく程のレベル差であった。
二人をほぼ同時に倒すと、ふと我に返る。
襲われていた少女に目を向け、何とか持ちこたえているのを確認すると、
再び気を練り直し、踏み込む軌道を予測する。
閃花も限界ギリギリで相手を引き付けている。
時間が経つにつれ、囲っていた男たちの様子が変わった。
「ななな!!なんなんだよこいつらはよー!
ヤバすぎんだろうが!一旦引くぞ!」
そう言うと、男たちは負傷者を担ぎながら撤退していった。
――燈は震えていた。
手が、足が、体が……そして“脳”が。
自分の剣筋がどうだったのか?
踏み込みの軌道はどうであったのか?全く記憶がない。
「はぁ、はぁ、……な、何とか……何とかなったー!!!
ッて!あなた大丈夫?怪我してるんじゃないの?」
そう言うと、燈は襲われていた少女に近づき、手を差し伸べた。
「い、痛ててて……、お、おめぇ~相当腕が立つなぁ~」
差し伸べられた手を握り、立ち上がると、燈の肩にもたれかかった。
「ありがとよ……東雲閃花だ。あんたの名は?」
いきなりもたれかかられた燈は、予想していたより大きな体躯に、
戸惑いながらも何とか受け止めた。
「ちょっと~大丈夫?……重っ!あたしは神楽坂燈よ。
フラフラじゃない!家まで送ろうか?」
「おめ~知らねぇ奴なのに……しかもいきなり乱闘に乱入してきて、
……すげ~お人よしなんだな」
「なによ~あんなの見過ごせるわけないじゃない!
文句あるならおいてくわよ!」
「ハハっ、わりぃ……あんた気に入ったぜ、
見たとこ中坊っぽいが、どこ中だい?」
「ん?畠山中学の二年よ。そっちは?」
「なんだ!タメじゃねぇかよ。俺は北並木中だ。
さっきはマジで助かったぜ、この借りは必ず返す。
何かあったら俺を呼びな。
あんたのためなら、いの一番に駆けつけるぜ」
「はいはい、きっとそんなことはないと思うけど、
これも何かの縁ね、後で連絡先くらい交換しておきましょうか」
この時の二人は、後に互いの背中を預け合う仲になるなんて、
想像すらしていなかった。
――その後、閃花を実家まで送り届け、両親からひたすら謝罪を受けたが、
閃花の父が、娘の怪我を見て激怒してしまい、
面倒なことになる前に、燈は退散したのだった。
最後までお読みいただき、ありがとうございます。
次回――「父、猛る。」
世の中には……いろんな大人がいるもんです。
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