第一章 第四話:やっぱりママはお見通し?
「ごちそうさまでした~」
定宸と詩織は自分の食器を片づけた後、
すぐにランドセルとかばんを持って、玄関に向かった。
「じゃあ、行ってきま~す!」
「あ、ちょっと待って、定宸!途中まで一緒に行くわよ」
「しお姉、早く~」
「じゃ、行ってくるね~」
二人が登校して家の中が静かになったが、
燈は少々重苦しい雰囲気で、まだテーブルに座っていた。
母は洗濯に行ったので、既にリビングにはいない。
「さ、さっきのことだけど……父さん」
言い出しづらそうな燈がゆっくり口を開く。
父は端末でニュースをチェックしていたが、一旦手を止めた。
「なんだ、時間は大丈夫か?帰ってきてからでもいいんだぞ」
「う……うん、まだ上手くは言えないんだけど、
先に言っておいた方が、いいかなと思って……」
いつもの滑舌の良さはなく、苦しいものを体から絞り出すような、
話す言葉を手探りで見つけているような……。
「実は……最近、変な夢を何度も見るの。
それで、いっつも同じ“型”を繰り返してるんだけど……
あたし、知らないの……その“型”」
その言葉を聞くと、定宗の表情はわずかに強張り、
ゆっくり腕を組み始め、目をつむった。
「そうか……それで、心が乱れたと?」
燈はうつむき、コクリとうなずく。
そしてすぐ、定宗の顔を見た。
「だッ……だって!何だか変な感じなの。
知らないのに、体は覚えてるような……」
定宗は目を開き、茶を啜り、話し出す。
「燈……近いうちに“本家”の沙千江殿のところへ、
出稽古に行くからそのつもりでいろ」
「え?おばあちゃん家に行くの?……わ、わかった。
ていうか、稽古は続けていいの?」
「うむ、ちゃんと話したからな。稽古は続けてよし。
ただ、あまり深く囚われるな。
己の内を広く、浅く、俯瞰するんだ。
内観しすぎるんじゃないぞ。……いいな」
話す前と違い、何か一つ吹っ切れたような、
軽くなったような、そんな感覚を得た燈。
「うん!!!ありがとね、父さん!
何かモヤモヤがなくなって、軽くなった感じがする!
さっすが~我が家の当主さま!!」
「こら、茶化すんじゃない。ったく、お前ときたら調子のいいやつだ。
だんだん母さんに似てきたか……」
「ふふふ!この切り替えの早さが、燈ちゃんの特技なんで!
それじゃぁ、学校にいってくるね!」
定宗は“やれやれ”といった表情を浮かべるも、
嬉しそうに微笑み、やさしいまなざしを燈に向けた。
「うむ、気をつけて行ってきなさい」
――玄関を出ると、燈は両手をいっぱいに広げ、
澄んだ空を眺めながら、深く、深く息を吸い込んだ。
「う~ん!父さんに話したら、何だか楽になっちゃった!
そうよね!ちょっと考えすぎてたかも。
あたしらしくもない!」
……その瞬間!!!
全く気配を感じさせずに、背後から怪しげな声が聞こえた!
「あ~~か~~り~~ちゃ~~ん……」
いきなり耳元に冷気が触れる感触を覚えると、
燈は驚きのあまり、大声で叫んでしまう。
「ぎゃ~あッ!!!な、なに?」
とっさに後ろを振り向き、体が勝手に臨戦態勢に入ってしまった。
(ゴクリ……えっ?母さん?気配を感じなかった?)
燈は体中に鳥肌が立ち、あまりの混乱で頭の中が整理できない。
「どうして……どうしてママには何も話してくれないの……」
背後霊よろしく、うらめしそうな……
生気を吸い取られたような表情で、燈に迫る。
「ちょ!ちょっと!ま、待ってってばー!な、何のこと?」
怨念にも似た、負のオーラを放ちながら迫ってくる母に、
なすすべなく塀まで押し込まれてしまい、たじろぐ燈。
「何で~……何でなの~……こういうのって、
まず先にママと話すものなんじゃないの~……。
そんなに……ママは信用できない?」
今度は急に、涙ぐむ心遥。
「え?え?け、稽古のことだよ?な、何で母さんに話すの?」
あたりまえだが稽古のことなど、母に話したことは一度もない。
「えっ?……あらっ?あらららら?」
瞬時に人格が変わったように、負のオーラは消え去り、首をかしげる心遥。
「パパとのお話は、稽古のお話だったの?
……いや~ん!燈ちゃんったらぁ~もう!」
ドン引きする燈。
無邪気な笑顔が逆に怒りをこみ上げさせ、燈はプルプル震えだす。
「……でっ!?何と勘違いしたってわけ!
人をこんなに驚かせたんだから、
ちゃんとした理由があるんでしょうねぇ……」
「燈ちゃん、こ・わ・い♪」
「♪じゃねーわぁー!」
燈は腕を組み、母を説教体勢に持ち込む。
「あん♡……だって~秘密のお話と言えば~
“恋バナ”に決まってるじゃな~い?
ママを差し置いてパパとだなんて~、
絶対に許せないんだから!」
燈は顔が真っ赤になり、心の叫びをぶちまける。
「朝からわざわざそんなことするかーッ!!!……ぜぇぜぇ」
「でもでも~、燈ちゃん!恋バナするときは、
ぜ~ったいに!最初にママとするのよ。約束だからね!」
そう言うと心遥は、いきなり燈の両手を握り、
上下に激しく振り始める。
まったくもって怯まない心遥に、
燈は放心状態で頭が空っぽになってしまう。
しかしなんとか我を取り戻し、冷めた笑みで……
「母さん……多分、そんなことがあっても、絶対に話さないと思うわw」
「ガ~~ン!!ひ、ひどい……あ、燈ちゃんが反抗期になっちゃった。
パパ~!パパ~!燈ちゃんがひどいの~!」
荒らすだけ荒らして退散していく母を、
冷ややかに眺める燈……。
「ま、まったくもう。どんな勘違いだってのよ……。
父さんは落ち着いてるのに、母さんはどうしてこう……極端なのよね。
まったく、人がせっかく気持ちよく登校しようとしてたのに!」
気持ちを切り替え、足取り軽く学園へ向かう燈であった。
最後までお読みいただき、ありがとうございます。
次回――「出会いは乱闘の中で」
……暴風接近中。
毎週、火・金曜日の19時に投稿していきます。




