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百ニャン一首 ―まこと継ぎし猫たち―  作者: くろのぼっち


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第一章 第一話:知らない型

あひみての のちのこころに くらぶれば

むかしはものを おもはざりけり



「あれ……まただ。なんであたし、いつも同じところばかり練習してるんだろう」


見えている景色はどこまでも曖昧で、ぼやけている。

刀を振るう音も、周りの音も……何も聞こえない。

構え、踏み出し、振り下ろす。


――それは知らない“型”だった。


幼い頃より研鑽してきた型ではない。

だが、体は迷いなく動いていた。

まるで何かに導かれるように。

何度も、何度も同じことを繰り返してはいるが、

回数を重ねるほど、感覚と意識が乖離していき、

気ばかりが焦ってくるだけで、一向に掴める気がしない。

そして、次の動きに移ろうとした瞬間、背後から声が聞こえた。


《……まだまだ、ですね》


(誰かが、いる……)


咄嗟に振り向いても何も見えず、

ただ一瞬、ほんの少し白い残像が、霧の奥へ流れていった。


――そして声だけが聞こえてくる。


《もっと……深く。言霊よりも、深く……》


その言葉の意図することはわからなかったが、

声の響きは不思議と懐かしかった。

問いかけようと口を開いたその時、


――世界が淡くほどけ、視界が闇に溶けていく。


「お……えちゃ……ら……ッ!」


聞き覚えのある声が、遠くから繰り返し呼びかけてくる。


「お姉ちゃんッ!!」


妹?――その声に現実へと引き戻される。


「ハッ!!」


燈は大きく息を吸い、飛び起きた。

今さっきのことなのに、思い出せないもどかしさ。

なぜか“その感覚”が、体に残っている気がしたが、

あくびとともに霧散していった。


「まったく! お姉ちゃんってば全然起きないんだから~。

朝稽古、遅れちゃうよ! また父さんに怒られるじゃん!

うちらにも、とばっちりがくるんだからねぇー!」


姉を起こしに来たのは、四つ下の妹、

神楽坂詩織かぐらざかしおりである。


「わッ、わあぁ~ や、やばい! 速攻で着替えるからー!」


ドタバタ、慌ただしく道着に着替える。


「ったく、お姉ちゃんったら。なんでいつも目覚ましかけて寝ないのよ!

“しお”がいっつも怒られるんだからねッ!」


詩織は自身のことを“しお”と呼び、家族もそう呼んでいる。

燈の着替えを、腕組みしながら仁王立ちして待っている詩織。


「ごッめ~ん、しお! またアイス買ってくるから、ゆるせ、ゆるせ」


「ふふん! じゃぁ今度は、ピーチ&クランベリーの……」


結構チョロい……。


「おしッ! 着替え完了! じゃ、行くわよッ、しお!」

そう言うと、アイスのことを考えている詩織を置いて、一目散に走りだす燈。


「ちょ! ちょっと待ってよ~お姉ちゃん!

絶対に買ってきてよねッ……って!ドアくらい閉めなさいってば!」


朝の稽古は、外の庭で行われる神楽坂家の日課だ。

“居合術”を基にした“神楽坂一真流”。

神楽坂家が伝承している流派である。

朝稽古では行わないものの“剣道”も取り入れられており、

“対人戦”も考慮されている。


流派の真髄は“一真一儘いっしんいちじん

――邪念を払い、一つの真を見極め、ままなるべし。

そして伝承の居合術には“十二の型”がある。


如月きさらぎ弥生やよいこう水無みずな

ふみちょう神無かんなしも師走しそう


――これらの型を毎朝、雨の日も雪の日も、きょうだい三人揃って稽古を行っている。


「ふぁ~……おはよう……姉ちゃん……」


庭の中央に正座し、すでに準備を終えていたのは、

末っ子の弟・神楽坂定宸かぐらざかていしんである。


「おッ! おはよう! “てい”! このお姉さまより早いなんて感心感心!」


「ふぁ~……姉ちゃんギリすぎぃ~。何でいつも、しお姉に起こされてんだよ~」


燈はドタバタしながら、父がまだ来ていないのを確認すると、

定宸の頭をなで、となりに正座する。


「むむむ! し、しおが来る前から起きてたし! ね? しお!?」


なぜか最後になってしまった詩織が、定宸の隣に正座する。


「お姉ちゃん! どうでもいいけど! ちゃんと目覚ましかけなさい!」


「ちゃんといつもセットしてるもん! でも何でかな~

いっつも目が覚めると、しおがいるのよ!もうこの際、毎朝起こしに来てよ!」


「お・ね・え・ちゃん? 反省してないなら、もう行かないよ(怒)」


「す、すみません……」


神楽坂家、三きょうだいの力関係は、詩織が一番上である。


「おはよう、揃ってるな」


厳格な声と共に現れたのは、

神楽坂一真流・師範、神楽坂定宗かぐらざかさだむね

三人の父親であり、師匠である。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。


次回――「未熟なり」


ここからは、燈と“もう一人”の物語が始まります。


……はてさて、「あの」存在はいつになったら動き出すことやら。


毎週、火・金曜日の19時に投稿していきます。

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