序章 第十一話:微笑と違和感のランチタイム
午前中の授業が終わり、昼食をとりに学生食堂へ向かう二人。
……もちろん、手をつないで。
リンとみことは、学生食堂で購入した食事を持ち出し、屋外で食べることにした。
「ぜぇぜぇ……や、やっとたどり着きましたわ。
ま、まさかリンがあそこまで駄々をこねるとは……」
――時は少しさかのぼり、場所は学生食堂。
「い、いやじゃ~!“こうばいぶ(購買部)”のパンが良いのじゃ~!」
リンは目に涙をいっぱい溜め、みことの手をグイグイ引っ張る。
その異様な光景に、周りの生徒たちの視線が一気に集まる。
だが、みことは流石お嬢様である。
視線を集めることには慣れているので、この程度では微塵も動じない。
しかし、自身が感じている視線と、
周りが向けている視線との間に、ギャップがあることには気づいていない。
「何をトラブっているんだ?」
「おいおい泣かせるなよ」
そういう“冷ややかな目”が多いのだろうと、みことは思っている。
しかし……現実はもっと斜め上で、
「キャ~!二人の世界!な、なんて尊いの~!」
「お、お嬢様と美少女!が、が、眼福すぎるだろ~」
といった、まるで推しを見守るかのようなあたたかな視線ばかりであった。
そんな中みことは、リンのまた新たな一面を目の当たりにして身悶えしそうになる。
(ハっ!わたくしは何て事を!
こんな涙目にさせてしまって!それにしましても……涙目、クソ可愛ひィ~~!)
【!?……たまらず天の声が割り込んでくる――
/お嬢様がそんなはしたない言葉遣いするもんじゃありません!(おぅっと失礼)】
みことは己の卑しさに一瞬、侵食されそうになるもなんとか我に返り、
今朝の購買部での出来事を思い出す。
そして同じ轍は踏むまいと、今度は子どもをあやすように、
しゃがんでリンの頭を撫で始めた。
「そ、そうでしたの?……(なでなで)てっきり昼食なのでこちらかと。
わかりましたわ!購買部へ参りましょう」
そう言って学生食堂から出ようとした時、
リンの視界に偶然メニュー写真が飛び込んできた。
「おぉ!おぉ!!おぉ!!!……プ、プリンじゃ!プリンがあるのじゃ!」
リンは目に溜まった涙を袖で拭いながら、メニュー写真に吸い寄せられてしまう。
それを見たみことは、少々混乱する。
(こ、この子は何か歯止めが利かない感じなのかしら?
精神年齢が低い?欲望に忠実?)
「リ、リン?……それはスイーツですわ、
まずはメインメニューから選びましょうか」
みことはこれ以上、リンが駄々をこねないようになんとか誘導しようと試みた。
だが――リンの目には、サイドメニューしか映っていない。
「(ごくり)……プ、プリンアラモード!
……な、何じゃ!こ、これは!?」
「えっ?ご存じありませんこと?って言うか、
先にメインメニューを決めませんと、何になさいますの?」
さすがに周りを気にし始めるみこと。
言葉巧みに誘導してメニューを決めさせようとするも、
リンの瞳は固い決意に満ちており、みことの言葉は届かない。
「プリン!プリンじゃ!頼んでもいいのか?どうやって頼むのじゃ?」
また機嫌を損ねられる前に……みことはなんとか捌こうとする。
「わ、わかりましたわ。では、プリン以外に何か注文しませんこと?
好きなものは何ですの?」
「ッ!!!そ、そんなことしたら……ばあやに叱られる」
今度は突然、怯えモードに入り、おどおどした瞳でみことを見上げる。
(グサッ!……そ、そんな瞳で見つめないで~!……ん?
ばあやに?何で好きなものを選ぶだけで……いやっ!好物を食べること自体?
あっ、でもプリンは大丈夫みたいですし……なぜ、ばあやに叱られるのかしら?)
そうこうしているうちに、周りの生徒の雰囲気も先ほどとは少し変わり始める。
「何であんなに揉めてんだ?」
「何やってんだ?」
周りの視線とざわめきが、さらにこちらへ集まり始めていた……その瞬間!
みことのお嬢様本能が、ヘイト発生確率上昇を感知!
ここぞとばかりにお嬢様スキル“ノブレス・オブリージュ”発動!!
効果は……え~“肚を据えたお嬢様”は理不尽にめっぽう強い……的な?
(ええ~い!埒があきませんわ!ひとまずこの場を制す!!!)
みことは腕まくりをし、何とリンをお姫様抱っこしたのだ!
……まさかのパワープレイである。
あまりの大胆な行動に、
「キャー!」というファンのような黄色い悲鳴や歓声すら上がる!!
しかし、みことは全く動じない!!
「大丈夫、ばあやにはわたくしの方からちゃんと説明します。
さあ、食べたいものは何ですの?好きなものは何かしら?」
リンの目を見つめ、優しく諭す。
それを聞いた周りの生徒はみな同じことを思っていた……
(もうそれ、おかんやろ~!)
「み、みことはやさしいのぅ……。オ、オムライス……」
みことはリンの小声を聞き逃さない!!
お姫様抱っこしていたリンを、今度は肩に担ぎ!(あ~れ~)
オムライス、プリンアラモード、それと自分の注文を“アクセ”で処理した。
そして直ちに列に並ぼうとしたが、
並んでいた生徒たちは「どうぞどうぞ……」と、
全員順番を譲ってくれるという、まさかの事態に!
「ご、ごめんあそばせ……」
周りの状況など微塵も気にしない……というか、できる余裕がない。
リンを下ろし、トレーを一つ持たせ、給仕さんに注文した品を出してもらう。
給仕さん「はい、“アクセ”をかざして……オムライス、
プリンアラモード、冷製トマトパスタだね~」
トレーに注文した品を置くと、リンを先導し、
そそくさと屋外へ逃げるように立ち去った。
――うららかな春の日差しを浴びながら、小鳥の鳴き声が心地よく響く中、
ようやく昼食をとれる場所にたどり着いた。
「ぜぇぜぇ……や、やっとたどり着きましたわ。
ま、まさかリンがあそこまで駄々をこねるとは……」
……みことの奮戦など意に介することなく、リンは笑顔全開で食べ始める。
「ありがとうなのじゃ!みこと!(もぐもぐ)、
みことは頼れるおねえちゃんなのじゃ~!(ごっくん)」
「礼には及びませんわ、ゆっくり噛んで召し上がれ」……(おかんやん!)
食事中、みことは昨日から今朝までに感じた“違和感”を整理した。
集中するにしたがい、自然と周りの音が消えていく……。
しばらくすると頭の中での記憶が、映像とともにフィードバックしてくる。
(あまりに可愛い容姿なので舞い上がってしまい、うろ覚えですが……。
幼い体躯、言葉遣い、購買部への執着?いえ、食べ物……といった方が良いのかしら。
ばあやに叱られる?そして……)
「……………」
「みこと!……みこと!!どうしたのじゃ?」
「はっ!ご、ごめんあそばせ!ちょっと考え事をしていまして……」
「ん?この後のことか?」
「え?……っそうそう、
リンはオリエンテーションでどこに行くか決めていますの?」
少し慌てた声でリンに質問するみこと。
「ハッ!……」
急に笑顔がなくなり、表情が一変する。
大好物と思われるプリンを食べるのを止めるくらいに。
(これ!これですわっ!い、いったい何なんですの?)
「リ……リン?」
恐る恐るリンに話しかけるみこと。
「かるた部……」
リンは魂が抜けたような瞳で、みことを見つめながら口を開いた。
「リン!あなた大丈夫ですの?体調がよろしくなくて?
かるた部なら、わたくしも付き添いますわ」
「付き添う……ハッ!!!そ、そうじゃ……では後で一緒に行くのじゃ」
直前の不気味さはどこへやら、リンはまた笑顔を浮かべていた。
(やっぱり……この子、普通じゃない!)
みことは一抹の不安を覚えながら、午後もリンに付き添うことを決める。
最後までお読みいただき、ありがとうございます。
次回――「霹靂のかるた部」
あれ?かるたって格闘技ではない……よなぁ。
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