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百ニャン一首 ―まこと継ぎし猫たち―  作者: くろのぼっち


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序章 第九話:誠意の対価

――時間は少しさかのぼり、

リンとみことを見送った後、ばあやとみことの側仕えが校門前に立っていた。


「例の件、ご賛同・ご協力いただきありがとうございました」


一礼するばあや。


「いえいえ、みこと様にとっても渡りに船でございましたし、

なによりも、当主様が望まれていたことですので、何も問題ございません」


葵生家としてみれば、姉二人はトップエリート校へ入学。

三女の望みとはいえ、エリート学校の部類に入るものの、格落ち感は否めない。

“世間体”――ではない、姉二人に引け目を持たせないための親心。

みことに余計な劣等感を抱かせぬよう、あることを条件とし画策していた。

ちょうどその時期に彩音家より、リンに関する申し出を受けていたというわけだ。

二大財閥が手を組めば、一学園の理事長を動かすことなど容易いが、

最大の懸念が残っていた。


「しかしまぁ……よくあの“御仁”を動かしましたなぁ……流石の手腕、感服いたします」


みことの側仕えは、改めてばあやに深く一礼した。


「フフ、“誠意”をお見せした……だけでございます」



三ヶ月前――城蘭学園理事長室


「クラス編成への介入ですか……」


恰幅の良い男性が窓の外を眺めながらつぶやく。

ばあやは動じず、低く告げる。


「はい、これは提案でございます。

彩音家、葵生家、両家の合意も取り付けております。

大里理事長におかれましては、申し分のない条件かと存じます。」


あくまで“後援”――

理事長戦を控える大里にとって、

二大財閥の後ろ盾が心強い追い風になるのは間違いない。


「私自身はかまわないのですが……“あの人”を説得できますか?

できるのであれば、何の問題もありません」


「ご用命とあらば」


ばあやは胸に手を当て一礼する。

理事長は机の上の内線で“ある人物”を呼んだ。

しばらくして、扉をノックする音が聞こえた。


コンコンコン……「失礼いたします」


理事長室に入ってきたのは、国府田めぐるだった。

入室と同時に視線を走らせた国府田は、ばあやの姿を認識すると、

わずかに目を細めた。


「ほう……これはこれは、また珍しい場に立ち会えましたな……」


一瞬だけ間を置き、口元には笑みが浮かぶ。

次の瞬間――

理事長にも感じ取れるほどの“鬼気”が滲むように漏れ、

なんと、ばあやを威嚇し始めるという、誰にも予想できない事が起こった。

息をのむ理事長に対し、ばあやは眉一つ動かさず、平然としている。


「理事長も、少々おふざけが過ぎるのでは?

……さて、私に何のご用でしょう……“幻蹴女帝”殿」


その言葉を発した瞬間、国府田はばあやを睨みつけ、さらなる“敵意”をぶつけた。

少し……ほんの少しだけ、ばあやの眉がピクッと動いた。


「はて?どなたかとお間違いなのではないでしょうか。

……国府田めぐる様ですね、お初にお目にかかります。

彩音家の執事長、紫呉と申します。」


国府田からの敵意を受けるも、

動じることなく、軽くあしらうかのように一礼するばあや。

しかし、理事長室には凄まじい程の緊張が張り詰めており、

一触即発な状況であった。

蚊帳の外状態の理事長は、全身に震えを覚えながらも、言葉を絞り出す。


「ま、まぁまぁ国府田君! 先ずは落ち着きたまえ。

過去に何があったか知らんが、今日はお客様として来ている。

いきなりそのような態度は無礼ではないかね……」


「お客様? ずいぶんしおらしいご身分じゃないか。

では“お客様”……直接用件を聞こうか」


不敵な笑みを浮かべる国府田。


「彩音家、葵生家からの要望にございます。

両家のご息女が来年度、城蘭学園にご入学いたしますので、

つきましては、ご両名を同クラスに、座席を隣同士に、

担任を国府田様にお願いしたく存じます」


ばあやはそう言うと、深くお辞儀をした。


「……ハッ? アッハッハッハ!!!」


絵に描いたように、腹を抱えて笑いはじめ、

同時に国府田の“鬼気”は一瞬で消えた。


「何を言い出すかと思えば! ……現在、私は二年を受け持っている。

来年度は同クラスの三年だが、それを投げうってまで担当しろと?

二人の財閥の娘のために?

クックック……随分安く見られたものだなぁ。

あ~ぁ……ちなみに対価は何だぁ? 金か? 金だよなぁ……ハッハッハ!」


あまりの予想外で常識知らずの申し出に、呆れを通り越して大爆笑する国府田。


「“行動規定”……予想値B判定。政府および財閥に関する秘匿事項にございます」


ばあやがそう口にすると、今度はまさかの彼女から、

“殺気”か“鬼気”か――判別できない何かが一気にほとばしり、

鋭い眼光とともに国府田を襲う。

理事長……汗!


「い、いったい何だというのかねッ!!」


国府田は一瞬で真顔に戻るも、少し焦りを感じざるを得ない。

しかし、すぐに呆れ顔になる。


「あ~わかったわかったぁ。その気持ち悪いもんを何とかしろ。話にならん」


ばあやの表情に穏やかさが戻り、幻でも見せられたかのようにそれは消えた。


「ご理解いただけたようで何よりでございます」


国府田は腕組みをし、しばしの沈黙の後、理事長に歩み寄る。


「理事長、好きにやらせてもらうぞ。異論は認めん……

あ~ぁ、せいぜい二人のお嬢様に期待しておくとするか。

それと……対価はいらん……以上だ」


去り際に一瞬、ばあやに視線を向けるも、

視線は交わる事なく退室していった――。


理事長はなだれ込むように椅子に座る。


「ふぅ~、一時はどうなることかと……」


机の上に置かれていたお茶を啜り、一息つく。


「しかし、先ほどの“行動”? 何でしたかな?

……私も理事長に就任してそれほど長くはありませんが、

確か学園の地下にあるメインシステムに専用プロテクトがあって、

そのような事を聞いたことがあったような……。

いかんせん政府と財閥からの指示がなければ、解除できない仕組みになっているので、

詳細は分からないのですが……」


「現状で知る必要はございません。本日はご対応いただきありがとうございました」


そう言うと、ばあやは一礼し理事長室を退室した。



――時間は戻り、校門前。

ばあやの姿はなく、みことの側仕えはまだ校舎を眺めていた。


「しかし、当主様もお優しい……

国府田様がみこと様の担任となれば、卒業後もかなりの箔が付き、

どこへ出ても恥ずかしくない履歴となりますからな。ホッホッホ……

これで、上のお二人にも引けを取りませんぞ!」


……そんな当主と側仕えの気持ちをよそに、

授業初日から担任に食ってかかる、みことなのであった……。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。


次回――「邂逅を告げる視線」


長かった……。

何やら、何処からか視線を感じ……


毎週、火・金曜日、19:00頃に投稿していきます。

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