04
「ほら選べ」
「まあ、ここまでされたら選ばせてもらうけどさー」
明日から冬休みということでここで多少金がなくなっても特に気にならない。
それより気になるのは糸瀬が今日はしっかり彼の家で待っているということだ。
昨日俺の家に泊まったことを大人しく話してもずるいとはならず、だから今回もまた俺は空気を読んで離れることができないでいる。
救いなのはこうして彼との約束を守れていることだった。
「昨日から考えていたけどやっぱりすぐには決められないよ」
「夕方まで時間をかけていいから選べ」
「こ、怖いよぉ、は冗談としてもなんで急にそんなに真剣なの?」
「そりゃ昇からこれを貰ったからだ」
それは去年までの俺を知らないだけだ、俺も去年までの彼を知らないからあまり偉そうにも言えないが。
「はは、まさかすぐに使ってくれるとは思わなかったけどね、しかも目の前でさ」
「冬で寒いんだからそりゃ使うだろ」
「いやーだって可愛い彼女からとかじゃなくて今年の春に出会った同性からのプレゼントなんだよ?」
「それでも俺のために選んで買ってくれたなら使わせてもらうよ」
「うひゃあ……初ってただ初らしく存在しているだけで女の子を落としていそう」
残念、これまで女子の友達もできたことがない。
当たり前のように一緒にいる人間からすれば嘘に思えてしまうかもしれないが世の中にはこういう人間だっているんだ。
だからこそ彼とまだ続いていることが意外だった、陰キャとまではいかなくても俺は明るい人間というわけではないからな。
「一応聞いておくけど糸瀬にはなにをあげたんだ?」
「残る物は恥ずかしいって言われて食べ物になったよ、あれは残念だった」
「まあ、そこは人によるからな」
「だけど僕は初から残る物を買ってもらうよ、まだまだ友達でいてもらうからね?」
「おう、ゆっくり選んでくれ」
ま、ただ見ておくだけでも時間は経過するからこういうところは悪くない。
腹が冷えてトイレにいきたくなってもすぐ近くにあるのもいいことだろう。
すごかったのは昼に学校が終わってすぐに店にいったのに家に帰れたのは十八過ぎだったということ、止めるつもりはなかったが本当に真剣に選んでいたからなにもそこまで悩まなくてもと言いたくなった件ではあるかな。
「もう、遅いですよ」
「ごめんごめん。あ、そうだこれ、岸原先輩からのプレゼントです」
「わあ、甘い物ばかりですね、恐ろしい存在達です……」
金を出したのはこちらでもなにが好きなのかを教えてくれたのが彼だから俺からと言っていいのかどうかはわからない。
「待たせてしまったからな、糸瀬が全部食べていいぞ」
「ぜ、全部ですか!?」
「おう、昇もそのつもりだ」
「うん、僕はそこまで甘い物が好きじゃないからね」
俺もそこまでではないから安心してくれればいい。
クロを返してもらって愛でていると「ただいま」と宮本母――万智さんが帰ってきた。
「クロちゃんおいでーふふ、ここでは初君にだって負けないよ?」
呼べばいく、なんなら呼ばなくても足の上で休もうとするぐらいだ。
だというのにこのままでいいのか、しっかりしている二人のところにいる方がクロも安心できるだろうに。
「やっぱり無理ですか?」
「ん-だってクロちゃんは初君といたがっているからね、だから昨日も言ったけどこれからも連れてきてよ」
「はい」
結局、無理みたいで昨日みたいに諦めることになった。
それでもいまだけだ、クロが少しでもいきたそうにし始めたら俺が頑張ってここで過ごせるようにする。
「あ、初君のことを主に求めているからね?」
「お、おまけでいいですよ」
「はははっ、やっぱり可愛いなあ!」
ここで昇みたいに「確かに可愛いよね!」と乗っかれる人間ならと考えるときはある。
だが昇みたいにやれている自分を想像するだけで違和感が凄くてやばいからすぐにやめるの繰り返しだ。
「はいはーい、初で遊ぶのはやめてあげてよお母さん」
「はは、そうだね、私はご飯でも作ろうかな」
「今日は私もお手伝いします」
「おお、それじゃあ一緒に頑張ろう!」
うん、昇が明るいのは完全に母から影響を受けているな。
「ちょ、どこにいくんだ?」
「客間かな」
別にリビングだろうとご飯作りを頑張ってくれているんだから二人だけみたいなものなのになにか警戒しているようだ。
昨日も怪しかったとかなんとか言っていたしな、別に万智さん相手に頑張っているとか糸瀬に対して露骨な態度でいるとかでもないのにな。
「どうした?」
くっついてきてもなにかが出たりはしない。
本人が選んだ物以外にも買っておいて「あげるよ」なんてのはイケメンがすればいい。
「お母さんとかばっかりずるいから」
「はは、ずるいって同性相手に言うことじゃないだろ、それに昼から夕方まで俺らは二人きりでいたんだぞ?」
「真剣に選んでいたからゆっくり話せていたわけじゃないしね」
「まあ、それはそうだけど」
「それにクロばかり可愛がっているのもね、白色もいいんだよ?」
うんまあ……人間状態でくっついてきているよりも絵面的にはやばくないか。
顎ではなくて頭を撫でていると「初くーん?」と万智さんが探していたみたいだったから返事をする。
「あ、ここにいたんだ――って、もう猫になっちゃったんだね」
「あれ、知っているんですか?」
俺も抱いたままで隠すつもりはなかったが知っているのなら楽でいい。
「うん、実は夜に話し忘れたことを部屋にいって話そうとしたときに見ちゃってね。あのね、ふふ、慌てて起こしたときにすっごく驚いた顔をしていたんだよ?」
「そ、そりゃ驚くでしょうね、万智さんには隠していたみたいですから」
「でも、その様子だと初君にはもっと前から教えていたってことだよね? なんかちょっと悔しいかも」
彼を産んだのは自分なのに、というのもあるんだろうか?
「そういえば初君って一人暮らしだよね? 裏でこそこそされると悔しくなっちゃうからここで暮らしなさい」
「流石にそれはできませんね」
「うわーんっ、なんてね。とりあえずご飯ができたらまた呼びにくるね」
「はい、お願いします」
というか万智さんが来ても一切動じずにそのままでいるのもすごい奴だと思った。
どうしても撫でたくなる頭をしているから撫で続けていたら「み、見てしまいました」と、謎なのはバレないようにするかと思えば糸瀬が来た際には戻していたことだ。
一緒に付いてきたクロが手に頭突きを繰り返してきているから撫でておく。
「岸原先輩が昇先輩を自由にするところを見てしまいました!」
「あ、そっちか」
「はい、私は最近になって教えてもらえたので知っていますからね」
後天的で俺も今年の春から一緒にいるぐらいだから同じようなものか。
四月の時点で教えてくれていたからもっと前から一緒にいる彼女には教えていなかったのかはわからないが必ず言わなければいけないわけではないから仕方がないか。
「あ、ご飯できましたよ、食べましょう」
「おう」
今日も洗い物ぐらいはやらせてもらえばいいか。
このまま泊まることになっているから時間もあるし風呂後に散歩でもするのもいいな。
風呂後にわざわざ体を冷やすのかとツッコまれてしまうかもしれないがずっと屋内にいてもクロを愛でるだけで疲れさせてしまうかもしれないから。
「どう? クリスマスでも昨日盛り上がっちゃったから普通のご飯だけど美味しい?」
「はい、美味しいです」
「初君と違って邦恵ちゃんはいっぱい喋ってくれたから今日の主力は邦恵ちゃんなんだよ?」
「おお、糸瀬はすごいな」
「私は凄くないです」
だ、だからなんで褒めるとそんなに怖い顔になるんだよ……。
トラウマでもあるのか? 別にそのまま鵜呑みにしてくれて構わないんだが。
過去に変なことをしてきていた奴がいたとしても俺はそいつらとは違う、とはすぐには信じられないだろうからこれからの俺を見て判断してほしい。
「よし、私が洗い物を――」
「俺も手伝います」
「そっか、じゃあ私達がやっている間に二人のどっちかはお風呂に入ってきて」
「それなら先に邦恵ちゃんでいいよ」
「そ、それなら先に入らせてもらいますね」
よし、戦力外通告みたいな感じにならないようにさっさとやってしまおう。
今日は息子がここにいるという最強のサポートがいるからそう難しいことではなかった。
それよりも風呂の順番で言い争うことになったが入浴もなんとか終えて自由な時間へ。
「ちょっと歩いてくる」
「僕もいくよ。邦恵ちゃんはどうする?」
「私は万智さんとゆっくり話して過ごします、クロちゃんもいてくれますからね」
「わかった、それじゃあいってきまーす」
家から離れて少ししたところで「これがお風呂に入らなかった理由だよ、冷えたままで寝たくはないからね」と教えてくれた。
なら俺を急がせた理由はなんだ? 別に意地悪がしたかったとかではないだろうが……。
「卒業しても一緒にいたい」
「まだ卒業までは時間があるから俺は卒業間際になってもそう言ってもらえるように頑張るよ」
「あとは裏でこそこそ仲良くしないでほしいな」
「裏でこそこそ仲良くしているのは俺らだな」
にしたってこの二日間は距離感がバグっている、これまでこういうことは言ってきていなかったのになにかあったんだろうか?
糸瀬と話すことで不安になってしまっているんなら紹介しなければよかったのにとは言いたくなる、それでも先に予想しろというのは――いや、生理的に無理とかでもなければ普通に会話ぐらいはするだろうからやっぱりよくわからないな。
「……女の子になれたらよかったのに」
いや、ガチトーンでそんなことを言う人間は初めて見た。
少しふざけつつ「女子になれたらなー」と言うならわかるが真剣すぎる。
それにもし女子だったら俺はいつものそれで仲良くなれていないから意味もないことになる。
俺に対してではなく誰か他の人間に対して上手くいかないから女子になりたいのならただの恥ずかしい妄想でしかないが。
「昇は昇のままでいい」
「初……」
「一応クリスマス本番なんだからもっと明るくいこうぜ、明るい昇が好きなんだ」
類は友を呼ぶという言葉はあっても多分全員に当てはまるわけではない。
俺と彼が本当に似たような存在だったらここまで続いていなかった。
「そうだね……うん、僕らしくなかったよ」
「おう。それでどこまで歩く?」
付いてきてくれるような前提ではいたがどこまでいくかは決めていなかった。
風呂から出た後なだけあっていつもよりも冷たく感じるから短くていいかもしれない。
「それなら初の家かな」
「流石にそれはな」
「だったらもう戻ろう、中途半端にしたら邦恵ちゃんが可哀想だから」
「そうだな、クロもいるから戻るか」
普通に考えて客間で糸瀬が寝て俺は彼の部屋の床でか。
いつもはベッド派でも実際は枕があるのとある程度奇麗なところなら寝られるから問題はない、そうでもなければ床になんか寝転べないからな。
だから少し喋っていくということだったので一人で彼の部屋に移動して寝転んでいた。
風呂も入っていて外に比べれば暖かい環境でこんなことをしていれば眠たくなるのは当然で、気が付いたら真っ暗だったことには笑ったが。
「布団か、持ってきてくれたんだな」
「……そうだよ、あのままだったら風邪を引いちゃっていたからね」
「ありがとな、だけど重かっただろ?」
「ううん、ころころ転がすだけでよかったから楽だったよ」
うん、これなら先程よりもっと暖かいということでよく寝られそうだ。
そういうのもあって頑張る必要はなかった、挨拶をしてから体感的にすぐに朝だった。
一人で暮らしているため勝手に早く起きるようになっているのはこういうときに都合がいい。
「あ、おはよう初君」
「おはようございます。あの、なにかできることってありますかね?」
今日は長くいないで十時ぐらいに帰るつもりでいるからその前に手伝いをしておきたい。
昇の家だから来ていてもどうしたって万智さんとかのおかげでできていることだから大事だろう、というのはあるが本当のところは役立たずと思われたくないからでしかない。
「それなら初君が一人で頑張って作ってくれた朝ご飯が食べてみたいな」
「わかりました、使っていい食材とかを教えてください」
「うん」
絶対にないとしてもこの家にまた来たときに「あ、クロちゃんだけ置いていってくれればいいよ」とか言われないために頑張る必要があった。
まあ、これは完全に万智さんに気に入られようとしている状態だから見る奴によっては気持ちが悪く見えるかもしれないものの俺にとっては大事なことなんだ。




