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244  作者: Nora_
3/10

03

「クロ、悪いな」

「にゃ~」


 結局、クロが大人の対応をしてくれて怖い思いをしないで済んでいた。

 いまは昇も糸瀬もいない静かな時間だ、外だから連れてきているなんて思われないのもいい。

 まあ、昇にはバレるのだが。


「今度、三人でお出かけしようよ、それでご飯でも作ってみんなで食べよう」

「出かけるのに作るでいいのか?」

「うん、隣の市に会員の人がいないと入れないスーパーができたからね、そこで買えば十分足りるよね」

「俺は会員じゃないけど」

「大丈夫、僕のお母さんが会員だからね、ついでに車で現地まで運んでもらえば完璧だね」


 外食ばかりで済ませるよりはいいか。

 ご飯を作るぐらいなら俺でも手伝ってやれるから足手まといにならないのもいい。

 クロが頑張らなくてもいてくれるだけで糸瀬対策になるのも大きかった。


「そのまま泊まるからね」

「おいおい、糸瀬は駄目だぞ?」

「あーいちいちそう言うってことは本当は期待していたんでしょ?」


 期待していないが。

 本人がはっきり言ってくれることが一番だから教室までいって連れてきた、廊下で話せよと自分でもツッコミたくなったが昇が付いてきてくれなかったから仕方がないと片付ける。


「別に私的にはよく知っている昇先輩がいてくれれば大丈夫ですよ? それにクロちゃんがこれだけ懐いていたら岸原先輩でも大丈夫だと思いますけどね」

「それなら僕の家で開催すればいいよね、よし決まり」


 勝手に決まってしまった。

 ただそこでごちゃごちゃ言うと一回もいったことがない例のスーパーにいけなくなるかもしれないから黙っておこう。

 同じ部屋で寝るなんてことにはならないから必死に抵抗する方が怪しく見えてくるというものだろう。


「あ、しまった」

「ん?」

「いやー……その今度と言ったのが問題でね、本当は隠しておきたかったんだけど……」


 隠したかったのは彼女に対してだろうか?


「なるほど、クリスマスに集まろうとしていたんですね?」

「そう! しまったなあ、だけど一人でお買い物にいくのはあれだからまあいっか」


 バレてしまえば無駄な抵抗をしても意味がないから正しい対応かもしれない。

 俺に隠したかったのか鋭い彼女に対して隠したかったのかは結局わからなかったが。


「二十五日は月曜日で終業式があるから二十四日の日曜日にいこう。というかもうその話をドライバー兼同じお買い物仲間のお母さんには話してあるんだ、だから後は二人が参加してくれるかどうかだったんだよね」

「俺はいいぞ」

「私も大丈夫です」

「よし! いまから楽しみだなあ」


 しっかりと調整する必要がないところがいい点であり悪い点でもあった。


「ところでクロちゃんは付いてきてしまうみたいですけど流石にお店には連れていけませんよね? どうするんですか?」


 確かに鞄の中に入っているからセーフとはならないよな、食べ物関連の店とかなら尚更だ。


「あー知っている誰かが残ってくれるのが一番だけど知っているのは昇と糸瀬だけなんだよな」


 しかも信用している彼の友達だから教えただけだし仮に友達がいたとしても頼れてはいなかったかもしれない。

 そうなると……俺が待っているのが一番か。

 別に彼女といることや彼の母と話すことになるのが気まずいとかではないがクロのことを考えるとそうなる。


「それなら私が残りましょうか? クロちゃんもほら、もう私にも警戒しないでいてくれているので」

「それなら俺が残った方が――」

「いえっ、私に任せてください!」


 近い近い……同性の昇だってここまで近づいたりしないぞ。


「まあ……クロが付いてきちゃうなら仕方がないね、邦恵ちゃんともいきたかったけどそれはまた別のところでいっか」

「はい、また今度他のところにいきましょう」


 あれ、これってもしかして空気を読んでそれでもと遮るべきだったのか?

 もしそうなら俺は失敗したことになる、二人の中では完璧に空気読めない岸原初という人間になっているのか。


「わ、悪いな糸瀬」

「なんに対しての謝罪ですか?」

「いや……空気が読めなくて悪い」


 時間も時間だから戻るか。

 当日はなるべく喋らないことで上手くやろうと思う。

 あまりにも邪魔者という感じがしたら宮本家で開催されるわけだし帰ればいいはずだ。


「昇、間違っていたらちゃんと指摘してくれよな」

「ん?」

「頼むぞ」


 なんなら邪魔者という感じがする前に料理だけ作って帰るのもいい。

 元々クリスマスは一人になるはずだったんだ、いまから急に変わったところでダメージはない。

 だがいったことがないスーパーに初めていけるということでテンションを上げてしまったことが恥ずかしかった。

 それでもなんにも気づかずにいるよりはマシだと片付けて授業に集中できるよう切り替えた。




「ふんふんふーん」

「結局クロは付いてきたな」


 しかもそのうえでテンションの高い彼にくっついている。

 同じ猫……かどうかはわからないが惹かれるところがあるのかもしれない。

 それでも一人だけ留守番をやらせることにならなくてよかったのかもしれない。


「むむ、やはり男の子が好きなのでしょうか……?」

「どうだろうな」

「でも、出会ったばかりなのは同じなので言い訳はできませんよね?」


 確かにとも言えるし不思議な存在だからそういうのが当てはまらないとも言えるし、という感じだ。

 ただ一つわかっているのは彼といたがっているのに無理をしたところでマイナスにしかならないということだ。

 だから彼女は待つしかない、飼い主……のはずの俺も同じだ。

 それでもクロが望むならこのまま預けてもよかった。

 既にクロの存在を知っているうえに「可愛いね」なんて言っている彼の母もいてくれていることだからそう難しい話でもないだろう。


「ねえお母さん、もしクロを家で飼いたいって言ったら許してくれる?」

「ん-賃貸でもないしちゃんと責任を持ってお世話をするなら大丈夫だよ」

「その場合なら俺の家から猫のトイレとか餌入れとか持っていけばいい」

「でも、初君は寂しくないの?」


 いや、やっぱり少し気になるな――あ、これは昇母との話でクロの話ではないが。

 そしてクロの件は最初からなにを聞かれても決まっていることがある、クロがいきたいならそのまま見送るだけだ。


「寂しいですけどクロがそっちを望むなら止められませんよ――って、なんかこっちに来たな」

「離れたくないんだろうね、よってこの話はなし」

「えー」


 クロもそれでいいのか……? なんかいい加減なように見えるが。

 顎を撫でつつこれでいいのかと考え込んでいたらあっという間に目的地に着いた。

 離れようとしてくれないから結局俺がクロと一緒に車で待っていることになったのが微妙だ。


「ただいま。それでさっきの話なんだけど初君が家に来たらクロちゃんも付いてくるってことだよね? だからこれからも私達の家に来てよ」

「はい、それは昇……君に誘われればいきますけど」


 四月のときだって君付けなんかしたことがなかったが母親の前では仕方がないよな。

 ただ慣れすぎてしまっても友達扱いしてしまいそうだからいまのままがいいのかもしれない。

 そもそも同級生の母親と仲良くなりすぎても変な目で見られてしまうだけだしただ単に求められていないだろうから。


「え、私とお喋りするためにでもいいんだよ?」

「い、いやそれは……」

「はははっ、初君は昇と違って可愛いなあ」


 可愛いとか言っている場合ではないぞ……。


「いやっ、可愛いのは僕だよ!」

「そうですね、昇先輩の方が岸原先輩より可愛いです」

 

 ほら、こうしてちゃっかり乗っかってくる人間もいるんだからさ。

 まあ、車には乗らなければならないから――なんて下らないことを考えるのはやめて盛り上がっている二人を見ていた。

 クロも露骨で彼が帰ってくるなりさっと移動していたから住めばいいのにと言いたくなる。

 

「ん-食材があって時間も余裕があるから今日やっちゃう?」

「それならそれでいいぞ」

「よし、じゃあ調理係は初とお母さんに任せるからね。その間、僕はクリスマスプレゼントでも買ってくるよ」

「おう、気を付けろよ」


 ではない、どうして自分の親と二人きりにさせようとするのか。

 どう考えても糸瀬は付いていくからクロも連れていかれたら終わりだ。

 だから帰りも不安定だった、そして悪い方に当たるのは確かなようで二人と猫一匹となった。

 クロがいてくれているのはありがたいがこれはもう宮本家の人間が好かれているようにしか見えない。


「さて、頑張ろっか」

「はい」


 無心だ、とにかく手を動かしておけば迷惑をかけることもない。

 お喋り好きではあるがやらなければいけないことを放置してまで続行するわけではないからその点でも安心できる。

 ……この家で遊んでいるとき部屋に逃げていても必ず顔を見せてきたからそれだけはわかっているんだ。

 とまあ全く無心でやれていないものの気まずい感じにはならなかった。

 それはそうだ、だって宮本母にとってはいつものようにご飯を作っているだけだからな。

 いつもより贅沢にではあっても慣れている行為だから気にならないはずだ。


「あ、あのさ、まさか一回も喋らないまま終わるとは思わなかったんだけど……」

「でも、なんとか作れましたね」

「そ、それはいいんだけど……え、気まずい?」

「そういうわけでは。それより勉強になりました、ありがとうございました」

「う、うん、あー……昇と邦恵ちゃんに帰ってきてもらおうか……」


 それがいい、どうせならできたてを食べてもらいたい。

 宮本母が連絡をしてから数分後、二人は帰ってきて勝手に食べ始めた。

 自由かとツッコミたくなったところだが楽しそうだから邪魔はしないでおく。

 宮本母がいるおかげで空気が読めていない変な野郎にならなくて済んだのもよかった。


「ぷはぁ、食べた食べた」

「少し食べすぎました……」


 俺も遠慮をしたつもりが腹いっぱいになってしまっている。


「でも、そろそろ解散かな」


 え、あれ、泊まる話はどこにいった……? そちらは最初に言っていた通り二十五日にやるということなのだろうか?


「え、食べてすぐは寂しいですよ」

「と言われてもね、暗くなる前に家に帰してあげないと怒られちゃうかもしれないからね」


 まあ、このまま解散で帰るにしても洗い物をやらせてもらってからだがここいらで終わらせるのがいいか。

 欲張りすぎると反動で寂しい時間を過ごすことになる。

 でもよ、流石に糸瀬も露骨すぎだろ、やっぱり空気が読めていなかったのかこれ。


「二人は邦恵ちゃんのことを送ってあげて」

「いえ、それは昇……君に合わせて俺は片付けをやらせてもらいます」

「初君っ、とはならないよ。ほらほら、送ってあげて?」


 ……無言の圧に負けて帰ることになった弱者がいる。

 だからってそのまま付いていったりはしないがな、今度こそ守らせてもらうぜ!


「さっきね、邦恵ちゃんの眼鏡が白くなっていて面白かった」

「避けられないことです、面白くはないですがね」


 なんでだ……。


「それより岸原先輩があそこまで料理を作れるとは思っていませんでした」

「ああ、昇母が頑張ってくれただけなんだ、俺はちょびっと手伝っただけだよ」

「あ、これはちゃんとやっていますね」


 なんでだよ……。

 皮肉ではないと思いたいが素直に受け取れない自分がいる。

 とりあえず糸瀬の家が近かったからごちゃごちゃ考える前に別れられたのはいいが。


「よし、いまから初の家でお泊まりパーティだ」

「は、糸瀬を帰しておいて今更それか?」

「だってなんか怪しい感じがしたんだよ」


 まあ最初に糸瀬は駄目だと止めたのは俺だからここで必死になるほど怪しく見えるか。

 余計なことを言われて疲れるのも嫌だから連れていくことにした。

 クロは今回も付いてきていたから寄る必要はあっても入らなくていいのは大きい。


「ただいま」

「お邪魔しまーす。ほらクロ、自由に行動していいよ、あと僕も食後の運動のために変身しちゃうよ」


 いつだって自由に行動しているのは彼で俺は巻き込まれる側……と言うのは違うが合わせることになるのは確かだ。

 だから結局彼が来てくれているのに一人になった、暇で仕方がないから寝転んでいた。

 早めに開催しても緩く会話をしながら食べていたらそれなりの時間になる、そういうのもあって電気を点けていないままだとそこそこ暗い。

 その状態で上をじっと見つめていると段々とテンションが下がってきたからやめた。


「っと、食後の運動終了、あとは初の上で休ませてもらいますかね」

「それなら猫の状態でしてくれ、人間状態でしたら変なことをしているみたいに見えるだろ」

「だけどここには僕と初しかいないよ? だからこのまま甘える~」


 いや糸瀬なんかよりもよっぽど距離感がバグっていたわ。

 だが……冬だからエアコンがないここにとって温かくていいのがなんとも言えないところだ。

 その内クロも戻ってきて俺の足の上で器用に丸まって休み始めたしなんだこの時間。


「あ、そうだ。えっと、あ、はいこれ、初にクリスマスプレゼント」

「手袋か、普通にありがたいな。貰ったままも悪いから明日の帰りにでもなにか買いにいくか」

「いいよ、初はご飯を作ってくれたんだからね」

「残念ながら本当にちょびっと手伝っただけなんだよな」


 戦力外通告をくらったわけではないがあまり頼ってもくれなかった。

 もしかしたらこちらが黙っていたことで気まずくなって宮本母もとにかく手を動かすことでなんとかしていただけかもしれないものの役立たずと言われてもおかしくない内容でとてもやったなんて言えない。


「これからも初がいてくれれば本当にいいんだよ」

「なあ昇、糸瀬の前では可愛いとか言いまくって俺の前ではそれってどうなんだ?」

「ん-僕は邦恵ちゃんに自信を持ってもらいたいだけでそれ以上はないよ?」


 ひえ、普通の顔でなんてことを言いやがるんだ彼は。

 これで次に会ったら自信を持ってもらいたいとかで可愛いとか言い続けるんだろ……って、そういえば今日は自分が可愛いとしか言っていなかったか。

 となると必要なところでだけ言うということか? いやタイミングを伺っているとしたら影響を受けて勘違いしてしまう可能性もありえるぞ。

 糸瀬が自分のことについてドライだったように彼に対してだってそうならまだよかったのだが後々面倒なことになりそうだった。


「そもそも最初邦恵ちゃんはもっとおどおどしていていまみたいにはできていなかったんだよね。でも、可愛い子がそれだともったないでしょ? だから協力したかったんだ。ただ、僕は三年間ぐらい時間をかけてやるつもりだったけど予想以上に早くいい方に変わって驚いているぐらいなんだ」

「中学生のときから一緒にいるとか言っていたか」

「うん、中学三年生と高校一年生で一年離れたときにリセットされなくてよかったよ」


 うん、この話を聞く度に最初こそいいが結構罪深いことをしている感じがする。

 糸瀬が本格的に好意をぶつけてきたときに受け入れるならいいとしてもそうではないなら……どうなるんだ?


「昇、色々な意味で気を付けろよ」

「え、うん」


 さ、休もう。

 明日は最終日とはいえ学校だからさっさと風呂に入って寝た方が得だった。

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