02
「海だな」
「うん、海だ」
風の影響か物凄く奇麗な青色の空となんとも言えない水の色の海だ。
「いや~だけどまさかクロが付いてくるとは思わなかったよね」
「寒いから置いていこうとしたのに付いてきたんだよな」
鳴かないものだから実は学校まで連れていったりもした。
家まで連れ帰っても出ていきたくなるかもしれないから試したところもあるが結局はずっと鞄の中で大人しくしていた形になる。
「そういえばね、少し進化して人間の状態でも猫語がわかるようになったよ。といっても、今日はずっと寝ているかこっちを見てくるかの二択でしかないからわからないけど」
「まあ、不満があるとかじゃないならいいんだ。でも、嫌ならいつでも帰してやるからってことを言っておいてくれ」
「うん。な~」
「にゃ」
……自分よりも大きい男がな~とか言っていると笑えるなこれ。
それこそ女子に見せたら食いついてくれるのではないだろうか? 女子もまさか本当に猫になれるとは思っていないだろうが。
「ふぅ、もう少しで今年も終わるからその前に見ておきたかったんだよね」
「夏までとっておくんじゃ駄目だったのか?」
「駄目駄目、冬にも海を見ないとね」
流石冬でもアイスを食べまくっている人間なだけあるな。
俺としては最近よく一緒にいる女子との話をしてもらいたいところではあるが。
いやもういちいち距離が近くていちいちツッコミたくなるからなんとかしたかった。
「なあ、あの女子のことが好きなのか?」
「え、いきなりどうしたの? あ、特別な好意があるとかじゃないけど初らしくないね?」
おいおい、あれで好意がないとか怖すぎ――あ、まだ女子にとってはわからないか。
でも、平気な顔をして髪に触れたりする人間だから嘘をついているようにしか見えない。
俺らも所詮は二年生の四月から冬まで一緒にいるだけ、仮に一緒にいたとしても教えるかどうかは本人の自由だからな。
「ならあの男子はどうなんだ? 明らかにあの女子のことを狙っているよな?」
「え、聞いたことがないけどな~いつも暇かどうか聞いてきてこっちを遊びに誘ってくれるぐらいだからね」
なるほど、そういう形もあるか。
海でも見ながら話していれば時間がかかっても教えてもらえるかもしれないなんて考えていた俺としてはあっさりしすぎていて困っていた。
それでも彼関連の情報で知りたいことは現時点ではないから黙ることになった。
元々、面白いことも言えない人間で頑張ろうとすると空回りする人間だから相手が喋りかけてきてくれるのを待つぐらいがいい。
「もしかして嫉妬してくれているの?」
「いや、ツッコミたくなるから本当のところを聞いておきたかったんだ」
「えーなにそれ」
「でも、どっちでもいいけど恋をするようになったら退屈な時間になりそうだよな」
俺としては女子に恋をして猫になれるところを見せてやる流れが一番いいな。
俺のときもそうだが男子相手に猫になったところでどうにもならない、ただただ触れにくい存在に変わってしまうだけだからその点でも女子の方がいい。
「だから大丈夫だってー……え、どっちもって?」
「こっちの話だ。まあ、醜く嫉妬をして八つ当たりをしたりはしないから安心してくれ」
クロが帰りたがるまでは愛でて過ごせばいいし帰ってしまっても昼寝なんかをすればいい。
一人で暮らしていて家事なんかをしなければならないからどんなにいい加減にやったところでそれなりに時間が経過するんだ、だから時間をつぶすことも容易だろう。
「えー妬いてくれる方がいいなー」
「帰るか」
「え、あ、ちょっと待ってよ」
誤解されてしまうかもしれないもののこれは別に怒ったわけではなかった。
いやほら、連れてきておいてあれだがこれ以上はクロが風邪を引いてしまうかもしれないから仕方がない。
「もうこうなったらーえい!」
「結局外でも変身するんかーい」
外でも変わるようになってしまったら嫌だからやめておくとはなんだったのか。
それでも任せておくと真っ暗になってしまいそうだから抱いて帰ることにした。
依然として白色で奇麗だからもふもふしたくなるがそれができないのが残念だ。
仮に欲望に任せてもふってもクロが怒ったりしないのはまだ救いではある。
「ほらよ」
「むぅ、動じなくなっちゃったよね」
「そりゃあな、冬まで何回も見てきていれば慣れるさ」
二人して紅茶とかコーヒー派ではないから牛乳を温めて飲むことにした。
これのいい点はすぐに内側が温まるという点とクロも好きだというところだ。
でも、黒色だけにいつも口の周りを白く汚しているから笑うことになる。
「計算しないでこの可愛さってやばくない? クロが女の子じゃなくてよかったよ、急に女体化とかし始めたら初は負けちゃうからね」
「イケメン男子とかにならんかね? クロに女子がきゃーきゃー言っているところが見たいんだけど」
「それなら僕でいいよね、なんたってこんなにイケメンなんだからさ!」
「昇は可愛いとしか言われないからなー」
俺より大きくて脱いだらやばいのに可愛いとは?
だが、実際にそう言われ続けている人間だから俺が悪いだけで本当は可愛いのかもしれなかった。
「ごめん、クリスマスは初と過ごせそうにないや」
「お、おう」
今年出会ったばかりなのに、そもそもそんな話も出ていなかったのにあまりに急すぎた。
しかしもう目の前にクリスマスがあるというのも事実だったりする。
できれば女子に誘われて予定が埋まったことにしてもらいたいがどうだろうか?
「そのかわりと言ってはあれだけど後輩の女の子を紹介してあげるよ」
「は? そんなのい――聞いていないな」
しゃあない、また暇になってしまったから空き教室でクロでも愛でてこよう。
いやもう本当に鞄の中にいるときはいないんじゃないかというぐらいには大人しいからこちらが心配になるんだ。
でも、
「大丈夫か?」
「にゃ~」
出してやればこの通り、いつもの可愛さを見せてくれるのだからありがたい。
できれば自由に休めて餌も食べられる家で休んでいてもらいたいんだが……卒業までになんとかできればいいかぐらいの緩い考えでいた。
「え、猫ちゃん?」
「おう、クロだ」
と返事をしたまではよかったとしてもその相手が昇ではなかったことが微妙だ。
いや声音でわかれよって話だよなこれは。
「この子は糸瀬邦恵ちゃんで、こっちの子が岸原初君ね」
「君付けとかやめろよ気持ちが悪い」
「とにかく守ったからね、あとは二人でよろしく」
え、放置されても困るんだが……?
「触ってもいいですか?」
「おう」
俺に動じなかったぐらいだからクロも大丈夫だろうと判断したのだが、
「あ、あれ、そっちにいってしまいますね?」
離れてもすぐにこちらに向かって歩いてくるから駄目だった。
それならと抱いて彼女に近づいても嫌がって触ることができないままでいる。
「悪いな、今日は難しいみたいだ」
「今日はと言うより私がまだまだだからですよね」
出会ったばかりだから仕方がないとは……言えないんだよなあ。
なんだ、それこそ男好きのオス猫というところなのだろうか?
というか勝手にオス猫と決めつけていただけで確認していたわけではなかったか。
「ちょっと失礼するぞ、お……おお?」
暴れるわけではないが性別がどちらなのかよくわからなくて困った。
だから専門家を呼んだ結果が、
「男の子でも女の子でもないね」
「ま、それならそれでいいか、クロはクロだしな」
これだった。
今更性別がない存在が現れたところで驚くことはない。
「え、なにかやばいことに巻き込まれてしまった感じですか?」
「ううん、邦恵ちゃんはこれからも普通に学校に通えるから安心して」
「し、信じられませんっ。ああっ、なんてことはない昇先輩も怖い存在に見えてきましたぁ……」
怖いと言われている彼は初めて見た。
でも、可愛い可愛いと言われている彼を見られる方がいい感じがするからなんとかしてやってほしいと思う。
「ううん、僕は怖い存在じゃなくて可愛いだけだよ」
「え、昇先輩は可愛いより格好いいという言葉の方が該当すると思いますけど」
とかなんとか考えていたら平気な顔をして格好いいとか言いやがった。
好意がなければこんなものなのか? あ、まあ確かにイケメンを見てわざわざ「は? 不細工だろ」とか言う人間ばかりではないか。
異性なら盛り上がるところかもしれない。
「おおっ、見て見て初っ、僕のファンがいるよ!」
「よかったな」
細かいことは置いておいて友達が嬉しそうな顔をしていてそれが嬉しかった、語彙がないが。
「えっと、いとせだよな?」
「はい」
「これからもそのままでいてくれ、昇もその方がいいだろ?」
「うん、こういうところが可愛いんだよ」
「え、私は可愛くないですけど」
うわ怖いな、なんで格好いい人間から可愛いと言われてこんなに冷たい顔ができるのか。
次はないかもしれないが次があるならそこに必ず昇もいてほしかった、そのうえでクロもいてくれれば完璧だと言える。
いまの状態なら家に置いていこうとしても付いてきて危ないから別行動をしている自分の方が想像しづらいのはいいことなのかもしれない。
「も、戻るわ」
「僕もー」
「それなら私も戻ります、の前にまた今度もお願いしますね? 私もその子と仲良くなりたいですから」
「お、おう、じゃあまたな」
クロの大人の対応ができるところに頼るのも違うし彼女が相手だとそもそも意味がない。
嫌がっている状態ならもっと無理ということで俺は昇を常に側にいさせないと駄目になったということだ。
友達がいてその友達を多く優先するぐらいなのに? 先程みたいに知らない人間同士を放置して出ていくぐらいなのに不可能ではないだろうか……。
「い、一応聞いておくけど俺の側にずっといるのは無理だよな……?」
「えー流石に初のお願いでもずっとは無理だよ、それじゃあまるで家族みたいじゃん、結婚しちゃっているみたいじゃん?」
「だよな……」
しゃーない、あの子のことで怖いことがあってもクロと遊ぶことでなんとかしよう。
ただ現時点では近くにいることがストレスになるかもしれないから慣れてくれるのが一番ではあった。




