ミッション✟スクール〜聖なる乙女は友の為に散る〜
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『ー…人が、其の友の為に自分の命を捨てる事、
此れ以上に大きな愛はない…ー』
ー✟新約聖書✟ヨハネによる福音書15章13節ー
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此処は、とある…ミッション✟スクール…カトリック系の修道院と一体となった聖なる乙女達の学園である。
聖なる乙女達の朝は早い。夜明けと共に起床しせし。
朝露と共に身を清め。白百合の如く真っ白な制服へと着替え、修道院と併設された清貧な寄宿舎から。幼兒のイエス樣を優しく抱く聖母マリア樣の聖母子像が据えられた麗しの白百合の中庭を『〜ごきげんよう〜』『〜ごきげんよう〜』と聖なる乙女同士で御挨拶を交わし合い。修道院の中央に据えられた小聖堂で朝の祈りを捧げる。
*✾.。*✾.。*✾.。*✟主の祈り✟*✾.。*✾.。*✾.。*
『『『_Padre Nostro_ Padre nostro, che sei nei cieli, sia santificato il tuo nome, venga il tuo regno, sia fatta la tua volontà, come in cielo così in terra. Dacci oggi il nostro pane quotidiano, e rimetti a noi i nostri debiti come noi li rimettiamo ai nostri debitori, e non ci indurre in tentazione, ma liberaci dal male. _Amen._(…天に坐す我らの父よ。願わくは、御名の尊まれん事を…御国の来たらん事を…御旨の天に行わるる如く地にも行われん事を…我らの日用の糧を今日、我等に与え給え…我らが人に許す如く我らの罪を許し給え…我らを試みに引き給わざれ我らを悪より救い給えーアーメンー)』』』
*✾.。*✾.。*✟アヴェ・マリアの祈り✟。*+✾。*゜+✾。
『『『_Ave, Maria_Ave, o Maria, piena di grazia, il Signore è con te.Tu sei benedetta fra le donne e benedetto è il frutto del tuo seno, Gesù. Santa Maria, Madre di Dio, prega per noi peccatori, adesso e nell'ora della nostra morte. _Amen._(めでたし聖寵充ち満ちてるマリアー主、御身と共に坐すー御身は女のうちにて祝せられー御胎内の御子イエズスも祝せられ給うー天主の御母、聖マリアー罪人なる我等の為にー今も臨終の時も祈り給え……ーアーメンー)』』』
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ーーーーバァーーーーン!!!!!!
厳かな朝の祈りを捧げる小聖堂のドアが突如大きな音と共に開かれた!!
「ーースミマセン!寝坊しました!」
そう大声で言って現れたのは、私の同室の同仕様もない子。その名をシスター先生のシスターマグノリアが何時もの呆れた調子の枯れた声で呼ぶ。
「…シスターエリー。私は、貴女が朝の祈りに寝坊せずに来たのを見たことがありません…」
「いやあ!僕も寝坊せずに来たいんですけどね!なんてったって同室のシスターリリィが起こしてくれないもので!」と。悪びれも無く私の名を出し私のせいにしてくるので。
「私は目覚ましではありませんシスターエリー」
私は、何時もの如く早口で私のせいでは無いと訴える。
「…はぁ。もう。良いです。本当に貴女達は…」
シスター先生のシスターマグノリアが何時もの呆れた調子の枯れた声で言う。
何時もと変わらないつまらない朝である……。
私は、この…ミッション✟スクール…が、嫌いだ。
退屈な朝の祈りも、同仕様もないルームメイトも、その、全てが、全てが、…………大嫌いだ。
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…ミッション✟スクール…では、普通科目の他に聖書の学びの時間が設けられている。……この学びの時間が、また退屈で本当に眠くなる。ので、私は、この時間が、嫌いだ。
「…人が、其の友の為に自分の命を捨てる事、此れ以上に大きな愛はない…新約聖書…ーヨハネによる福音書15章13節ー…この御言葉は、友人や他者の為に自分の命や大切なものを捧げる行為の尊さを伝え、キリスト教における信仰や愛の実践を促すものです……」
シスター先生のシスターマグノリアが枯れた声で説教を垂れている。特に今日の御言葉は欠伸が出る程に退屈だ……。
「…人が、其の友の為に自分の命を捨てる事、此れ以上に大きな愛はない…新約聖書…ーヨハネによる福音書15章13節ー…素晴らしい御言葉だと思わないかい?シスターリリィ♡僕は、この御言葉が聖書の中で一番好きなんだ♪」
同仕様もないルームメイトは、何故か教室の席まで隣で、こうやって私語厳禁の授業中にウザく話し掛けてきて、本当にウンザリする。何よりウンザリするのは、彼女の金髪のボーイッシュなショートヘアが、彼女の背後の教室の窓から無駄に晴れた真昼の陽射しを受けてキラキラとやたら輝いて、後光が差している事である。オマケに無駄に晴れた今日の青空と同じ色をした澄んだ瞳が、これまた無駄に眩しい。
「…そぅ。私は、聖書の中で、この御言葉が一番嫌い。友の為に自分の命を捨てるだなんて、馬鹿げているわ…後、シスターエリー貴女を見ていると眩しくて目が潰れるから話しかけないでくださる?そもそも授業中は私語厳禁でしてよ」
「ふふっ♡僕は、シスターリリィ君の為なら死ねるよ♡」
シスターエリーが、そう馬鹿げた事を言って、その無駄に長い指で私の漆黒の長い髪を一房絡め取り。その、プックリと熟れた桃色の唇で、一つ。私の髪にKissをして、そして耳元で囁くのだ「ー僕の聖なる白百合ー」と。
「シスターエリー!やめて!私の為に死んだら!私は、貴女を許さない!」あまりにも馬鹿げていて腹が立ったから。私は彼女の無駄に長い指を叩きつい声を荒らげてしまった。
「どうしました?シスターリリィ声を荒らげて、貴女らしくもない」シスター先生のシスターマグノリアが枯れた声で訊くのに「…なんでもありません…」と取り繕って答える。
……本当に嫌になる。……私の為なら死ねると言う。
……シスターエリー。……私は彼女の事が嫌いだ。
……自己犠牲的で、自分を大事にしない。
……そんな彼女の事が、大嫌いだ。
ーーだけど。一番大嫌いなのは、そんな彼女を……。
ーー私達の献身を利用するこの学園の事が大嫌いだ……。
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…ミッション✟スクール…この学園の夜の表情。
漆黒の闇の中で学園は聖なる乙女達に使命を与える。
修道院の中央に据えられた小聖堂の十字架の下ピエタの像の前でシスターリリィとシスターエリーは跪く……。
「シスターリリィ、シスターエリー、断罪の聖母は今宵。貴女達に使命を与えます。真理の帯、正義の胸当て、平和の福音の備え、信仰の盾、救いの兜、御霊の剣、此等、エペソの神の武具を其身につけー火矢の悪魔ーを討ち祓うのです!!」漆黒のシスター服に身を包んだシスターマグノリアは枯れた声に荘厳な響きを乗せて聖なる乙女達に告げる。
「「ーイエス・マムー御心の儘に!!」」
真昼の純白の制服から夜の漆黒のシスター服へと身を包んだ。聖なる乙女達。シスターリリィとシスターエリーは、両手を組み声を合わせて応える。彼女達の夜の表情。
ーー昼は…ミッション✟スクール…の聖なる生徒。
ーー夜は…漆黒に蔓延る魔を祓う…祓魔師である。
シスターマグノリアは酔いしれる様に戦いの大天使ミケーレ樣の祈りを唱え。聖なる乙女達を死地へと送る。
「San Michele Arcangelo, difendici nella battaglia;
sii tu nostro sostegno contro la perfidia e le insidie del diavolo,che Dio eserciti il suo dominio su di lui, te ne preghiamo supplichevoli;e tu o Principe della milizia celeste, con la potenza divina,ricaccia nell'inferno satana e gli altri spiriti maligni i quali errano nel mondoper perdere le anime. Amen(大天使聖ミケーレ、悪との戦いに於いて私たちを守り凶悪な企みに打ち勝つ事ができます様に。神の命令によって悪魔が人々を害する事が出来ない様にお願い致します。天軍の総帥、人々を惑わし、食いつくそうと探し回っているサタナと他の悪霊を神の力によって地獄に閉じ込めて下さい。アーメン)」
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「…シスターリリィ…山が燃えている!!」
シスターエリーの青い瞳に赤く燃え上がる炎が映る。
「恐らくあの山にー火矢の悪魔ーがいらっしゃる様ね」
私は早口でシスターエリーに答え。
矢継ぎ早に指示を出す。
「私が聖水でー火矢の悪魔ーの火を消すわ!シスターエリー貴女は、その隙にー火矢の悪魔ーを討ち祓って頂戴!」
「OK♪僕の聖なる白百合♡了解した♫」そう何故だか楽しそうにシスターエリーは、青い瞳でウインクして魅せて、躊躇う事なく燃え盛り炎上する山へと白く光る御霊の剣を構え全速力で走り出すーーーー!!!!!!
ーーーー速い!!!!なんの躊躇いもない!!
ーーーー私の事を信じ切っている……!!!!
ーーーーそういうところが嫌いなのよ!!!!
ーーーー私が失敗したら貴女は丸焦げよ!!!!
ーーーー少しは心配の一つでもしたらどうなのよ!!
彼女の全速力の走りに遅れぬ様に全速力で詠唱を唱える。
『ーJesus answered, “If you drink from Jacob’s well, you’ll be thirsty again, but if anyone drinks the living water I give them, they will never be thirsty again. For when you drink the water I give you, it becomes a gushing fountain of the Holy Spirit, flooding you with endless life!”ー(此の水を飲む者は誰でもまた渇く。しかし、私が与える水を飲む者は決して渇かない。私が与える水はその人の内で泉となり、永遠の命に至る水が湧き出る)ー✟新約聖書✟ヨハネ4章14節ー』
青く輝く御霊の剣を掲げ叫ぶーーーー!!!!!!
『ー"aqua vitae" 《命の泉》!!!!ー』
私の青く輝く御霊の剣の先端から泉の如く水が勢い良く湧きいでて噴水の如く空へと噴き上がりーー軈て、豪雨となり雨の矢がー火矢の悪魔ーにより炎上する山へと降り注ぐ!!
ーーザアアアァァァッッッッッーーーー!!!!
「ふふっ♪流石は僕の聖なる白百合♡正しく恵みの雨って奴だね♫」シスターエリーは、手にした白く輝く御霊の剣を構え「ーさぁ!!僕も負けてられない!!ー」とシスターリリィの御業により炎上がみるみるうちに収まってゆく山の頂上に君臨するー火矢の悪魔ーめがけ渾身の御業を穿つ!!
『ーtrusty good sword《信頼できる善き剣》ー聖剣アスカロンよ!!』
シスターエリーの御霊の聖剣が白く、白く、皓るーー!!
『ー火矢の悪魔ーを討ち祓い給え!!!!』
渾身の聖なる御業を込めて、燃え盛る大きな赤い龍の姿をしたー火矢の悪魔ーへと御霊の剣を突き刺すーー!!!!
『ーExorcizamus te, omnis immundus spiritus.!!ー(我々はお前を祓う!!全ての不浄な霊よ!!)ー』
ーーーーズギャァアアアーーンッッッ!!凄まじい斬撃の音と共にー火矢の悪魔ーは断末魔の叫びを上げるーー!!
ーー……ギャアアアアアァァァッッッ!!!!
そして、軈て、燃え盛る大きな赤い龍の姿をしたー火矢の悪魔ーは消滅し無事にシスターエリーは悪魔を祓った……。
ーー……筈だったのだ……。
『ーImperet illi Deus, supplices deprecamur.(悪魔を神が支配下に置いて下さいます様に私達は切に祈ります)amenー』祈りを捧げ聖剣アスカロンの穢れを祓い鞘へと納めた時だったーーーー!!!!!!
ー火矢の悪魔ーが断末魔の叫びと共に放った!!!!
……最後の火矢……その、燃え盛る一矢が!!!!
聖なる雨を降らすシスターリリィの元へと飛んでゆく!!
「……えっ!?」……不味いわ。火矢の速度が速い!!
……加護の詠唱がっ、間に合わな……ぃっ!!!!
「シスターリリィ!!!!」
……遠くに、シスターエリーの声が聞こえた。
……どうやら。悪魔は無事に祓えたみたいね。
……ああ。こんなところで死ぬのか。
……本当に、つまらない人生だったわ。
……死ぬ前に…せめて…シスターエリー。
……大嫌いな…貴女に伝えたかったわ…。
……私の…本当の気持ちを…。
……もぅ。なにもかも。遅いわね。
「……ふふっ」
迫りくる燃え盛る火矢を見て私は諦めの境地に至り。
一つ自嘲の微笑みを零し死を覚悟して瞳を閉じた。
胸を容赦なく貫く灼ける火矢の傷みを受け入れる筈だったのだが、……!?傷みの代わりに、私の胸には、温かな、暖かな、誰かに抱きしめられる感覚が与えられた。そっと、閉じてもう二度と開くまいと思っていた瞳を開けてみればーー其処には「…シスター…エリー!?」
「…やぁ、僕の聖なる白百合…怪我は、無いかぃ?」
私の小柄な身體を覆う様に抱き締める…大柄なシスターエリーの豊満な身體…その暖かで大きな胸を貫く灼け爛れた火矢…シスターエリーの火矢に貫かれた痛々しい胸からは、温かな鮮血が、深紅の薔薇の花弁の様に散っている……。
…えっ?…なにこれ?……なんなのこれ?
「…………」何も言葉を継げずに居る私を傷付いた豊満な身體で抱き締めて、シスターエリーは、告げる……。
「…リリィ…君は、友の為に、自分の命を、捨てるだなんて、馬鹿げている…そぅ…言っていたけど…僕は、やっぱり…人が、其の友の為に自分の命を捨てる事、此れ以上に大きな愛はない…新約聖書…ーヨハネによる福音書15章13節ー…此の、御言葉が、好きだよ…だって、僕は、君の為なら…死ねる…此れは、僕のー友愛の証ーだから……」桃色のプックリとした唇の端から深紅の薔薇の花弁を散らす様に吐血して、シスターエリーは私に甘い声で優しく囁き告げる。
「ーリリィ・カマンー僕は、君を…愛している…」
……私の漆黒の長い髪を一房掬い鮮血のKissを一つ贈り。
……軈て、その青空色の瞳を優しく微笑ませ。
……シスターエリーは、ゆっくりと瞼を閉じた。
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…私の腕の中で、シスターエリーは永遠の眠りについた。
…もう。その青空色の瞳を開くことはない…。
「…そんなことは、赦さない!…シスターエリー!私の為に死んだら!私は、貴女を許さない!そう言ったはずよ!」
シスターリリィの切れ長の眦から水晶の様な涙が、キラキラと流れてシスターエリーの亡骸に雨の様に降り落ちた。
「…エリー…貴女を此の儘…死なせたりは、しない…」
私を護って格好つけて往生して嘸かし良い気分でしょうけど。此の儘みすみす死なせてやるほど私は、お人好しではなくってよ。
……私は、貴女を蘇らせる事が出来るのよ……
……此れは、禁術、神の御業……
……人間如きが行うには、傲慢過ぎる……
……神の領域を侵す……罪深い御業……
「…此の御業を使ったら…私は、もう…此の身では、生きられない…エリー…貴女に私の魂を全てー捧げるわー」
腕の中の蒼白になった美しい頬に左手で優しく触れる。
「…勘違いしないでくださいまし…私は、貴女の為に死ぬのではなくってよ…私の魂は未来永劫…貴女の中で共に生きるのよ…此れは、私のー友愛の証ーさぁ愛しの…エリー・ベール…起きなさい…」
…そう…リリィ・カマンは、エリー・ベールに囁いて、林檎の様に真っ赤な唇で、愛しのエリー・ベールへと口付け魂の息吹を吹き込んだーーーー…………。
『ーEloim, Essaim, frugativi et appellavi(エロイム、エッサイム、我は求め訴えたり)ー』
ーー此れは、禁術、呪われし御業……。
ーー術者の魂は、其の身から抜け落ちて、
ーー死せる対象の者の肉體へと吹き込まれる。
ーー吹き込まれた術者の魂は、
ーー死せる対象の者の魂と溶け合い。
ーー軈て、二つの魂は、一つの魂となる。
ーー術者の魂は、二度と其の身へは還れ無い。
ーー蘇生しせし対象の者の肉體と共に未来永劫生きる。
リリィ・カマンとエリー・ベール聖なる乙女達の廻りに魂の息吹が吹き渡りーーーー!!!!!!
軈て、リリィ・カマンの小柄で華奢な身體は、その漆黒の長い艷やかな髪を散らしエリー・ベールの豊満な身體へと倒れた。ー聖なる白百合ーリリィ・カマンは、己の事をそう呼ぶ。聖なる乙女エリー・ベールの事が、嫌いで、嫌いで、大嫌いで、好きで、好きで、大好きで、ー愛していたー。己の魂を全て捧げてしまう程にー深く愛しているのだー。
「ー……リリィ……?ー」
軈て、もう二度と開く筈の無かったエリー・ベールの青空色の瞳が、もう一度。開き。その輝きを取り戻した。
譫言の様に己の名を呼ぶ。愛しい友に。
リリィ・カマンは、其の友の豊満な身體の内でーー、
魂の中でーー、心の中でーー、
「ー…エリーおはよう…寝覚めの悪い朝の始まりねー」と。そう応えた。
*✾.。*✾.。*✾.。*✟。*゜+✾。*゜+✾。*゜+✾。
『ー…人が、其の友の為に自分の命を捨てる事、
此れ以上に大きな愛はない…ー』
ー✟新約聖書✟ヨハネによる福音書15章13節ー
*✾.。*✾.。*✾.。*✟。*゜+✾。*゜+✾。*゜+✾。
ー聖なる乙女は友の為に散るー
ミッション✟スクール〜聖なる乙女は友の為に散る〜
✟God be with ye✟
✟神が貴方と共にあります様に✟




