今後の方針
「…思ってたより甘いですね。
美味しいです。」
「そうだなぁ〜…
メーレってこんな瑞々しく美味しいもんなんだな。」
この街の住民などから聞いたおすすめの果物専門店にて。
メーレとピルムなどの果物を購入した一同は、
宿に戻り、店主のおすすめの食べ方で果物を食していた。
「それに…。
ピルムは冷やしすぎると甘みを感じなくなってしまうから、
少し冷やしてからまた常温のところに置いとくとうまいって聞いたけど。
本当だったな、シャキシャキしててうめぇや。」
博士は切られたメーレの隣に並べられたピルムをつまみながら、
口に運ぶとシャリといった小気味いい音が響く。
その博士の足元には、魔法で生み出した氷が入った水の桶があり、
買った果物が浮かべられていた。
「ですね、ですが今の時期あんまり日持ちしないのが欠点です。」
そう言いながらメーレを口に運ぶフランは、テーブルの上に座っているレグに対して、
小切りにしたメーレとピルムを空になった皿に追加していた。
レグは、追加された果物を口に運びながら尻尾を左右に揺らしている。
「そうだなぁ…日持ちするんだったら休憩時に食べれるんだが。
ダメだろうな、はちみつやシロップ漬けにすれば日持ちするらしいが…
高くて手に出せねぇな、破産しちまう。」
「砂糖や香辛料などの調味料はどれも高価ですもんね。」
「そうなんだよな。
特に蜂蜜は特定のモンスターからしか入手できねぇから、輸出量も少ねぇ。
そのモンスターの生息地も限りがあるし。
…そういえばさっきの掲示板にも、ハチミツの採取の依頼があったしな。」
「…そうなんですか。」
「ああ。確か、〈アルケー〉での依頼であったな。
明日にでも受けてみるか?」
その提案に、フランは首をブンブンと横に振って拒否した。
頭が遠心力で吹っ飛びそうなほど力強く。
必死なフランの様子に、博士は首を傾げていた。
「…そんなに嫌か?
依頼受けたやつには報酬の5リディアだけじゃなく、
少量だが、ハチミツも貰えるみたいだったぞ?」
「…昨日、師匠が何したかわかってます?」
と恨めしながら博士を凝視するフランに、博士は呆気に取られていた。
「…お前、あれまだ根に持ってんの?
私が、お前の敵のど真ん中に突き落とすなんて日常茶飯事だろ…。
ちょっとは慣れろよ」
「慣れろと言いますけどね…。
昨日は本当に死ぬかと思ったんですよ?」
「大丈夫だって、私が教えてる奴を死なせるような暴君だって言いたいのか?」
「…暴君は、暴君でしょう。」
「…よし、受けるか。」
「…嫌ですよ?
ハチミツが取れるモンスターって、凶暴で俊敏で…
毒の針を刺してくる奴じゃないですか。
今度こそ死んでしまいます。」
「お〜お〜。ちゃんと勉強してるんだな。」
「…まあ、昨日みたく放り出されて…
その相手の急所を知らなければ死にますし。」
と身を震え上がらせるフランをよそに、博士は嬉しそうに頷いた。
「関心関心。ま、安心しろ。
今回は私が取るから…お前は当分の間〈エンゲル〉の薬草採取でもしとけ。
3日に一回やらないと一からやり直しなんだろ?」
「…メリッタが生息している地域は、
薬草も豊富に生えている地域ですから、あるはずですが…。
珍しいですね?」
訝しげに首を傾げるフランに、博士は眉を寄せる。
「…お前、私をなんだと思ってる。」
「私が不幸な目に遭っている状況を片手に酒を飲むような、性格破綻者ですが。」
「お前なぁ…。
酒は飲んでないぞ?」
「楽しんでいるのは否定しないんですね…。」
と項垂れるフランを片目に笑う博士だが、何やら神妙な面持ちで話し始める。
「…昨日、またあの女がつけていただろ。
昨日は高ランク冒険者の男に間に入ってもらったが…次、何をしてくるかわからない。」
「…。そう、ですね。
…なぜあの女性は、”知っていたんでしょうか”。」
“忌み子”だということを暗に伝えるフランに、博士は首を横にふる。
「知らねぇ。あの女関わったことも、すれ違ったこともない。」
「…本当ですか?」
「ああ、記憶力はいいほうなんだがな。
…それに、過去の人物は全員お亡くなりになってる。」
「今回は死の森、光る洞窟、死の森と光る洞窟の街道沿いにある簡易的な冒険者ギルドしか行ってない。
出会ったことがあるとすれば、冒険者ギルドだが…心当たりはないんだよな。」
シュティがフランとなった洞窟と、先ほどの森の別称を言う博士は、
最後のピルム一切れをつまみながら、億劫そうに話していた。
「師匠は人を助けるお人好しでも、自ら人に関わる人でもないでしょうし。
…顔ですかね?」
「お前なぁ…。いっつもこの猫の仮面とか、顔を隠すもんつけてるんだぞ?
…もしかして、中のオーラが隠れきれていないのか?」
フランの冗談にハッと閃くように呟く博士に、フラン達は首を横に振りながら呆れた。
「冗談はさておき。
あの冒険者に助けてもらったのはいいが…妙に勘が良さそうだからな。
しばらくは、ランク上げることに専念しろ。」
「了解です。
…ちなみに、師匠の〈アルケー〉まで何ヶ月かかったんですか?」
「…ん?私か?
そうだなぁ…〈エンゲル〉から〈アルカン〉約一ヶ月。
〈アルカン〉から〈アルケー〉までは…半年かかったな。」
「結構かかりますね…。」
「まあな。なんかポイントをつけてその合計でランクが上がるらしいんだが…。
それはわからんな。
あんま早く上がりすぎると注目されるし…これぐらいが妥当なんじゃね?」
「…そうですね。
移動するにしても、最低〈アルケー〉まで上げたほうがいいんですよね。」
「そうだな、〈エンゲル〉の期間は3日に一回。
〈アルカン〉は1週間に一回。
ここから近くの街に行くにしても、1週間以上はかかるから…
最低〈アルケー〉まで上げないとな。」
「最低でも、約一年はこの街に滞在しないといけないんですね…。
今すぐ出発したいんですが…」
「それはそうなんだがな。
…なるべく、人目の多いところを歩くぞ。
あの騒ぎがあったんだ、あまり人前には出てこないだろう。」
「仮面が外れないよう用心しろよ。
あと、”どんなことがあっても”必ずレグと一緒にいろ。
いいな?」
「…了解です。」
「では、準備してきますね。」
と森へ出かける際に持ち歩く道具の最終確認を始めるフランを横目に、
博士はめずらしくもレグの頭を優しく撫でていた。
また、いつもなら撫でられるのを拒否していたレグも、なぜかその時だけは。
博士に自身の顔を弄ばれても逃げたりはしなかった。




