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亡霊の軌跡  作者: 氷淡月
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新たなる地

「冒険者…ですか?」


 聞き覚えがないその言葉に、

 フランは静かに森を駆ける博士の背中を追いかけ、背越しに問いを投げかけた。


「ああ、さっきお前が倒したアラサウスの、心臓代わりの石あっただろ?」

「はい、魔石と呼んでいた石ですよね?

 急所だから、そこを狙えと。」


「ああ、その魔石を身体に宿している生物を魔物(モンスター)と呼んでいてな。

 そのモンスターを刈ることを職としているのが冒険者(ハンター)だ。」

「なるほど。」

「それで、なぜなってもらうのかだが…

 この森は、冒険者のランクの中でも、

 下から三番目のランク〈アルケー〉以上を持つ者でなければ

 入れないと定められている。」


 その事実を聞いてフランは、不安な声をこぼした。

 自身達が、普通とは違う異常な存在だと気付かれたのかという不安を。

 

「それって…」

「ああ。

 冒険者のランクをひとつも持っていない奴が何でここにいるんだってなるよな。

 それだけで、不審を招く。」


「それを言うなら、もう見られた時点で終わりじゃ…」

「いや?

 それは大丈夫だ。

 何せ、私はアルケーを所持しているからな。

 この森には、一人でもアルケーがいれば入れる。」


 と言いながら、紫色の光沢を持つ板を差し出した。

 それは、冒険者なら必ず持っている証明書のようなものであり、

 冒険者の間ではライセンスと呼んでいるものである。


「…いつの間に、取ってたんです?」

「ん?

 お前が魔素切れでぶっ倒れてるときだが?」

「…え。」


「いやぁ...これめんどいのがこのランクだと、

 1か月に一度は依頼を受けなきゃランク取り消しになるんだわ。」

「…だから、たまに血まみれで帰ってきてたんですか。」

「そゆこと。」


 とフランは、稀に服が色鮮やかに染まりながら帰ってきていた状況を思い出していた。

 当初は、その姿を見て小さな悲鳴をあげていた自分のことも。


 少し苦い顔になるフランだが、彼女の中で疑問が生まれた。

 博士がアルケーを取っているのであれば、自分が取る必要があるのかと。

 

「...?

 それなら、私が冒険者になるのに何の意味が...」

「まあ、しいて言うなら手段が増えるってことだな。」


「手段…ですか?」

「そ。冒険者なら…

 ランクが上がれば、上がるごとに危険な地域へ赴くのに不審なんて思われない。

 逃げられる場所が増えるだろ?

 それに、依頼をこなしていれば金も貯まっていくからいざという時の手段になる。」


「なるほど…ですが、あの女性と会ったから冒険者となったと思われませんか?

 あまりにも、時期が良すぎると思われるかも…」

「ま〜…それは気を張りすぎ…とも言えないけどな。

 あの女のことだ、突拍子なこと言っていても不思議じゃねぇ。」


「でも、それは大丈夫だと思うぞ。」

「…そうなんですか?」


「ああ。冒険者とは、命を懸ける仕事だ。

 だが、一攫千金を狙いやすい仕事でもある。

 だから、まだ未熟な子供とかが憧れを掴むためだけに冒険者となって死亡した例は少なくない。

 それを防止したのが、冒険者となれるのは15歳以上と法が定まっている。」

「だが、お前は昨日で15歳になった。

 冒険者登録をするために、冒険者ギルドがある街まで赴く途中あいつらに会った。

 という辻褄ができるだろ?

 だから、今の時期がちょうどいいんだよ。」


 その博士の言い分に、フランは納得していたが…彼女の中の不安は未だ消えなかった。

 先ほど出会った女性が、何か危ない気がしてならなかった。


 それは、博士にとっても同じなようであったが。

 なにせ、これほど真剣な様子の博士も珍しいのだから。

 

 博士たちが、街の城壁近くの街道へとつながる道を目視したその時。

 

「…もうすぐ、街に着くからこれ被れ。」

 そう言って博士はその場に止まり、差し出したのは、

 博士が現在被っているものと似ている猫の被り物であった。

 だが、色は黒ではなく紫色のようだ。


「…これは?」

「お前、いつまでも猫野郎を顔に引っ付けるわけにもいかねーだろ。」

「…そ、うですね。

 いただきます。」


 と差し出された仮面を受け取り、レグを少し持ち上げながら仮面をつける。

 先ほどまで、レグが張り付いていたのもあり生温かさと妙な冷たさが伝わってくる。

 そして目を隠し終えると、レグは役目を終えたかのようにフランの顔から離れ、博士の肩に乗った。


「…それにしても、レ…猫さんには助かりました。

 ありがとうございます。」


 と、未だ瞳に映る呪紋と自身の顔を隠してくれたことに感謝する。

 一瞬レグの名を呼びそうになっていたが、

 博士があの女性が現れてから名を呼んでいないことを察したフランは言い止まった。

 

 そして、その感謝にレグは、「みゃう。」と答えていた。

 まるでどういたしまして。と言っているように。


 ーーーーーー○


「通行書の提示をおねがいします。

 通行書がない場合は、一人につき2リディア支払う必要があります。」

 

「はい。」


 ある街の関所にて、少し背の高い女性は冒険者ライセンスと

 銀で作られた硬貨二枚を手渡していた。

 その女性は、猫をモチーフとして形どり、金色の模様が彫られている仮面を身につけていた。

 

 警備員は、ある魔道具にその女性のライセンスをかざした。

 そして、偽物ではないと確認した警備員は頷き、女性に対して質問を投げかける。


「はい、確かに。

 今回はどういったご用件でこの街に?」

「観光もあるのですが、この子が15歳になったので冒険者登録をしようかと思いまして。」


 彼女は後ろで待機していた少し小柄な少女を抱き寄せるようにしながら警備員に述べる。

 その女性もまた、女性が身につけている仮面と類似している

 紫色と紺色の模様が彫られたものを身につけていた。


 そのことを聞いた警備員は社交辞令を述べながら、

 手元の用紙に書き留めていき、手元にあったライセンスを女性に返した。

 

「そうなのですね、おめでとうございます。

 …では、これにて通行を許可します。」

「この街に来ていただくのは初ということですので…

 この街は果物の生産が盛んですので、良ければ立ち寄ってみてください。

 ちなみに冒険者ギルドは、あそこを左に曲がって少し進めばありますので。」

「ありがとうございます。後で行ってみますね。」


 「ええ、ぜひ。…次の方、どうぞ。」

 

 警備員が後ろに待機していた商人の使いに声をかけるのを背に、

 猫の仮面を被った女性たちは関所を通り抜け、活気溢れる街へと踏み出していった。

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