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亡霊の軌跡  作者: 氷淡月
20/27

不穏な来客

「あ、あの…?」

 

 声をかけたのに返答がなく、困惑している様子の女性。

 フランからは見えていないが、漆黒の長髪と黒い瞳を持ち合わせている女性と、

 その後ろに佇んでいる燕尾服を着た男がいた。


 そして彼女達が現れる直前、博士は目元が隠れるように猫をモチーフとした黒の仮面を着けていた。


「あ、ああ…すみません、お食事中でしたよね。

 それに…初めましてですのに、馴れ馴れしくしてしまって…

 私は、”スミレ”と言います。

 そして、こちらが…」

「エレスと申します。スミレお嬢様の執事をさせていただいております。」


「…で、あんたらこんなところまで来てなんの用だ。

 …お貴族様には私ら平民に用なんてないだろう。」

 

 そうして突然現れた人物を邪険に扱うように、手を振って遠くへ行くようにと催促する博士。

 今までフランが見たことのない博士の態度に、後ろに控えていた執事が激怒していた。

 

「お前、お嬢様に対して何たる言いぐさを…!

 先程の無視といい…許されるものではないぞ!」


 と博士に接近した途端、後ろにいた女性が止めた。


「私が勝手に押しかけたのだから、怒る必要はないわ。

 エレスさん。」

「ですが、お嬢様…」

「いいの、こちらがお邪魔させていただいているもの。」


 というやりとりを交わしているが、

 博士は仮面越しでも、嫌悪しているのがフランにはわかった。

 

 …いや、そう捉えられるようにわざと、感情を作り出している。

 と言う方がフランを納得させるだろう。

 博士がこれほど感情を露わにするのは稀であった。


 そして、執事を説得し終えた女性は神妙な趣で提案をしていた。

 

「…では、単刀直入に言いますね。

 私と一緒に暮らしませんか?

 私と一緒なら、あなた達にこんな窮屈な思いもさせることはありません。

 苦しい思いも、悲しくさせることも…皆から嫌われることもありませんから。」


 という提案を。

 だが、博士はそれを拒否した。


「嫌だね。」

「…私らとお前、初対面だよな?

 何でそんな奴についていかなきゃならないんだ?」

 

 女性を敵視するような博士の当然の反応に、又もや執事は声を荒げた。

 そしてその執事を宥める女性。

 

「お前、いい加減に…!」

「エレスさん、落ち着いて…!」

「ですが、お嬢様…!

 せっかくのお嬢様のご厚意を邪険にしようとしているのですよ!」

「初対面なのは事実だもの。

 警戒されるのは仕方がないわ。」

「無礼にも程があります!」


 突然現れて謎の提案をしてくる女性と、

 博士たちを嫌悪していることを隠そうともしない執事に、博士は億劫な態度をとった。


「…はあ。お貴族様の茶番に付き合うつもりはない。

 行くぞ、猫野郎ども。」

 

 出していた焚き火に水をかけ、

 その場を後にしようとしたその時、この女性は慌てて博士に訴えていた。


「ま、待ってください!

 私は、貴方達のことを知っています。」

 と言う女性に、一瞬博士の体の動きが止まった。


 その様子に安堵した女性は、咄嗟に語り始めた。

 

「貴女方は、忌み子なんですよね?

 でも、安心してください。

 私を救ってくださった公爵家の優しい皆様なら、

 貴女方を迫害などは決してしませんし、

 殺されることもありませんから!」


 と必死に叫ぶ女性が忌み子というワードを口にした瞬間、辺りが凍えたような沈黙が流れた。


「…お前、私らを馬鹿にするのも大概にしろよ?」

 その沈黙を破ったのは、博士の怒りのこもった声であった。


 その怖さと気迫にフランさえも身体が動かず、冷や汗をかいていた。

 この時の怒りだけは、先ほどの不機嫌とは打って変わり。

 フランに対しても、この怒りは本物だと認識させた。


「ご、誤解です!

 私は、貴方達を馬鹿になんかしていません!

 ただ、私は貴女方を助けたくて...!」

「助けるだぁ…?

 私らを忌み子と呼ぶような連中とは関わりたくもねぇよ。」

「で、ですが…!」

「なんで、あんな災いを呼び起こすような連中と一緒にされなきゃならねーんだ!!

 私は、あの忌まわしい忌み子に、大切な友を殺されたんだぞ!?」


 その一言に女性は固まり、

「…え?」と情けない声を溢す。


「え…だ、だって…

 アイラさんと、レイさん…ですよね?」

「…それなら、人違いだ。

 私らじゃねーよ。」


 人違いという事実という予想外の出来事に女性は狼狽る。

 

「…え?そんなはず…

 だって、時刻も場所もここのはずなのに…

 そんなはず、ない…

 もしかして、私の行動が変わったせいで異変が起きてる…?」


 そして、フランがさらに警戒するほどの意味不明なことを俯きながら呟いていた。


「…何ブツブツ言ってるか知らねぇが…

 人違いならもう、私らは行くぞ。」


 とその場を去ろうと歩き出したその時、女性はまた懇願するように問いかけていた。


「ま、待ってください…!

 それなら、お名前を…!

 お名前を聞かせてくれませんか…!」


 だが、その願いが聞き入られるはずもなく。

 

「……はあ?

 言うわけないだろ。」

「私らを忌み子と呼んだやつに教える名なんかねぇ。

 忌み子と関わるような奴ともな。」 

 

 行くぞ。と言う声掛けと共にフランは博士の背中を追いかけるように走っていった。

 顔にレグを張り付かせたまま。


 そしてその場にポツンと、女性と執事が残された。


「お嬢様…あまりお気に召されぬよう…

 あの変な格好をしていた冒険者です。

 変なプライドがあるのでしょう。」

「…う、ん。

 人違いだったのかなぁ…。

 でも、忌み子のことを悪く言うのは許せない…!

 彼らの苦しみも知らないのに…

 彼女の友人を殺したのも何か理由があるはずだもの。

 一方的に憎むだなんておかしいわ。」


「そう思えるのは、お嬢様ぐらいですよ。

 普通は、あのような反応をします。

 本当に、お優しい...」

「普通…?

 そうか、もし本当に人違いだったらあれだけど…

 あの人だもん、普通を演じていたっていう可能性もあるよね!」

「それに、この森に来れる人は数少ないもの。

 …エレスさん、あの人達にもう一度会えないかな?」


「お嬢様、あのような態度であなた様の優しさを無下にする輩ですよ?

 もう一度会う価値など…」

「お願い!」

「…分かりました。スミレお嬢様のお願いですものね。

 それと、この事はくれぐれも内密に、でしたよね?」


「うん!ありがとう。エレスさん。」

「いえいえ、お嬢様には領地を救ってくださった恩がありますから。」

「…そんな、大層なことはしてないよ。」


「ご謙遜を。それでは、あの者の追跡はお任せください。

 公爵様方が待っておられます。行きましょう。」

「…うん。わかった。」


 その会話を最後に、彼女達は死の森から忽然と姿を消した。



ーーーーーーー○


「…すまねぇ。予定がちょっと早くなるが、近くの街に行くぞ。」


 死の森を静かに駆け抜ける博士は、珍しくも焦りが込められた声で、

 自身の背中を必死に追いかけるフランにそう声をかけていた。

 未だ、顔に猫を張り付けている弟子に。

 

「了解しました。

 …ですが、街ですか?」


「ああ…本当は、もう少しお前が扱える魔法を増やしてからにしようと思ってたんだが…。

 あの女は私らを忌み子だと知っていたことと、私らの前の名前を言い当てやがったからな。

 早い方がいい。」


 そう、博士が言うように。

 リリスという謎の遊女を調べる探偵をしていた頃の博士の名前は”アイラ”であり、レグが猫になる前の中性的な子供の名も”レイ”であった。

 彼女らは蒼き悪魔事件で既に死んでおり、誰も名を知らないはずである。

 特に、アイラという名は。


 何せ、レイがアイラという女性を呼ぶときはいつも”博士”であったのだから。


「…ですが、なぜ街に?」

「おそらく、あの貴族野郎は監視役を送ってくる。

 その時に不信感を抱かれたらたまったもんじゃねー。

 お前が名を変えて、一度死んだのも全部水の泡だ」

 


「だから、お前には”冒険者”になってもらう。」

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