噂のハンター達
かつてある国の中枢として、人が賑わい活気があった繁華街。
だが、今となっては過去に現れたモンスターのなかでも特にキモいと恐れられている空飛ぶ虫の怪物。
〈ラムク〉が初めて出現した場所であり、今は砂漠のようにサラサラとした黒い砂が建物の残骸を覆い尽くして広がっている。
そして、その廃墟の物陰に高速で駆け抜ける大小の影が3つほどあった。
そのうちの一際大きい影は、何やら蚊とハエのキメラのような形をした空飛ぶ大きい虫だった。
ブーンと羽が共鳴する音が静かに響き、風のごとく速さで空を翔ている。
だが、その腹部には奇妙に紫色に光る短剣が突き刺さり毒のようにジワジワと黒く侵食していて、その部分から緑色の血が滴っていた。
そのせいなのか体がふらついていたが、速いことには変わりなかった。
そしてそれを同じような速度で追いかけているのがフード付きの黒マントを被った人間二人組だった。
1人はその手に、炎のように赤く光る両手斧を持ち、もう一方は両手に追いかけている虫に刺さっていた短剣を持っていた。
『ごめんなさい、ルアちゃん。
そっちに行っちゃったわ。』
と両手斧を持った人間が胸元にある灰色のペンダントを何もを持っていない方の手で触れながら少し色っぽい若い女性の声で話しかける。
『すまねぇ、一匹仕留めぞこなった。』
もう片方の片手剣を持つ人間も悔しそうに青年の声でペンダントに向かって声を放つ。
そしてその直後、灰色のペンダントが光を灯し、向こう側で話し合う女性たちの声が聞こえる。
『おっけ。…ジル、視点と大体の目標の位置渡すね。
まだ打てそう?』
『う、ん。ここからなら、うて、るよ。
魔力、も、まだ一発ぐらい、なら、うてる。』
『そっか。あ、そうだ2人とも、ちょっと離れ』
と、片方の女性が言い切る前に爆音が聞こえ、その音と共にこの2人が追いかけていた虫が爆発し、弾け飛んだ。
正確には、刺さっていた紫色の光を放つ奇妙な短剣に何かが命中し、その反動で短剣が爆発したのだが。
追いかけていた二人組の黒マントは一歩避けるのが遅れ、緑色の血でベッタベタに染色されていた。
そうして3拍ほどおいた後、灰色のペンダントから先ほどの女性の1人が
『……え〜、と。無事?』
『大丈夫に見えるか?てめぇ。』
『ルアちゃ〜ん?確かに、私たちが〜仕留め損なったのは反省してるわよ?
だ・け・ど、年頃の乙女にこの仕打ちはちょっとアレなんじゃないかしら?』
とペンダント越しから聞こえる女性の声にある意味黒い殺気を出しながらどこかへ向かう、緑色に染まった2人。
『い、いや…そんなつもりはなかったよ?
ほ、ほら。二人なら、これぐらい避けれると思…
すみませんでした。』
と、緑色の血でずぶ濡れになった2人にペンダント越しにせめられるルアと呼ばれた女性は、だんたん声を小さくしながら声だけでもわかるぐらい萎縮していた。
そして、おそらく何かを短剣に当てたであろうもう1人の少女は
『ご、ごめんなさい、ごめんなさいごめんなさい!!!』
と声だけでもわかるぐらい、頭をブンブンと下げている様子がわかる。
そうしている間に先ほどから、結構距離が離れている場所に数秒で到着した二人組は、その場に残っている黒い砂で染まった高台に自身の足の力で飛びながら登り、上にいた二人組と同じ黒マントを被った小柄な人間とその小柄な人間よりひとまわり大きい人間がいるところへと迫った。
しかも、そのひとまわり大きい人間は高台の端で萎縮しており、小柄な人間は大きな狙撃銃を抱えながら尻をついて怯えていた。
だが、緑に染まった二人組がこの奇妙な2人組に啖呵を切ろうとした直前、
「あれ?2人とも。
その格好どしたの、どしたの?」
と緑に染まった二人組のまわりを少年のようにぐるぐると回り話しかける少年のような声と身長の人間。
「あっれれ〜?2人とも、僕たちに今日は勝つって言ってたのに〜。」
「私たちよりも、倒す数少ない上に、ジルに手伝ってもらうなんて。」
「「いっけないんだ〜」」
と声も図体も同一人物のように思える小柄な人間2人は緑の…いや、あの二人組を煽り。
「2人ともからかい過ぎだヨ。
あとが怖いんだヨ。」
分身のように思える小柄な人間2人が煽っているのを仲裁する、中性的な声をしている少し言い方が独特な人間。
「というよりも、あなたたちさっさと着替えなさい。
臭くて仕方がないわ。」
しっしと2人を手を払うように促す、きつい口調の女性。
と、無言でふわふわと宙に浮きながらきつい口調の女性の後ろをついてくる人間。
突如現れた6名の同じ黒マントを被った人間たちが、あの二人組が来たのとは別方向から、わらわらと集まってきていた。
して、このなんとも仲が良さそうで個性豊かな10人の人間たち。
今は先ほどの虫の血によって、情けない姿になっている二人組だが、先ほど見たようにこの二人組の身体能力は人間とは思えないほどに卓越しており、そして情けない姿にした張本人である狙撃銃を持つ小柄な人間は約5Km離れていた高速で動く虫に刺さった短剣に弾を命中させている。
ちなみにだが一般的に、いや、今までも狙撃銃で打てる最高範囲は3kmとされている。
などと人間ではできない所業を難なく成し遂げているとは、今言い争っていたり、見守っていたり、萎縮しているなどとなんとも個性豊かな彼らを見れば想像できないだろう。
しかも、だ。
先ほど、いろいろあったが討伐したあのキモい虫は。
この世界に突如として出現するモンスターの中で定められているランク。
これは危険度などを元に示されている物で、このランクの中でも最上位の次に高く、一体現れるだけでも国を1日かからずに滅ぼせるほどのランク。
天災に匹敵するモンスターだったのだ。
しかも、このモンスターはあの一体だけでなく、当初は約21体ほどいた。
だが、それを約30分ほどで片付けた彼らは…モンスターを倒すことを生業としているハンターが集まりグループとして活動しているパーティーの中でも一際目立ち、噂が絶えないが誰もその正体を知らぬとされており、どこのクランにも所属していない謎の団体。
その名も《レヴナント》。通称《亡霊》。
パーティーランクは最上位の”セラフィム”だとされており、唯一天災以上に匹敵するモンスターを討伐することが可能だと言われているランクに属している。
ハンター個人やパーティ、クランを管理する組織《ハンター協会》からセラフィムと定められているパーティーは国に片手で数えられるほどしか存在しない。
つまり、単純に言えばとても強いのだ。
しかも、ハンター業界に名を表してから約1年足らずで最高ランクに認定されている。
コレは、歴史上今まで誰も成し遂げたことがない快挙であった。
現在Sランクと定められており、とても速いと言われていたパーティーでも、約5年はかかっているのだ。
だがそんな《亡霊》と呼ばれる彼らの姿を見た者はいなく、本当に実在しているものなのかと噂されるほどに表に出てこないパーティーでもある。
だが、何度も天災ランクのモンスターを討伐しているため、実力は認められているのだそうだ。
過去に一度だけ民間人でも《亡霊》を間近に見られるような状況に陥ったことがあった。
街中にモンスターが現れたのだ。
ここで補足だが、街中にはよっぽどのことがない限りモンスターが湧かないよう、各国それぞれを覆うように結界が張ってある。
そのため、ハンターはそれぞれ国の周りに沿うように配置されている堀の外へ赴き、結界などを突破されぬよう間引いて、食い止めているのだ。
だがその時は、モンスターが現れないようにする結界が弱まっていたらしく、運悪く街中に現れてしまったのだそう。
そしてモンスターが現れた街に、偶然《亡霊》がいたらしく、急遽対応したのだという。
その時の様子は、町中を黒い影が飛び回り、暴れるモンスターのそばに黒いナニカが通り過ぎたかと思えば、その時にはモンスターは死んでいたのだそう。
中には、突如ボロボロとモンスターの体が崩れ落ち、変な音が鳴ったと思えばモンスターは痙攣し、何か風が吹いたかと思えばモンスターの体がサイコロ状に切り刻まれていたりなどと”普通”ではない現象が起こっていたのだそうだ。
…これを聞くと、一方的に討伐される彼らに同情さえ覚えてしまうだろう。
そして、《亡霊》は18体のモンスターが出現してからおよそ5分足らずで全てのモンスターを討伐した。
18体のモンスターは天災に匹敵するモンスターはいなかったのだが、それでも18体を5分足らずで片付けるというのはとても速い。
この事件で現れたモンスターを討伐したのが《亡霊》だとわかったことをきっかけに、本当に実在しているのだと思っていなかった者達も信じるようになり、より一層《亡霊》の正体が何者かと世間がざわつきはじめた。
この事件の時は、姿を見た者はおらず黒い影を見たものしかいなかったため姿は誰も見ていなかったのだ。
噂では《亡霊》は名簿によると約10名で構成されているらしい。
が、コレが本当のことかは誰も知らない。
だが、こんな不可解だらけの彼らに一部の者たちが口を揃えていうことがある。
””容易に亡霊を探してはならぬ。認識してはならぬ。狩ってはならぬ。
さらねば、死神が其方の魂を刈り取るであろう。
我らを救ってほしくば、厳守せよ””と。
脅威のセラフィムと定められ、異才を放つ彼らだが。
彼らはハンターになることを夢に抱いてきた者たちではなく、それぞれハンターとは無縁の生活を送っていた。
ある者は、生まれながらに”呪い”を持ち。
ある者は、優秀すぎるが故に存在そのものを否定され。
ある者は、異端者と言われながらも自身の好きを追い求め。
ある者は、他者の罪を背負い。
ある者は、自身の輪廻から逃れられず。
ある者は、重すぎる期待を託され。
ある者達は、唯一の肉親を殺し。
ある者は、自ら禁忌の道を進むことを決意し。
そしてあるモノは、自ら道化となることを選んだ。
これは、さまざまな過去と個性を持つ10名の者達が巡り合い、”亡霊”となるまでを書いた日誌である。
…さて。話が外れるが、いつまで現在の彼らは言い争いを続けているのだろうか…
本当に、仲良しだ。




