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亡霊の軌跡  作者: 氷淡月
18/27

死の森

 誰も立ち寄らないとされる森にいる、警戒心が皆無の少年達に、

 フラン達は息を潜めながら、耳を澄ませていた。


「ね、ねぇ…。おにぃちゃん。

 かえろうよぉ、こわいよ…」

「なーに言ってんだよ、大丈夫だって。

 ここは、誰も入ったことのない森なんだぜ?

 きっと、すごいお宝が眠ってるに違いないって!」

 と臆病な少女とは裏腹に目をキラキラさせる少年。

 

 だが、少年の言い分に少女は不満があるようだ。

「で、でも…

 おかあさんがぜったいに、はいっちゃダメって…」

「そんなの、でまかせに決まってるって!

 お化けが出るとか、俺たちを怖がらせたいだけだっつうの。」

「でもぉ…」

 と自分の言いたいことが聞いてもらえない少女は、今にも泣き出しそうである。

 だが、兄であろう少年は気にせず、どんどんと前へ進み…

 フランが隠れている大樹のそばまで来た。


「ほら、見ろよ!みたことねぇキノコがいっぱい生えてるぞ!

 これを持って帰れば、ぜったいお金になるって!」

「…ほんとだ。きれいなピンク色…。」

 

 少年たちが目につけたのは、フランがいた周辺の大樹の根元に生えていた、

 淡いピンク色に光るキノコだった。

 その綺麗さと未知の物に少女の涙は止まったようだった。

 

「これで、今日はお腹いっぱい食べられるぞ!!」

 と元気づけるように、少女に声をかける少年に

「…ほんと?」と少女は、期待に胸を膨らませた。

 

「ああ、今日はひさしぶりに肉食おうぜ!」

「おにく…!たべたい!」

「じゃあ、ここに生えてるこのキノコ。

 あるだけ持って帰ろ!」

「…うん!」

 とこの奇妙なキノコを摘み、肩に下げていた大きめのカバンに詰めていく二人。

 

 手分けをした方が効率がいいからと二人は手を離し、反対方向から摘んでいく。

 その時、少女は一瞬ためらったが、兄が大丈夫と言った言葉で兄とは反対方向に歩く。

 ある程度歩いた後、少女がある大樹のそばにある金色に光るキノコを見つけて目を輝かせていた。

 

 そして少年の方はと言うと…ある程度カバンにキノコが入り、少女に向けて声をかけていた。

 だが返事はない。

 少年は、また転んで泣いているのかと思いながら少女が行った方向に足を進めていく。


 そこで少年は、少女を見つけた。


 蠢く大樹に飲み込まれ、鈍い音が鳴りながら喰われていく妹を。

 朱に染まり、ボトリと草むらに落ちたその小さな手を。

 その大樹の足元には、金色のキノコが生えていた。


「…ひっ。うわぁあああ!!」

 その惨状を見て、少年は必死に逃げた。

 頭に小さな透明な、緑色に淡く輝くツノを生やしながら。


 その少年の逃げ足は凄まじいもので、フランがいた初めてそのキノコを見つけた地まで逃げることができ、近くの大樹のそばへと隠れた。


 少年は安堵したが先ほどの少女の酷い姿が頭を駆け巡り、胃酸を吐いた。

 そして、

 「ごめん、ごめん…エマ…」

 と妹の名を呟き、涙ぐみながら己の未熟さ、愚かさに涙していた。


 この少年たちの体は、骨が見えるまでとはいかないものの痩せており、服もつぎはぎであった。

 少年達は、今のままでは餓死すると思い、

 また日に日にやつれていく母を楽にさせようと、誰も近寄らぬこの森に来ていたのである。

 

 だが、この森は。

 そんな甘い考えが通るほど、容易な場所ではなかった。

 

 隠れていた少年の胴体を、大樹は器用にその根で掴む。

 大樹からは少年の体は完璧に隠れていたはずなのに、だ。

 

 そしてゆっくりと、焦らすように少年を掴み上げた後。

 その大きな口を歪ませて、嘲笑う。

 

 

 少年達が目を惹き、摘んだ淡いピンクや金に光るキノコ。

 それは別名”人喰い樹の悪巧み”と呼ばれていた。

 

 人喰い樹の周りに生える大樹にそのキノコが生えるように胞子を放ち、

 その異質さに惹かれて摘んでいく人間や、自身に生えている金色のキノコを摘まんとする者を対象にしている。

 

 また、摘んだ時の切れた部分から人喰い樹のみがわかる匂いがするため、

 隠れていてもすぐに見つかってしまうという効果がある。


 そして、その人喰い樹が生み出す淡いピンク色のキノコは、

 貴重さゆえに、食べると不老不死になれると言う噂が一つの村で広まった。


 その村の住民達はそのキノコ欲しさに、この森へと入り、まんまと罠にハマって全員死亡した。

 そのため、この森は禁忌となり誰も寄り付かなくなったのである。


 ちなみにだが、この人喰い樹の詳細をフランは博士から聞いていたため、キノコを取ってはいない。

 今のフランでは、勝ち目はないとわかっていたから。

 

 だが、この人喰い樹が何十名もの人間を食べたため、突然変異し、

 物理攻撃無効となってしまっているのは、誰も知る由もなかった。


 なにせ、獲物にされたものは皆、喰われていたのだから。

 

「…え?な、んで?

 い、いやだ!…たすけ」


 そんな異質な怪物の獲物となった少年は、顔を青ざめて悲鳴を叫び、助けを求めるが…

 誰も寄り付かぬ森に、禁忌を犯した者を救う救世主など、いなかった。

 

 そして、その愚かな獲物を見たかのように目を歪ませる人喰い樹は、泣き叫ぶ少年の体を口へと運んだ。


 その確かな味を堪能するように、咀嚼しながら。


 また、この少年たちの一部始終を見ていたフランもまた、助けはしなかった。


 この少年が喰われ、鈍い音が辺りに響き、だんだんとフランの顔が曇っていく。

 手も震えているが、決して逃げ出すことはなく、気配を消すことだけに集中した。

 その様子を見ていたレグは、しっぽと顔を耳に沿うように密着させ、フランの耳を塞いだ。


 それでも、鈍い音は聞こえているがフランの震えは少しおさまり、顔も少し和らいでいた。

 そしてそのレグの行動に、感謝を伝えるようにレグの顔を撫でて頭を下げる。

 その様子にレグは目を閉じながら尻尾で、ポンポンと頭を撫でていた。


 ーーーーーーー○


 そして、人喰い樹がフランがいた場所から離れ、新たな定位置につき擬態したことがわかったフラン達は、

早足ながらも他の化け物に気づかれぬよう博士の元へと帰り、収穫物を博士に渡した。

 

 人喰い樹が喰った人間の血の匂いで他の人喰いが現れるからである。


 少し遅く帰ってきたフラン達に声をかけた博士は、何も言わなかった。

 顔が少し曇っているフランに、博士は無言で頭を無造作に、だが優しく掻き乱し、

 帰ってくるまで焼いていた肉を見せていた。

 

 その肉は、外は焦げ、中は生焼けであった。

 その肉を見てフランは、

「…なに、貴重な肉を焦がしてるんですか。

 生焼けで食べれないじゃないですか…」

 と博士に小言を言いながら焦げた部分を剥いでもう一度焼こうと試みていた。


「いやぁ…、火加減ミスった♪」

 すまんと言う博士に、フランとレグは呆れる。


 だがそのフランの表情は——少し和らいでいた。

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