5年後の日常
「…し、死ぬかと思っ……」
と膝をつきながら荒い息を吐くフランの元には、少し焼け焦げたアラサウスがあった。
「おーおー、今日もいい逃げっぷりだったな」
「みゃう。」
と息切れしているフランにかけより、皮肉に笑いながら飲み物を渡す博士とその肩にのるレグ。
「……それはどうもぉ。」
と飲み物を受け取り、苦笑するフランが居た場所とは——
あの洞窟ではなく、あの街でもなく。
洞窟があった場所から遠く離れた、ある森林である。
その森は、禁忌の大樹と呼ばれた人喰い樹が住んでいると言われ、命知らずや馬鹿以外は誰も立ち寄らない死の森であった。
「もう、基礎魔法一発ぐらいじゃ気を失わなくなったな。」
「そうですね、無いよりはましですが…
まだ全然ですよ…外したら終わりですし」
「そうだなぁ…
まだまだ射撃の精度は皆無だしなお前。
今日もこいつの肩カスっただけじゃんか。」
とアラサウスの少し毛が焦げている肩を指差す博士に渡された飲み物を飲んでいたフランは
「博士がぁ…急に、あのアラサウスの真正面に突き飛ばすからでしょう~?
本当に、死ぬかと思ったんですよぉ?」
と静かに笑うが、その声には苛立ちが込められていた。
だが、言われた本人は何食わぬ顔で淡々と述べる。
「そうしないと、お前いっつも動かない的に向かって貴重な一回使っちまうだろ?
そんなん実戦に役立たねぇよ
2発目まではまだ足りないんだからさ~」
「それはそうですが…
なんか一言、言ってくださいよ。」
と、師と変わりない博士からのダメ出しに、納得しながらも不満を呟くフラン。
「やだよ。言ったらお前、嫌でも動かないじゃん」
「……。」
「ほら、そんな不満垂れてないで早いとこ解体するぞ。
こいつの血の匂いで、他のやつらが集まってくる。」
「…了解。」
と博士から解体用のナイフを受け取ったフランは、手慣れた手付きでアラサウスの首を切り落とし、皮を剥ぎ取るなどの解体を進めていく。
解体中で頬などに血が飛び散ることがあったが、なにも恐れておらず、博士と共同しながら数分もすれば、骨、皮、肉、心臓代わりの砕けた石、内臓などの臓器ごとに分けられた。
シャリ、シャリとナイフで骨と肉が裂かれる音が響く。
「もう、血を見ても何とも言わなくなったな。
前は悲鳴上げて気絶してたのに」
「それは…いきなり内臓とか見せられたら誰でも気絶しますよ…
一番顔をしかめる部分じゃないですか」
とその状況を思い出したのか、苦い顔つきになりながらも肉などを葉で小分けに包んでゆくフラン。
だが、博士は
「…そうかぁ?
胃の中身とか見せてねぇからまだましな方じゃ…」
とフランが想像もしたくないようなことを呟けば、
「それ以上言わないでください。
見せないでくださいよ?」
と笑っていながらも圧をかけるフランに博士は
「わ、わかった。わかったからそんな睨むなよ。」
と手に持つ内臓に入れようとしていたナイフを渋々しまっていた。
その様子にフランは少しだけ安堵した。
「…よし、食料確保も終わったし。
今日は肉食うぞ~!!」
「では、私は薬草取ってきますね。
もうすぐ在庫なくなるでしょう?」
「あ、そうだな。頼むわ。
レグ、お前ついていってやれ。」
と少し離れたところで待機していたレグは
「みゃう。」と返事をしながらフランの肩に乗った。
「今日も、お願いしますね。レグさん。」
「みゃう。」
「前みたいに、迷子になるなよ~」
「レグさんがいるので大丈夫ですよ。」
と手を振りながら彼女たちを見送る博士に、フランは軽く手を振り、草が生い茂る森林の中へと入っていった。
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「…これぐらいなら、大丈夫でしょうか。」
とあらかじめ準備していた布が敷かれたカゴの中には、少しの回復作用がある薬草、
肉と共に焼くと香りがつきより一層美味しくなる細かい葉、野菜がわりの食用である木の根や葉の束、そして少し甘く、食感が独特な小粒の木の実が積まれていた。
用意したカゴいっぱいではなく、三人であるならば約1週間は余裕で持つような、そんな量であるため少し余裕がある。
そのカゴを少し背の高い木に登っていたレグに見せながら聞けば、そうだねと言わんばかりの鳴き声で
「みゃう。」と返事をしていた。
そして華麗に飛び降り、その小さな口で器用に摘んでいた木の実をフランが持つカゴの中に入れる。
レグがフランの肩に乗ったのを確認したフランは、博士がいる方向に進もうとした。
——その瞬間だった。
前方からこちらへ近づいてくる何かの気配をいち早く察知したレグがフランに鳴き声ではない、彼女たちの間だけで伝わる合図を送った。
その合図に気づいたフランは、慌てずに近くの身を隠せる大木や高い草木が生い茂るところへと飛び移り、カゴを大木の根に置きながら身をかがめて息を潜める。
そして彼女たちが隠れた数秒後に、その正体が現れた。
その正体とは——
「お、結構広い場所に出たな…?
ここなら、いいもん見つかるんじゃないか!?」
「ね、ねぇ…おにいちゃん。はやくかえろうよ…」
と元気な大きな声である場所を指差す少年と、
その少年に手を引かれながらか弱い声で涙ぐんでいる少女だった。




