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亡霊の軌跡  作者: 氷淡月
16/27

修行の代償と成長

【補足】

 メーレとは、この世界に順応して進化した林檎の名称となります。

 色の種類としては、オレンジと黄緑色があります。

 ですが、味や食感は林檎とほとんど変わりません。

 魔素切れを起こし気絶したフランは、ある懐かしい夢をみていた。

 

「お母さん、これすごいね!

 魔法みたい!!」

 

 そうはしゃぎながら、隣にいる女性に話す少女。

 少女の目線の先には、複雑だが綺麗な紋様が彫られているメーレがあった。


「ふふ。本当に、※※※※はメーレが好きね?」

「うん、シャキシャキしてて美味しいからね!

 それに、四角いお花とか葉っぱとか〜

 今日のは、いっぱいの模様が描いてあるやつだけど、

 めっちゃ可愛くて綺麗で好きなんだ!!」

 そう笑いながら元気よく言う少女。


「ふふ。そっかそっか。」

「…これ。ナイフ使ってないんだよね。

 すごいねお母さん!

 一瞬でお花とかにしちゃうんだもん。

 ヒュってなってブワーって!!」

 と体全身を使って、表現する少女に女性は微笑んだ。


「そうねぇ〜、でもお母さん。

 ナイフ使うとメチャクチャになっちゃうから、いっぱい練習したのよ?」

「そうだね、私の方が上手!」

「あらあら、そうかしら?」

「だって、お母さん。ナイフ使うとお野菜とか果物がグシャってなってるよ?」

 と子供らしい正論を述べる少女に、女性は何も言い返せないようでそっぽをむきながら、言い訳を述べていた。

 

 「…いいのよ。味は変わらないんだから。」

 「え〜。」と楽しそうに意地悪く笑う少女の口元に、女性は少女の口に入るように小さく切ったメーレを少女の口に入れた。


 そのため、少女はモゴモゴとメーレを食べる。

 その様子に女性はふふ、と愛おしそうにまた笑った。

 そして、少女は口の中のメーレを食べ終わった後、女性に向かってこう呟いていた。


「ねえ…お母さん。

 これ、私にもできるかな…」

 と先ほどの元気な様子とは打って変わり、飾り切りがしてあるメーレをみて不安そうに言う少女の頭を、女性はポンポンと優しく撫でた。


「今はできないかもだけど、いつかきっとできるわ。

 ちょっとしたコツがあるのよ?」

 と口に人差し指を当てていう女性に、少女は嬉しそうに大きく頷き、女性の近くへと耳を傾ける。

 

「それはね———」


 ————————◁


 

「…お、起きたか。

 なんか身体に不調はないか?」

 博士は目が覚めたフランに覗き込むように問いかけていた。


 だが、当のフランは

「…あ……たまが、ガンガンします…」

 

 激しい頭痛が身体を襲うと共に、とてつもない倦怠感に駆られていた。

 寝起きで頭が回らないと同時に、身体に力を入れられず、フランはあまり呂律が回っていない。

「そりゃあ、正常だな。

 生きてる証拠だ、あんま気にすんな。

 あと数分もすれば治ってくる。」

「は、い…。」


 と、ぐったりした様子で返答するフランを博士は、胸で丸まっていたレグと共に起き上がらせる。

 そしてフランの身体を全身で支えながら、少し離れたところで煮ていた雑炊を持って、木のスプーンで掬い、フランの口へと運ぶ。


「ほら、口開けろ。」と博士は言うが、フランは

「あとで…もらいま、す…」と食欲がわかないのかそう呟き首を横にふる。

「気持ちは分かるが、なんか口にいれろ。

 …水飲むか?」

 と力無く言うフランに博士は、手に持つ雑炊を近くの石塊の上に置いたあと、

 水が入った木のコップをフランに近付ける。


「…いた、だきま…す」

 とフランは、弱々しく重い腕を上げ、コップを持とうとしたが、コップを持てる力が出せず

「…、?」とその状況に首を傾げていた。


 その様子に苦笑する博士は、手に持つコップを揺らしながら

「ほら。飲ませてやるから、口開けろ。」と言い、

 フランは、「すみ、ません…」と大人しく口を開け、注がれる少量の水を飲んでいく。


 差し出されたコップ一杯の水を飲み終えると、

 フランはぼやけていた瞳に潤いが戻り、意識が覚醒した。


 そして大体の状況を理解したフランは、申し訳なさそうに

 「お手数を、お掛けしました…」

 といいながら頭を下げた。

 その様子に博士は笑いながら手を振った。

「いいって、いいって。

 謝るほどじゃねーよ

 魔素切れを起こしたら、誰でもそうなる。」

 

「雑炊食うか?

 と言うか、食えるか?」

「いただきます。」

 と差し出された雑炊を持ち、冷ましながら口へと運ぶ。

 魔素切れで体内のエネルギーのほとんどを使いはたした身体に、質素だが温かい雑炊が沁みる。


「おいしい…」

 そう呟くフランを見ていた博士は静かに笑い

「おまえも食うか?」と未だフランの膝に座っていたレグに、少し冷ました雑炊を布を敷いた床近くに置きながら聞く。

 

「みゃう。」と鳴きながら、出された雑炊の近くへ行き、その小さな舌で雑炊をすくい食べ始める。

 

 その様子を見て博士は、自分の分の雑炊をすくい、共に食べ始めた。

 

 ――――――○


 フランや博士達が食事を済ませた後、白湯を飲みながら一服していた。


「さて、これが魔素増加のための一連だが…

 いけそうか?

 これを一日一回やるんだ。」

「…はい、なんとか。

 博士やレグさんに助けていただいていますが…」

「そりゃあな、私らがいないとおまえ死ぬし。」

「…え、」


 博士がさりげなく言う突然の事実に、フランは愕然とした。


「驚くことでもねぇぞ?

 猫野郎がお前に魔素を流していなければ…

 本来、身体に魔素が無くなれば数分後にお亡くなりだしな♪」

「………。」

 フランはあまり重く考えてなかった行為が、死の危険にさらされたことを知り、言葉を失った。


「お前が気を失ってから、5時間ぐらい眠ってたか?」

「ごじ…」

「あ、ちなみに。

 お前が起きたら

 身体が体内の魔素を自己回復するためには、食事が手っ取り早いからな。

 倦怠感と吐き気がするだろうが、起きたらちゃんと食べろよ。」

「…はい。」

「ま、お前が拒否しても。

 私がお前の口に無理矢理突っ込むから問題はないけどな」

と言う博士にフランは苦笑した。


ーーーーーーーーー○

 

 そして、この日からフランは毎日訓練を怠らなかった。

 魔素切れを起こして平均6時間ほど気絶し、空いた時間は魔法詠唱などの知識の定着に使った。


 修行の中でフランは火属性だということも判明した。

 だが、フランは火属性中心に覚えるだけでなく他の属性の詠唱、効果、範囲なども網羅的に本を読みながら学習していった。

 1年、2年、3年という時が経つにつれて、詠唱出来る言葉数も増え、

 気絶する時間も短くなり、だんだんと慣れが生まれてくるようになった。


 慣れが生まれ少し余裕が出てきたフランは、体術や剣術などの肉体的な修行も始め、

 魔法以外の知識や技術を次々と吸収していった。

 

 そして、フランは火属性の基礎魔法を使えるようになるまで成長し、それはフランという名になってから、約5年の月日が経ったころだった。


 その頃のフランは——

 6本の尾が生えているアラサウスに追いかけられており、アラサウスが生み出す水と風混合の風の刃が襲いかかっていた。

 

「は・か・せ~?

 私を殺す気ですかぁ~?」

 と側にいるであろう博士に向けて笑いながら猛獣から逃げるフランに、あの無垢な少女の面影などはもう、どこにも見当たらなかった。

【補足】

 アラサウスとは、熊がこの世界に適応し進化した生物の名称となります。

 また、今回のアラサウスは蛇のような尾が生えており紫色ですが、環境によって鉱石が体に埋まっていたり、ツノが生えていたりなど体型や色も様々あります。

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