修行開始
「ほんじゃ、飯も食ったことだし。
早速、始めていくか!」
フランという名になってから約2日経った頃。
フランは博士とレグと共に洞窟の中で食事を済ませた後、体内の魔素を増やす訓練を始めようとしていた。
「了解しました、博士。…よろしくお願いします。」
「うむ。その気合い良し。
そんじゃ、まずは…」
「ほれ。」と言いながら、博士は肩に乗っていたレグの首根っこを掴み、フランの腕の中へと放り投げる。
その際、レグは不服そうな表情をしていたが、何も言わず、されるがまま綺麗な弧を描いていた。
その様子にフランは慌ててレグを抱き抱え、不思議そうに博士を見つめた。
「ま、まずは座れ。楽な体勢でやった方がいいからな。」
そうあぐらをかく博士に合わせて、フランも博士の対角線上にある石塊に座る。
「それで、お前がお待ちかねの増やし方についてだが…
魔法、使ってみようか♪」
「…はい?」
そう、楽しそうに笑いながら述べる博士にフランはレグを抱えながら、呆気に取られていた。
「…博士。」
「なにかね、フラン君よ。」
「魔法は使えないのではなかったのですか?」
「ああ、使えないぞ?
今のお前のちっぽけな魔素だけじゃな。」
そう述べる博士に、意図がわからずフランは首を傾げていた。
「だが、詠唱はできるだろ?」
「詠唱…ですか?」
「そ。魔素を増やすには、一度体内の魔素を空にする必要がある。」
「魔法を発動するための詠唱にも、魔素を使っていてな。
厳密には、体内の魔素を魔力というエネルギーに変換する際にも魔素を少し消費してるんだ。」
「今のお前は、ほとんどの魔素を呪紋に喰われているが…
少しは体内に残ってる。マジで少量だけどな。」
「それを、詠唱で使っちまうってわけ。
魔法の詠唱も覚えられて一石二コロンってな。」
「なるほど…」と博士の説明に納得したように頷くフラン。
「そゆこと。ほんじゃ、なんの魔法使いたいかあるか?」
「…なんでもいいのですか?」
「ああ、覚えたい属性でいいぞ。
どうせ、使えないんだ。
それなら、好きな属性の方がいいだろ?」
その博士の提案を聞き、フランは少し考えた後。
「…それなら。風の魔法を使ってみたいです。」と言ったフランに博士は了承した。
「おっけ〜…風な。
ほんじゃ、これだな。」と言いながら手渡したのは、どこからか現れた一冊の古びた本だった。
手渡されたその本をフランが開く。
その本には、魔法言語という古代語で書かれた文章がびっしりと並んでいた。
それを見た時、一瞬驚いていたが、古代語で書かれた本を読みながらフランは博士に問いかけていた。
「…博士。私がなぜ風を選んだとかは聞かないのですね。
私の属性は火なのに。」
「さっきも言っただろ。属性だろうが、そうじゃなかろうが好きなものを覚えればいい。
それに、火属性かどうかもわからんからな。
私の直感なだけだし。」
「使いたいやつ覚えて極めればいいさ。
…なんせ、私らに時間は無限にあるんだから。」
そう皮肉に笑い、フランの頭を優しく叩く博士にフランは静かに目を閉じ、何も言わなかった。
「ていうか、この本をお前が読める方が驚きだわ。
普通は、この言語を覚えることから始めるんだぜ?」
「…そうなのですか?」
「ああ。今話しているこの言葉と魔法言語は全くの別物だからな。
文法や発音もまるで違う。」
「…母が。この言葉は面白いから、読んでみるかと言ってくれたので…
その時に、少し教えてもらいました。」
そういうフランに博士は、
「面白い、かぁ…。
この言語をそう捉えられるやつ初めて知ったな。」
と呟いていたが、その声は感心と少しの畏怖が込められていた。
「…ですが、決して声に出すなと言われていたのはこのせいだったのですね。
まさか、魔法に使う言語だったとは思いませんでした。」
「そうだな…ちょっと変わってるな。
魔法言語は、詠唱に使うだけだから意味は覚えず発音だけ覚えるんだが…
ま、少し触れたことあるならやりやすいかもな。」
「…そうですね。ですが、わからない単語も出てきているので——」
と本を睨みながらそう述べるフランに博士は、先ほどの魔法本よりひとまわり小さい本を渡した。
「それなら、これ見てみるといい。」
そう言われ、その本を開けば…
一つ一つの魔法言語の単語上にフランたちが今話している共通語で書かれた翻訳と発音が書かれてあった。
「これは…」
「魔法言語の発音の仕方と、意味だな。
意味は覚えず、すっ飛ばしていいぞというつもりだったんだが…
覚えたけりゃ覚えていいぞ?」
「…ありがとうございます。」
そう静かに、だが底知れぬほどの感謝を述べるフランに博士は、「ああ。」と笑った。
「…詠唱には、このページの端にある文を読めばいいのですよね?」
ある見開きの右ページの端を指差すフランに博士は頷いた。
「そうだな。
お前はもう読めてると思うが、左がその魔法の説明。
効果範囲とか、発動時間とか諸々書いてある。
右の上の方がその魔法が生まれた歴史とかが簡単に書かれてるが…覚えなくていいぞ。
本当かどうかわからんから。
それよりも、範囲とか覚えた方がいい。」
真実ではないかもしれないと言う博士に、フランは少し驚きながらも
「…わかりました。」と頷いた。
その様子に博士は、フランが指差した文章を指しながら
「それで、お前が言った通り詠唱だな。
早速やってみるか?結構きついぞ〜?」
「…承知の上です。では——」
「あ、ちょっとまて。
猫野郎を、抱き抱えるでもいいから体に触れさせてから詠唱しろ。
それが、絶対条件だ。」
そう言う博士にフランは首を傾げ「…?わか、りました?」と言うも、博士の言う通り、
フランの膝で丸まりながら大人しく今までの光景を見ていたレグを抱き抱えた。
そして、フランは詠唱を始めようと口を開き、1音述べたかと思えば———
フランの視界は暗転、身体は脱力し、博士に支えられながら深い眠りに落ちた。
そして、魔法本をフランが座っていた石塊に置いた後、レグと共に布が敷いてある床に寝かせると、
フランに密着するように胸にしがみついていたレグに向けて話しかける。
「ギリギリ1音に届いたぐらい…か。
最初にしては上々だろう。
…レグ。こいつが起きるまで、離れるなよ。」
その博士の言葉にレグは「みゃう。」と返事をし、フランの胸の上で丸まった。
その様子を見て博士は、
「よし。それじゃ、こいつを頼んだぞ。
私はこいつの口に入るもん作ってくるわ。」
と言いながら少し離れた平坦な場所。
だが、フランに目が届く場所で、調理器具等を出し、鍋に火をかけ始めた。
それをレグは一瞥した後、目を閉じた。




