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亡霊の軌跡  作者: 氷淡月
14/27

愚かなる者の最期

 時は、リリスが黒き者に拐われシュティの家へと帰って約1日経過した頃に戻る。

 その時、博士とレイが居たあの部屋にまたもや来客がきていた。


「おい!!テメー等、何をしていたんだ!?

 あの女が拐われちまったじゃねー…か?」

 と醜く喚く一人の男(依頼人)を筆頭に、甲冑を着た5名ほどの男たちが部屋へと踏み込む。


「…なんだ?これ…」


 だが、威勢よく喚いていたこの男は、目の前の惨状に言葉を失った。

 後ろで控えていた男達もその凄惨な光景に小さな悲鳴を上げ、思わず口を押さえた。


 その男達の目線の先には――


 無惨な姿となった、大人と子供の遺体があった。


 おそらく、博士とレイという名の、背の高い女性と中性的な子供なのだろう。

 だが、何者かに焼き尽くされたのか顔の面影はなく、肌は爛れ、誰なのか区別できないほどに変貌していた。

 

 そして、指先などの細い部位などは消失しており、周囲には灰が散らばっていた。

 その灰はところどころ赤黒く変色し、積み重なった灰の周辺の床板をどす黒く染め上げていた。

 だが、不思議なことにこの二人のほかに焼かれた形跡はなく、それが一層、男達を不安にさせた。

 依頼人は、恐怖を振り払うようにこの部屋の天井に向けて罵声を飛ばした。


 「おい!!

 お前は何をやっていたんだ!?いるんだろ?

 早く出てきやがれ!」


 その瞬間、天井裏から一人の男が落ちてきたが、

 その男は気が動転しているのか「あ、あ…あの…」と体を震わせ青ざめていた。


 「おい、説明しろ!どうなってやがる!」


 と依頼人が落ちてきた男に苛立ちながら、問いかける。

 そうすれば落ちてきた男は、途切れ途切れに話し始めた。


「わ、私もわかりません…

 いつも通り、あの黒髪の女と子供を監視していました。

 …で、ですがいつものようにあいつらが、紅茶を飲んだかと思えば、

 突然、悶絶し始めました。

 気づいたら、体内から燃え広がるように透明な炎があいつらを包んで…

 灰となって…その場に崩れ落ち——っ」

 とその時の状況を思い出したのか、吐き気を抑えるように口を手で塞ぐ。


 彼の説明を聞いた依頼人は一瞬考える素ぶりをした後、


「…”頼んだ毒”のせいか?

 だが、あれはあいつらを捉えるために仕掛けろと言ったはずだよなぁ…?

 殺せとは言ってねぇぞ!お前、俺を裏切る気か!?」

 と落ちてきた男の胸ぐらを掴み怒鳴るが…当の本人も訳がわからないかのように否定した。


「い、いえ…!

 そのようなことは決して…

 今回、あいつらがいつも飲んでいる紅茶に忍ばせた葉は

 飲むと灰になるということは聞いたことがありません…!

 それに、葉に含まれている毒は、最悪吐血はするものの、体が動かなくなる程度で…

 殺傷能力はそこまで高くないものなんです…!!」

「…だが、死んでるぞ?」


 そう苛立ちながら目の前の惨状を述べる依頼人に、落ちてきた男は言葉を詰まらせる。


「…で、ですが…

 私は、貴方様に頼まれた様に…しただけで!!

 ほ、本当なんです!!」

 

 そう必死に訴える男の必死さを見るに、この男が仕組んだことはなさそうだ。

 だが、その男の言い分に、依頼人はため息をついた。


「…はあ。

 だとしても、依頼もこなせないような無能はいらん。

 無能の言い訳も聞きたくねぇな。」

 その依頼人の言い草に落ちてきた男は慌てふためいた。


「お、お待ちください!私は——」


 そう口を開いたかと思えば、依頼人は落ちてきた男の脳天めがけて、

 その腰にかけていた煌びやかな装飾が目立つ剣で斬り伏せた。


「…ま、俺の手であの世に行けるんだ。

 冥土の土産には十分過ぎるだろう、幸せ者だな。」


 と、あの男の血が滴る剣を持ち、赤に染まった男を見下しながらそう呟く。


 後ろに控えていた男達はその惨状を見て狼狽え、恐怖に身を震わせていた。

 …後に、自分もこうなるかもしれないという恐怖に。


 依頼人、もといこの街の騎士団長を務める”ルセル・ティグリセス”という名の男。

 ”騎士団”とは。

 主にこの街の治安を守るために結成された軍隊であり、

 街の見回り・盗賊などの犯罪組織の捕獲または壊滅などを行っている組織。

 いわば、街の警官であり、民を守る存在。


 …それが、本来あるべき姿であり、一部の住民からはそう信じられている姿なのである。

 

 だが、実際は団長ルセルを筆頭に国から支給される資金を道楽に使い。

 自らの不興を買った人物には根拠があるように見せかけた濡れ衣を着せて逮捕し処刑する。

 などと犯罪行為に手を染めた腐敗している集団なのであった。


 これでは、どちらが賊徒なのか見当もつかないだろう。


 「…ま、自業自得だな。

 俺のことを邪険に扱ったから、バチが当たったんだろう。」

 とルセルは博士であろう灰の塊を足で蹴り上げ、なんとも薄気味悪い灰が宙を舞う。


「…どうせ、こいつらには死んでもらう予定だったんだ。

 俺の手で嬲り殺せなかったのだけは、残念だったがなぁ…!」

「…チッ。あ〜、思い出すだけで本当にムカつく奴らだ。

 何度も何度も俺を無視して、なんの価値もない藻屑を見るような目を向けやがって。

 あの澄ました顔がいっちばん癪に障るんだよ!」


「おまけに、俺が与えてやった仕事も満足にこなせず、

 挙げ句の果てにはどっかのネズミ野郎があいつを攫って行きやがった…!!

 おかげで、俺の面目は丸潰れだ!

 それに、こんな姿で死にやがって…、何もできねぇじゃねぇか、よ!!」

 とルセルは過去の彼女らを思い浮かべながら、子供のように地団駄を踏んだ。

 灰の塊を蹴り上げると共に、地団駄を踏んだ衝撃で、かつて博士やレイと呼ばれた者の残骸である灰は宙を舞い、跡形もなく散っていく。


 灰が消えた後の床板には、どす黒い液体が深く染み込んでいた。


 「…チッ。

 おい、お前ら!!」

 と少し気が晴れたルセルは背後に震えながら待機していた男達に声をかけた。


「「「「…は、はい!!!」」」」

「片っ端からこの部屋を調べ尽くせ。

 期待はしないが、酒のつまみになるぐらいの金はあるだろう。」

「「「「了解しました!!」」」」


「ああ、さっさとやれ。」

 とその気怠げな態度のルセルの合図に、

 ハキハキと返事した男達は慣れた手つきで金目になりそうなものを所持していた袋の中に詰めてゆく。

 だが、あまり大金になりそうなものはないようだ。


 …あるとしても博士が愛用していたティーカップぐらいであった。


 その様子にルセルは苛立ち、舌打ちを打った。


「…チッ。思ったとおりだがあんまいいもんねーな。」

「ルセル隊長。」と呼びかけ近寄る男にルセルは気怠げに問い返した。


「…なんだ。」

「この無造作に並べられている本や書類はどうしましょうか。」


「…そんなこともわかんねぇのか、あぁ!?

 俺様は忙しいんだよ!そんなもん、どっかの暖炉にでも燃やしとけ!

 そんなことでいちいち俺の手を止めさせるな!」

「りょ、了解しました!!」


 と理不尽な言いがかりをつけられた男は、すぐさま退散するように元の場所へと戻っていった。

 そしてルセルが言った通り、この部屋に置かれていた暖炉のそばへと書類や本を移動していく。


 「…それにしても、本当に埃っぽいなこの部屋。

 おい、そこのお前。」

「なんでしょうか!隊長!」


 「窓と入り口開けて来い。」

「了解しました!」


 と不機嫌そうに指示するルセルと同時刻、ほとんどの書類が無造作に暖炉の前に積まれていた。

 そして、一人の男が暖炉に火を灯そうと手をかざした。


 ——その瞬間だった。


 ボンッと爆発音が響き、一瞬にして辺りが炎に包まれた。

 逃げる暇も、叫ぶ間もない。

 ルセル含めた男ら5名は、その奇妙で爆発的な炎に包まれ、あっけなく焼け死んだ。


 男達を包んだ炎は奇妙な青色に蠢き、彼女らがいた一室、

 またその一室があった建物やその周辺が焼け野原となった。

 

 それは、彼女らが生きていた痕跡。

 彼女らが使っていた物・本・書類。

 そして、ルセルら男の体が灰となり、辺りを漂った。


 この騒ぎを聞きつけ、慌てて水属性の魔法を使える者たちは、この火を鎮火しようと水を生み出していたが…

 焼け石に水そのものだった。


 約3日かけて鎮火されたが、火が発火した建物は原型を留めておらず、

 その周辺の建物も骨組みだけが黒く焦げて残る事態となった。

 また、熱に耐性を持つ宝石や家の鉄骨などの金属類でさえも溶けて蒸発し、原型を留めていなかった。


 後に、この事件は”蒼の悪魔”として名を轟かせることとなる。

 そしてその炎の発生源である、焼けた土のみが残っている場所には誰も近づかず。


 入ったものは蒼き悪魔とその悪魔に殺された者たちの怨念が

 その身を焦がすであろうとその地域の者らに伝えられていった。


 そして、その事件と同時に。

 とてつもなく有名だった遊郭から一番人気の看板娘が攫われるという事件が起こった。

 それと同時に何名かの遊女が行方不明になっているということだった。


 遊郭の華が折れたことにより、彼女目当てで訪れていた客達が寄り付かなくなった。

 それにより、あれほど賑わっていた遊郭は閑古鳥が鳴くこととなった。


 …また、行方不明になったという理由もあったが、前より不審な噂が立っていたため、これを機に調査がされた。

 その際に、現オーナーが遊女に対しての暴力行為や違法行為を行なっていたことが露わとなり、現オーナーは捕縛された。


 また、前オーナーである人物は遊女達や従業員から信頼を寄せられていたが、

 不審な死を遂げていることも調査の中で判明した。

 だが、その理由や詳細は未だ判明していない。


 そして、この報告を行ったのは住民達の間で名高かったルセル騎士団長ではなく、

 新たに結成された新騎士団である。

 

 この蒼き悪魔事件と同時刻に行方不明となったルセル騎士団長に多くの住民は悲しんでいた。


 だが、恐怖の対象であったルセルがいなくなったことにより、

 今まで声を上げられずにいた被害者やその血族などの声を上げた者達が現れた。

 そのため蓄積していた騎士団の闇が次々と露呈し、被害者たちの反乱によって旧騎士団は壊滅。

 その後、新たに騎士団が再編されることとなった。


 だが、一部の住民には顔をよくしていたルセル。

 そして、奇妙な蒼き悪魔事件が起こったこともあり、

 一時期、住民達に混乱が生じていたのは——また別のお話である。

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