表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
亡霊の軌跡  作者: 氷淡月
13/27

選択  side:繧キ繝・繝?ぅ

 「急で悪いが…私とこの猫野郎についてくるか。

 それとも、一人で生きていくかを決めな。」


 母からの手紙を受け取った後、この空間の隅で私を見守っていたこの人はそう言った。

 

 私は、()()()()()()()この人たちについていくことに決めた。


 その様子にこの人は、少し訝しげな表情を浮かべていた。


「…おいおい。そんな簡単に決めちまっていいのか?

 少なくとも、お前を殺すように仕向けた奴らだぞ?

 お前の母親を殺したも同然だ。

 もう少し考えたほうがいいんじゃねぇか?」


 真剣な様子でこの人は言う。

 …その通りだろう。

 最初は、よくわからなかった。

 忌み子を抹消せんとする者たちに殺され、母も殺されたように見えた。

 

 そしてそれは、母を刺した者たちの策略ではなく。

 この人たちが起こした必然の出来事だったのだと知った。


 また、私のこの力も。

 母からもらった力が発動しないように、封印してまで必然にしたのだと。

 

 だが、この母の手紙を読んでからも思う。

 …母が。

 私の尊敬している人が、この人達を信頼してこの手紙を託したのだと。

 命を追われている状態でも、この人達が手紙を私に届けると信じて。

 …言い切っていた。

 ちゃんと届くかどうかの不安は一切なかった。

 こうなる状況を前提として、私に語りかけてくれていた。

 この手紙を残してくれていた。


 なぜ、母はこの人達にこの手紙を頼んだのか、託したのか。

 この人たちは、何者なのか。

 どうやって、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 そんな疑問や不思議な点は尽きない。


 だが、母が信頼するほどの人だ。

 それに、あの状況で私の()が使えていても、生き延びられていたのかはわからない。

 私は戦いの知識に関して、ないと言っても過言ではないほど少ない。


 あの殺意に勝てる…殺人者に勝てるイメージが湧かない。

 

 むしろ、無駄な痕跡を残していない(足掻きをしていない)だけマシだと思えた。

 それほど私は、無力で無知なのだと痛感する。


 一人で生きていくなど、到底無理な話だ。

 …すぐ、命を落とすだろう。

 瞳に命を宿していたとしても。


 母が生きて欲しいと、命を賭してまで伝えてくれたのだ。

 …愛する娘だと、自慢の娘だと言ってくれた。


 …それを無駄にするわけにはいかない。

 

「それは、私を母を刺した人物から逃すためなのでしょう。

 あの人物から逃れられた。それだけではなく、この母の手紙を私に渡してくれました。」

「…それに、私は何も知りません。

 この力のことも、忌み子のことも。

 どうか、私に生きる術を。

 あなた方が持つ知識を、教えてはくれませんでしょうか。」


「お願いします。」と私は頭を下げる。


 私の様子に、この人は沈黙を置いた後。


「…ああ、わかった。

 もとより、そのつもりだったしな」


「ついてこい。」と、先ほど目覚めた洞穴へと案内される。


「…母を守ってくださってありがとうございました。」

 私はこの人の後ろについていきながら、そう感謝を述べた。


 そうすれば、この人は

「お前が礼を述べるほどしてね〜よ。

 感謝なら、お前の親にしろ。」

「お前の母親にしてやられただけだしな。」


「な。猫野郎。」と後ろにトコトコついてきていた猫に語りかけると、

 猫は「みゃーう。」とその通りだと言わんばかりの声色で述べていた。


「ほんと、いい母親持ったな。」


 そう皮肉そうに述べているこの人に、私は自信満々に「…はい。」と言いきった。


 その様子に、この人はハッと笑いながら


「…ほんとうにあの母親といい、お前といい。

 性格がいいな。」

 

 そう呟いていた。


 …母とこの人達は、どういう関係だったのだろうか。

 

 そう思っていると、この人は世間話のように話しだす。


「…そういえば、お前名はどうする?」

「名前…ですか?」


「ああ。前の名前で居れば、死んだ意味がなくなるだろ?

 だから、毎回違う名を考えるんだ。適当でいいぞ。」

「適当…」


「ただ、お前が思い入れのある名は使うなよ。

 胸糞悪くなるだけだからな。」

 

 この人は怪訝そうに眉を顰めたりなどせず淡々と述べていた。

 まるで怒りを忘れたかのように…淡白に。


 …だが、私の大事に関する事以外の名を直ぐに思いつくのは難しいものだ。

 あまり、奇妙な名を使ってしまえば変に目立ってしまうから。

 …そうなれば、母の努力は水の泡になってしまうだろう。


 私は、そう悩んでいるとこの人はある提案をしてくれた。


「…あんま思いつかないのなら、魔法属性に因んだ名はどうだ?

 平民とかだと、それを元に名をつけるのが主流になってると思うんだ。」

「魔法属性、ですか?」

「ああ。

 この世界の人には、必ずと言っていいほど魔素が体に流れていてな。

 その魔素を使って何かを生み出すのが魔法だ。」


 この人の説明を要約すればこのような事なのだという。

 この世界には、魔法という技術が存在している事。

 魔法を使うには体内に流れている魔素を魔力というエネルギーに変換しなければならない事。

 体内に流れている魔素は属性をそれぞれ持っていること。

 魔法には『火、水、風、土、光、闇』の六属性に大きく分けられる事。

 そして、属性とは六属性の魔法の中で自身が一番使いやすいものの事を言う事。


「ま、使いやすいって言うだけで訓練すれば誰でも全属性使えるようになるはなるんだがな。

 そんな無駄骨を折るようなバカがいないってだけで。」


 苦手な属性を使えると言っても、何十年・何百年の修行が必要。

 そして、修行をしたとしてもその苦手な属性が得意なものからすれば、幼少期から使えている基礎的な魔法しかできないため、

 得意属性を伸ばす方が効率がいいとやる人はいないんだそうだ。


 「お前の場合は、そうだな…火属性か?」

 「…そんな一目見ただけでわかるものなのですか?」

 「いや?長年の勘ってやつだな。

 本当は、属性がわかる水晶玉に手を当てて知るものなんだが…持ってないしな。」

「ま、一度全属性を使ってみるのが手っ取り早いけどな。

 それをするとすれば…私らの場合はまず体内の魔素の量を増やさんと始まらないが。」

「…使えないのですか?」


 私は、今の状態では魔法が使えないという事実に驚愕した。

 …今直ぐにでも使えるものだと思っていたからだ。


「…あ〜、言ってなかったな。

 私らには、呪紋があることはさっき言ったよな?」

「はい。

 心臓と変わりない機能を持っていることと、人それぞれ違う能力を宿していると。」

「ああ、その通りはその通りなんだがな…。

 この呪紋、私らの体内の魔素を喰ってるんだわ。

 …これはただの文様ではなく、別の生命体が私らの体に寄生しているって捉えた方がいいな。」

 

「それが…魔法を使えないのと関係あるのです?」と私は聞いた。

 …何となく、察してはいたが。

 

「これが、ありまくりなんだよな〜。

 この呪紋、体内にあるだけ魔素を喰っていくんだわ〜。

 だから、常に魔素不足状態だし〜。

 魔法を使えるほど、体内に魔素が残ってねーんだよな〜。あはは〜。」

 と急に人物が変わったかのように、体をくねらせながら話すこの人に若干引いた私だが。

 この人の目は怒りに近い苛立ちを宿していたような気がした。


 この人の奇行を肩に乗りながら見ていた猫は、変なモノを見ているかのようなジト目で、呆れた表情をしていた。


 この時、私は察した。

 …この人、母に似て怒らせたらヤバい人だ。と。

 

 なるべく怒らせないようにしようと心の内で決意した私に、この人はくねらせていた姿勢を正し、話し続けた。

 

 「…ま、と言うわけだから。今のお前では魔法のまの字も使えねぇ。

 ってわけだ。」

 「…魔素を食い尽くしてしまうのであれば、魔法は使えないのでしょうか?」

 

「そこが私も不思議な所なんだよな。

 まず、前提として魔素は修行をすれば増やすことができる。

 その増やす過程で、この呪紋が喰う魔素の量も増える。

 だが、”余り”が出てくるんだわ。」

「余り…ですか?」

「ああ、ほんと少量だけどな。

 この呪いが喰い切れない魔素が体内に残っていく。

 だから、毎日修行を続ければ自身が使える魔素が増えていくっていう仕様よ。」


 …なるほど。

 この呪紋の食事量よりも上回る魔素の増加を促せば、使用できる魔素の量が増えていくと言うことか。


「だが、1日でもサボれば初めからやり直しだからな。

 やる際は注意しろよ。

 基本的な単純な魔法を使うために私は10年かかった。」

 

 というこの人に、私は疑問が生じた。

 

「…そこまでして魔法を使う意味があるのか?」と。


 魔素を増やす方法を知っていると言うことは、この人たちがしてきていたと言うことだろう。

 本末転倒かも知れないが、基礎魔法という簡単な魔法を極めることをする気は起きなかった。

 …一刻も早く、母を殺した奴らに自力で逃げれられるようになるまでの力を欲していたと言うのもあると思うが。

 呪いを…この能力を極めた方が早く強くなれるのではないか。そう思っていたからだ。

 

 そんな考えを感じ取ったのだろうか。

 この人は、

 

 「…ま、面倒だとは思うがやっといた方がいいと思うぞ?

 というか、私らについてくるなら基礎魔法は使えるのが必須条件だからな」

 

 と言った。


「…それほどまで、魔法は便利なのですか?」


「いや?

 言っちゃ悪いが、私らが持つ呪いの方が便利っちゃ便利だ。

 魔法の効果よりも優れた能力が多いからな。」

「なら、呪いを鍛えればいいのではありませんか?」

「だがな、呪いを使えば必ず代償がある。

 それは忘れちゃいけねぇ。」

 とこの人は、私のふわついた気持ちを制した。

 それだけは忘れるなという忠告で。

 

「呪いは、この体に寄生している呪紋と取引して得た力と言った方がいい。」

「取引…ですか?」

「ああ、その内容は人それぞれ違い呪紋が決める。

 身体的なものや精神的なものまで様々だ。」


「お前の場合は、精神的なもの。

 使うごとに精神が崩壊し、最終的には廃人化する。」

「廃人…化?」

「ああ。お前は気づいていなかったが…

 あと1回でも呪いを発動すれば廃人化していただろうな」


 そう言われて、私は気づいた。

 あの時、私の呪いを無効化したのは…。

 シュティの存在を消すためだけでなく。

 私の呪いの”発動”そのものを無効化したのは、私を守るためなのだと。

 

 現に、あの時。

 あの地獄にいる時、感情がだんだん失われていっていたような気がした。

 それは、あの環境の仕様かと思っていたが…。

 この()()の効果も追加されていたのか。

 そう思った。

 

「…そう、だったのですか…。

 それなら、この呪いを使うのは得策ではありませんね。」

「ああ、そう言うことだ。

 それに、この呪いを使えば忌み子を敵視している輩から狙われるしな。

 使わないに越したことはないだろ?

 あんまり、今回のようなやり方は使えないんだ。

 頻繁に使えば、必ずあいつらに疑問が生じてしまう。

 ほどほどに抑えなきゃならない。」

「そう…ですね。

 …では、魔素の増やし方はどうすれば——」


 といち早く始めたい私にこの人は落ち着かせるように言った。


 「早く始めたい気持ちもわかるが、ちょっと落ち着け。

 お前は病み上がりみたいなもんだ。

 そんな直ぐに訓練始められねぇよ。」

 「…そ、うですよね。すみません」


 早く、強くなりたい焦りから早まってしまった私が落ち込んでいると、それを励ますようにこの人は話しかけてくれた。


「ま。まずは名からだ。

 いつまで経っても、お前と呼ぶわけにもいかねぇし。

 別に、魔法適正に基づいた名じゃなくてもいいんだ。」


「あ、ちなみに私のことは博士と呼べ。

 こいつは、猫野郎とでも呼んだらいいさ。」


「猫さんに、名はないんですか?」

「あ〜、そういえばねぇな。」と猫に目線を送る博士に猫は

「みゃ〜う?」と首を傾げていた。


 …なんて言ってるかわからなかったが、特に名前にこだわりはないようだ。


「…では、”レイ”さんと呼んでも構いませんか?

 母に、灰色とは他の国ではグレイと呼ぶと教えてもらったことがありましたし。

 グレイでレイと。」


 そう私がいえば、この二人はピタリと固まり、私の方を凝視していた。


 …私は、その様子に身構え、変な名前だったのかと焦った。


「…あ、あの。何かいけないのでしたら…違う名前でも——」

「あ、いや。そうじゃないんだ。

 つい最近、その名でこいつが過ごしてたから驚いただけだ。

 そんなことあるんだな。」

「…そうだったのですか?」


 その事実に、私は驚愕した。

 だが、それと同時に、今は違う名と言うことは一度()()()のだろうと言うことも解り、何ともいえない気持ちになった。

 いくら死ぬのを避けているとはいえ…この人たちは何度死を経験したのだろうと。

 そしてそれは、私が想像しているよりも多いことも。…何とも思わないほど麻痺していることも。

 何となくだが…解った。


「あ〜…どうしような?

 結構前に使ってたやつならよかったんだが…本当に最近だからな…。」

「…なら、”レグ”と呼んでも?」

「お、いいじゃねぇか。」

「猫さんは、そう呼んでも構いませんか?」


 そう、恐る恐る聞けば、この人は、「みゃう。」と答えてくれた。

 …相変わらず言っている意味はわからなかったが…嫌そうではなさそうだった。


「こいつも良いと言ってるみたいだし、それで良いんじゃねぇか?」

「…それなら、レグさん。博士さん。

 これから、よろしくお願いします。」

 そう、私が頭を下げればこの人たちは


「ああ」「みゃう。」と笑いながら返事をしてくれた。

 

「博士さんって、なんか言いにくいだろ?

 博士でいいぞ。」

「わかりました。博士。」

 そう私がいえば、博士は満足そうに頷いた。

 

「っていうか、この猫野郎よりもお前の名を決めるんだろ?」

「あ、そうでしたね。

 …”フラン”はどうでしょうか。」

 そう私が提案すれば、博士は

 

「…フラン。いいんじゃね?

 な、猫野郎。」

 と話しかけ、レグさんも「みゃう。」と頷いてくれた、と思う。


 「それじゃあ、”フラン”。

 これからよろしくな。厳しくしてくから覚悟しとけよ?」

 と口角を上げる博士と「よろしく」と言っているような声で鳴くレグさんに私は。

 ”フラン”はついていく。



 —————*



 新たな名を持った繧キ繝・繝?ぅ。

 いや、フラン。

 

 フランがあの猫に名前をつける際に、偶然被った”レイ”という人物の名前。


 …さて、フランが予想しているように。

 博士の弟子として存在していた”レイ”は死亡した。


 だが、レイが死亡した際にある奇妙な噂が人々に飛び交っていた事を

 フランは知る由もなかった。


 『蒼き悪魔に気をつけよ。』という噂を。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ