亡き母の伝言 side:繧キ繝・繝?ぅ
【補足】
コロンとは、鳩がこの世界に適応して進化した鳥の名称です。
なぜ、ここに母がいる…?
…あの時着ていた服装。
だが、血痕も刺された胸の傷跡もないように見える。
この人達が新しい服を着せてくれたのだろうか…
母が静かに横たわっているのを見て、そんな疑問が頭をよぎる。
だが、生きているといった動作はない。
…まるで死人のように、手も胸も呼吸の小さな動きさえもない。
生きていない。
…そんなことは分かっているのに。
未だ淡い期待を持ってしまう。
私は本当に諦めが悪い。
「…胸元に手を置いてみな。」
そうこの人は言った。
…何の変哲もない。
ただ、あまりにも綺麗すぎる母がそこにいた。
触れたら、亡くなったと言う事実が確定してしまう。
そんな、考えがあったからだろう。
…私は、立ち尽くし躊躇った。
その私の様子に、この人達はただ見ているだけであった。
労いの言葉一つ今まで口にしなかった。
なんと非情なことだろう。そう思った。
…だが、なにもしなければ始まらないのも事実だ。
それに、この人達は危険を冒してまで死に、私を亡き人にした。
救ってくれたのだ。
あの地獄からも、シュティも。
…なにか、理由があるはずだ。
亡くした大切な人の遺体に触れよと促すことに、意味が、あるはずだ。
そう言い聞かせ覚悟を決めた私は、母の冷たい遺体に触れた。
——刹那、母の遺体に触れた手元が淡く光り、なにか固い感触が伝わってきた。
手元を見る。
そこには—
幼き頃によく母がつけていた母の目と同じ色の目を持つコロンのペンダントがあった。
その瞬間、私はふと気づく。
…あの時、この人達に救ってもらい家に帰った時。
いつも大事そうにつけていたペンダントがなくなっていたと。
この遺体にも、無かったと。
刹那、このペンダントは光を宿し、ある一枚の光る板を映し出した。
そこには、白く光る文字が並んでいる。
これは、紛れもない。
字を教えて貰ったときに見た、母の字だ。
『愛しい娘へ。』
一番始めにそう綴られていた。
『これを読んでいるということは、あなたは無事、あの人達から逃れられたのね。
本当に、良かった。』
『もう、あの方々から聞いていると思うけれど、貴方は特別な力を授かった子なの。
隠していてごめんなさい。』
『忌み子だと言っている人も多いと思うわ。
だけど、あなたが思っているような誰からでも憎まれる存在ではない。
それだけは、私が保証する。
私が貴方のこと嫌うだなんてあり得ないもの。
だって貴方は、私の自慢の娘なのだから。』
『色々なことが起こったでしょう。
辛いことも遭ったでしょう。
私は、貴方のしたいようにしてほしいと思ってるわ。
私が至らなかったせいで、無駄にさせてしまった。
辛い思いをさせてしまった時間以上に幸せな時を過ごしてほしい。
シュティという名も、私のことも、私とシュティで過ごした時間も。
貴方のしたいことの邪魔になるなら、迷わず捨てなさい。
貴方は優しい子だから、私がどう思うかとか考えてしまうでしょう?
でもね、貴方が悪人になろうと、世界から嫌われていようと。
ただ、私はどんな貴方になっても私の自慢で愛する娘なことは変わらない。
それだけは、覚えておいてほしいの。』
『私は、もう、貴方のことを抱き締めることはできない。
見守ることしか出来ないけれど、元気でやっていくのよ。
優しい方々が貴方を救ってくれたと思うから、その方々の話をちゃんと聞いて、自分がしたいようにしなさい。
私よりも、貴方がどうすれば良いのかとか、特別な力の使い方とか詳しいと思うから。
でも、貴方をちゃんと導いてくれる優しい方々は、ちゃんと話せば、分かってくれる方だと思うわ。
この手紙が貴方に渡っているのが何よりの証拠だもの。』
『この手紙を写し出すコロンは、私の身体を原動力にして貴方しか取り出せないような仕組みにしたの。
どうしても、貴方には世界から憎まれる存在ということが当たり前だと思ってほしくなかったから。
ちゃんと、貴方を見てくれる人がいるということを、私は伝えたかったから。』
『けれど、特別な力はあらゆるものを引き寄せる。
いいものも、悪いものも。
今これを書いている最中にも、貴方を殺そうとする奴らが迫ってきている。
だけど、こいつらに貴方の愛らしさを知られては駄目。
知って良いのは、私とこの手紙を届けてくれたあの方々だけだもの。
だから、貴方が私の手紙を読み終える頃には、私の身体は消滅していくだろうけれど、そうなるように仕組んだことだから気にしないこと。
貴方のせいではないからね?
悪いのは、愛しい貴方を殺そうとする罰当たりな連中。
と、あいつらから貴方を守り抜き通せなかった私の責任。』
『あ、そうそう。
私は先に行っているけれど、私のところに来るのはもう少し後からにしなさいね?
我儘だけれど私、貴方が幸せに暮らした話。
沢山、たーくさん聞きたいもの。
貴方が覚えきれないほど幸せな時を過ごしたら、一緒に話しましょう。
また、会いましょうね。』
『貴方を愛する者より。』
その母の文字が、少し歪みながらも丁寧に書かれた筆跡が、水滴によって滲んだ。
この手紙を読み終えた時、母の身体が淡く光り、粒子状に分散した。
母の存在が、この世からこのコロンだけになってしまった。
寂しく切ない気持ちになった。
だけど、悲しさは無かった。
…また、土産話を抱えきれない程持って、会いに行けばいい。
そう思ったから。
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…この時、私はこの最期の手紙を読み終えたと思っていた。
だが、違った。
一言。一文。まだ続きがあった。
私が知らない言語で書かれた文。
今の私には見えないモノ。
だが、ある者達には読める古の言葉で書かれた母の願い。
そして、その願いに向ける2つの視線が。
『我が娘と我を救ってくださった、巫覡の送り人よ。
どうか、我が最愛なる者に安らぎをお与えください。』




