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亡霊の軌跡  作者: Shui(シュイ)
1/9

この世界の歴史

「この世界の歴史」は、この物語の舞台となる世界の設定を書いたものになります。

今回、より読みやすくなるように文章を修正しましたが、内容そのものは変えていませんのでご安心ください。

また、物語を読んでいただく上で、ここに書かれている設定全てを覚える必要はありません。

ただ、この世界の雰囲気を感じ取っていただければ嬉しいです。

 これは、何万、何十万年と我々の想像を絶するほどのはるか昔の時代。

 今よりも文明が発達していたとされるその時代に生きていた旧人間がいつも通りの日常を送っていたある日のこと。

 その日は雨天のため、多くの旧人間は透明な傘を持ちながらとても綺麗に整備された灰色の道を歩いていた。

 

 ガラスがはめ込まれた透明な”ビル”と呼ばれていた建物が立ち並び、辺りは”クルマ”と呼ばれ主に鉄という鉱石で加工された乗り物を巧みに操作している多くの旧人間が、灰色の道を通過する。

 何やら赤い光が光ったと思えばそのクルマは止まり、灰色の道の端にいた大勢の旧人間が行き交う交差点に、不気味な少女が一人たたずんでいた。

 その少女は、何年も手入れされていないと思われる長髪を引き摺りながら、薄汚く黒い布を頭まで覆い被さるように巻いており、靴も履いておらず足に擦り傷と泥がついていた。

 他の旧人間はとても上品で触り心地の良い布が使われた衣服を着ているからか、その薄汚い少女が異様にその場にういていた。

 

 そんな哀れな少女を誰も助けず、視線は送るも無関心に大勢の旧人間が立ち去ったが、1人の若い男の警官がその少女に話しかけた。

「君。大丈夫かい?足怪我してるじゃないか。お父さんやお母さんはどうしたの?」

 だが少女は無言で俯いているだけだった。

 その様子に、その男は苦笑して少女の肩に自身が来ていた上着をかけながら

 「ほら、そのままだと足痛いだろう?

 とりあえず、手当てをさせてくれないかい?

 この雨だ、傷が悪化してしまうよ?体も冷えるし」

 と少女と同じ目線までしゃがみ問いかけたが、少女から返答は来ない。

 というよりも、その場から一歩も動かず、手や足も微動だにしていなかった。

 

そんな様子にこの警官が困っていると

 「おい、どうした。〇○」

 そんな様子を見かけてか、図体のでかい、強面な警官が近寄ってきた。

「あ、先輩…この子

 「ォ…」

「あ!話してくれた!なんだい?

 なんでも、この僕に言っておくれよ!」

 と少女が言葉を発したことに喜ぶ若い男は少女に問いかける。

 「おいこら、詰め寄るな。驚かせるだろう。

 あと、胡散臭いぞ。ウゼェし。」

 「先輩ひどくないです?」

 と、大体の状況を察した大柄な男がため息をつきながら若い男の首元を掴み、少女から距離を取らせる。

 そうして、心配そうに大柄の男が声をかけようと少女の前にかがみ込んだ。

 

 その時だった。

 

 『オ…カ…。オナカスイタ、オナカスイタ!!!!』

 顔を勢いよくあげた少女の瞳は、餌を覗う獣の眼のように光っていた。

 その様子に拍子抜けした警官2人は驚き、狼狽えるまもなく”喰われた”。

 そう、少女の皮を被った化け物に。

 

 瞬時に姿をぐにゃっと変形させ、1秒も満たない間に大柄の男性2人を捕食。

 そのうちの1人は身長180cmを超えていた大柄な人間で、バケモノの形相はまさにその時代、人を喰らう妖怪とされていた牛鬼や女郎蜘蛛のような異形。

 いや厳密には蜘蛛のような形状の8本足と、腹部に女性のようなしなやかさを持つ人間の胴体。

 そしてその胴体から生える細く今にも折れそうな腕10本に加えて、口裂け女のような大きい口には喉元の内部まで散りばめられた無数の鋸歯状の歯と、黒白目をつけた蒼白な顔を持つ全長5メートル程の大きなキメラであった。

 

 その口元には先ほど喰ったであろう人間の血がポツリ、ポツリと雨と共に滴る。

そうして、灰色の道の端で待っていた旧人間たちはなにやら異様に漂う雰囲気に気づいたようで、旧人間が肌身離さず持っていたとされる異様な光を放つ四角い便利な道具”スマホ”から目を離して辺りを見渡す。

 その瞬間、その中の1人の男性があの化け物と目が合った。

 合ってしまった。

 

 「…は」

 ”グシャ”

 そして、その隣にいた女性は

「…ぇ、な、なにあ」

 ”グシャ”

 またまた、その隣にいた子供と女性も

「ねぇねえ、おかあさ」

 ”グシャ””グシャ”

 と雨が滴り跳ね返る音と人々が話す声、旧人間たちが歩く足音、その街や建物が奏でる音などの生活音の中に咀嚼音と旧人間が持っていた物が落ちる音が混じる。

 

 あの化け物と目が合ってしまった旧人間は悲鳴も、戸惑いの声も恐怖の声も発せないまま喰われて死んだ。

 今よりも文明が発展し、今はもう滅んだ技術を扱えることができ、豊かな生活を築いていたであろう旧人間があっけなく。

 その不協和音は、時間が経つにつれて大きくなっていき…

 

 そうして、あの化け物が現れてすでに6名の旧人間が捕食され、その場にいた人々は自身の危険を理解し、突如現れた化け物から逃げ惑った。

「いやぁああああ!!」

「ば、ばけものだぁ…!!!」

「に、逃げろ!!!速く!!!」

 と。

 とても規則正しく動いていた旧人間は不規則に逃げ惑った。

 高いビルの中にいた旧人間も外の騒ぎに窓から身を乗り出して外の状況を確認した数秒後、何かマズイ。

 と思ったのだろうか。

 すぐに、布で中の状況が見えぬようにし、中の明かりを消し、鉄の板を下ろした。

 

 戸惑いながら逃げたり、立て篭もった旧人間がいるその中であの化け物は瞬時に動き、わめく者から脊髄反射で喰い、動いていないものも喰い、ドタドタとその8本足を器用に高速で動かしながら走り、片っ端から無差別に近くにいる旧人間を食い荒らしては歓喜していた。

 

 『ウマイ、ウマイ。

 コノドウブツ、ウマイ。

 モット、ホシイ。

 ホシイホシイホシイホシイホシイ。

 コレハ、ゼンブ、ワタシノモノダ!!!!』

 と喰いながらよりいっそう獲物への執着を強める化け物は、ガラス張りの建物などのその場に建てられている何十階に相当する建物をなぎ壊しながら10本の腕に1人ずつ人間を掴み、老若男女問わず一気に口に放り込んでいた。

 鉄の剛壁でさえ、怪物の腕には造作もないことだったのか、いとも簡単に突き破り、中で怯えていた旧人間たちを口の中に放り投げた。

 まるで、誰かに取られぬよう先に好きな食べ物を頬張る子供のように。

 だが、その食べ物が生身の人間というのは皮肉なものだ。

 

 そうして、怪物が現れてから40分もの時間が経った。

 その40分の間に、3000人ほどの旧人間が死んだ。

 その中にはこの化け物に喰われただけでなく、倒れた建物の瓦礫に潰され、飛散したガラスに刺された旧人間も数多くいた。

 生き延びた旧人間たちは、瓦礫や地下に隠れて過ごそうとしたが、なぜかあの怪物には気づかれてあの細い腕で掴まれて喰われる。

 その時に聞こえる悲鳴や絶叫、咀嚼音に皆が神経を削られ、生きる気力を消耗させていく。

 

 そうして戦場と化したこの地獄に、救世主が現れたかに思えた。

 希望の光に皆が顔をあげて覗くと、それは自衛隊と呼ばれ、かの国の平和と独立を守り、国の安全を保つことを使命とする実力組織がヘリと呼ばれた空を舞う鉄の兵器を巧みに操り、旋回しようとする音だった。

 

 彼らは、上空からあの化け物へ豪速球の小さい鉄の弾を発射する。

 それはこの時代、火薬や様々な気体の圧力を用いて、弾丸と呼ばれる小型の飛翔体を高速で発射する武器だった。

 この様子は実に爽快だっただろう。

 一方的に撃たれる弾丸にあの我らを喰い散らかした化け物は赤青い血を垂れ流し、10本もあった腕は弾け飛び、足はちぎれ、激痛に呻き声をあげる。

 そうして、この地獄はあの者たちによって終わる。

 そう皆が思い、安堵した瞬間だった。

 

 『イタイ、イタイイタイイタイ

 ナ、ンデ?ナンデ、ジャマヲスル?

 ショクジヲ、シテル、ダケナノニ。

 タベテル、ダケナノニ…!!!

 ユルサナイ、ユルサナイユルサナイ!!!!』

 そう喚き、体を反らせながら激昂するあの化け物は、一瞬にして体を再生させた。

 まるで、蛹が蝶へと体を変化させるように、先ほどよりも、鋼の鎧のようなより強固な体へと。

 

 そうして、あの化け物の姿はより恐ろしいものになっていった。

 眼球がない目からは血の涙が流れ、今まで笑っていた口裂け女のような口は悲しみの表情を表し、阿修羅像のように3つの頭を生やし、その中央の顔は首と繋がっておらず血管のような、細くドス黒い赤色の皮がかろうじて繋がっているようにぶら下がっていた。

 また、蜘蛛のように細く黒かった8本足は、黄色と紫の縞々模様の12本足へと変わり、女性のように細く長く、白い10本腕もまた、約2mほどまでに伸びて大きくなっていた。

 そして、今まで喰ったであろう人間の頭蓋骨や腕などをぶら下げながら。

 何よりも1番目立つのはあの蜘蛛の腹部のような体の胴体に、提灯お化けのような長く赤い舌を出した口があることだろう。

 その口は、180cmをも超えた成人男性を軽々と飲み干せるほどの大きさだった。

 

 そうして一回り大きく、より頑丈になった化け物は鉄の銃弾をものともせず弾き返し、上空500〜600mを飛んでいたヘリおよそ10機をその瞳に映しながら強烈な衝撃と共に飛翔し、ヘリの機体を踏み台がわりにしながら次々と地へと叩き落とした。

 勇敢にもこの場へ駆けつけた救世主はヘリの装甲で潰され、はたまた逃げようと上空を滑空した人間も長い腕で掴まれ、胴体の大きな口によって皆、死んだ。

 これによって、約100名の勇敢な人間がこの世から消えた。

 そうして、邪魔者を一掃した化け物はより一層速度を上げながら逃げ惑う人々やその場にへたり込む人々までも喰い散らかす。

 

 地獄よりも地獄の時間の再来だ。

 

 だが、そんなに長く地獄は続かなかった。

 突如として現れた、”彼の方”によって。

 彼の方は、華麗にも空を舞い、氷柱と火砲の最上位魔法を組み合わせることによってあの化け物の装甲を貫き、体を焼き、一片の血さえ残さず消滅させた。

 あっけないほど一瞬だった。

 あの彼の方は、らせん状に曲がった立派で美しい角を頭に生やし、昔の高位貴族の服とマントをまとい、煌めく銀髪と金剛石のような白く美しい瞳を持ち合わせていたそうな。

 

 そうして現れた人間からすれば化け物に変わりはない容姿と所業を成した彼の方を皆は讃え、奉り崇めた。

 それほどまで、皆の精神は削り取られていたのだろう。

 ありがとうございます、ありがとうございます。あなたのおかげで我々は救われました。と。

 そして、事態が少しおさまった時に彼の方から衝撃の事実を知らされる。

 

 あの化け物はこの地だけではなく、世界各国で出現しているということ。

 その数およそ200体。

 そして、彼の方の仲間がそれらを討伐したということを。

 あの化け物が初めて現れて暴走した時から約1時間経っており、死者数は余裕で40億を超えているという。

 彼の方とその仲間が現れなければ、旧人間は全滅していただろう。

 世界襲撃事件と我々が呼ぶこの事件は。

 死亡者は世界の総人口の半分の40億人以上。

 重症者は約3億人。

 軽症者は約15億人。

 そして、行方不明者は20億人の尋常じゃないほどの被害がもたらされた。

 皆が聞いたこのとある歴史上に残る最も死者が多く出た事件だった。

 

 だがこの事件には、不可解な点がいくつも存在した。

 なぜ、魔素も魔法という力も物語だけに存在していたあの時代に化け物(〈ストル〉らを含むモンスター達)が突如世界中に現れたのか。

 なぜ彼の方は、別世界から来たであろうに見ず知らずのこの世界の危機を救ったのだろうか。

 そもそも、彼の方々はどうやってこの世界に来たのだろうか。

 などと言い出せばキリがない。

 

 そもそもこの事件が起こった年は今より1000年ほどの前の話だ。

 今私が思っているこの物語じみた思考も、今まであらゆる同志が古き本や遺跡などを調査して仮定したモノや、それらを元に作られた昔話などをもとに、私の考えを組み込んだモノ。

 言うなれば空想で妄想にすぎない。

 その当時生きていた旧人間も今やもういなく、絶滅していた。

 

 では、我々はなんなのだろうか。

 それは、魔法を操りし別世界から訪問した彼の方と、その仲間たちの子孫ではないかと言われている。

 つまり、魔法が使える生物(ヘクセレイ)旧人間(シエン)のハーフだ。

 現に、私も魔導士(魔術を極めた者)ほどではないが少し魔法を扱える。

 そして、我らは必ず体に魔素というエネルギーが血液と共に流れている。

 まあ厳密に言えば血液の中に魔素が混じっているのではなく、血液が流れている血管とはまた違う管が血管に沿うようにあるのだが。

 つまり、我らは人間であって人間ではないということなのかもしれない。

 少なくとも我々は、旧人間とは体の作りが似ているだけの全く別の生物だということだ。

 ちなみにだが、先ほど出てきたへクセレイとシエンは彼の方のような生物と旧人間の正式名称みたいなものだ。

 

 ここで、過去に師から重要だと教えられたのだが。

 へクセレイは我々のことを表す名ではないということだ。

 へクセレイとは、この世界の危機を救ったであろう彼の方のことを指しており、純粋なる別世界から来た生物のことを指している。

 では、我々はどうなのだというと…。


 〈ホモ〉。らしい。

 …なんとも短くて覚えやすいなだな。と思ったことを今にも思い出せる。

 まあ、だがこれは我々のような探究者ぐらいにしか常用しない。

 他の者は、小耳に挟むかどうかもわからないな。

 …いかん、いかん。

 いつも考えていると脱線してしまう。もう、年だからだろうか?

 …まあいいか。

 思考を戻そう。

 

 突然だが、ここで1つの疑問が生まれるだろう。

 なぜ、旧人間(シエン)は絶滅したのだろうか。

 これも色々な考察が交わっているのだが、一番有力な説がある。

 それは実に単純であった。

 ”生きられなかったから”

 

 〈ストル〉。

 旧人間が生きていた時代に現れた蜘蛛型のモンスターであり、とても凶暴的な性格で人間を食すことを嗜みとし、食した戦利品の頭蓋骨を自身の飾りとして身に付けていたとされる化け物だ。

 その化け物が世界中に現れた時から時間が経つにつれて、ニンゲンを取り巻く気体に魔素が含まれるようになっていたのではないかとされているのだ。

 ヘクセレイや我々からすれば呼吸や食事から取り込む栄養源となる魔素だが、旧人間(シエン)からすれば魔素(未知の物質)は毒でしかなかったのだ。

 そうして随時毒状態になったであろう旧人間は体が弱り、免疫が損なわれた。

 そうなれば、流行病などによって絶滅してしまったと言われても納得がいくだろう。

 今の我々がいる時代の植物や生物には必ず魔素が含まれているため、毒を食し、毒を呼吸と共に吸収しているのも当然なのだから。

 

 また、旧人間が作り出した叡智も未知のモノには通用しなかったのだろうと想像できる。

 というか、根本的にモンスターが現れて都市が壊滅したのもあって機能しなかったのではないかと言う同士もいたな。

 そして、残ったのがヘクセレイと我々なのだ。

 という仮説が今は一番濃厚だ。

 

 だが、ここでもう1つ、疑問が生まれる。

 へクセレイと旧人間は、共に子を産むほど信頼関係を築いていたのだろうか。

 …それは、どうだかわからないが。

 私が思うに万人がそうだった、わけではないだろう。

 仮に、彼の方に救われたのだとしても、旧人間やヘクセレイからすれば未知の生物に変わりないのだから。

 不信感や恐怖がないわけではないと思う。…精神が朽ちていなければ。

 

 だが、現に我々は旧人間にはなかったとされるツノがある。

 またへクセレイには、ツノが生えていたことがわかっているため、旧人間とへクセレイの血が混じり、我々が生まれたと言うのが一番信じられている所以だ。

 だが、ここでもまた疑問がでるだろう。

 ツノが生えているのであれば、へクセレイの子孫ではないのか。だ。

 この説も出たのだが、それは我々の間で否定された。

 なぜならば、ヘクセレイのように頭蓋骨から生えているツノではないのだ。

 時代が進むにつれ退化し、なくなったと言うこともできるのだが…。

 だがそれならば、なんらかのツノがあったであろう跡が我らの頭蓋骨に残るであろう。

 

 例えば、頭蓋骨に小さい突起があるとか。

 だが、それもないのだ。

 そのため、我らのツノは骨もなくもちろん血も通っていない。

 では、なんなのか。

 それは、自身が食事などから取り込む魔素をエネルギーとした魔力の塊が具現化した。

 という文章が一番近い気がする。

 

 …正直に言おう。

 我々にも未だわからないのだ。

 このツノがなんなのか。

 もちろん、今はもういない絶滅したとされる旧人間の方がまだ不可解な点が多い。

 解剖して見ることさえできず、見えるのは触ったら灰となって砕ける骨から情報を得ているのだから。

 だが、現在生きている我々でさえもわからない点はある。

 我々のツノがいい例だろう。

 

 ただ。

 ただ、このツノについてわかっていることが2つある。

 1つ、我々が外から吸収した魔素を魔力というエネルギーに変え、そのエネルギーを消費することで使える魔法。

 その魔法にて、一定以上の魔力を使う際にこのツノは現れるということ。

 2つ、ツノの形や大きさは個人差があり、自身が持つ魔力の量に比例して大きさが変わるということ。

 である。

 つまり、この魔法を使える術が優れている者ほどツノが大きいということだ。

 

 魔法は魔力の量によって使える術の種類も、質も変わってくる。

 そのため、このツノが大きければ大きいほど、この魔術実力主義な時代には優遇されるのだ。

 王族や貴族の者たちはツノが大きく、対して平民などの地位が低いものはツノが小さくなると言う傾向にある。

 そして王家の者のツノが大きく美しいのは、ヘクセレイの血を濃く継いでいるからと皆は言うが…

 本当に、ヘクセレイの血を濃く継いでいるのかどうかも怪しいのに。

 コレを表立って言えば私は、首がとぶだろうが。

 

 だが、私は思う。

 他の生物の血が混じればそれはもう別物の生物になるのではないか、と。

 …まあそれに、ツノが大きいからと魔力が多かろうと…未だに絶えず現れるモンスターに戦う術があったとして、それがツノが小さいものを冷遇する理由にはならないと私は思う。

 それをどう使い、鍛え上げるのかによって変わってくるだろうから。

 いくら、高貴の血を濃く受け継いでいようとも、生まれながら持った物が大きかろうと訓練や努力を怠れば飾り同然。

 

 それに、ツノが小さくても素晴らしい功績を上げている者が歴史上に数多くいる。

 魔術が使えないながらも己の肉体と剣のみでモンスターと戦い、国の危機を救った英雄。

 ツノが小さく、使える魔力も少ないながら独学で、高度な結界術を一から作り、100年経った今でも未だに無数の市町村をモンスターから守っている結界を張った凡才もいる。

 しかも、今より酷く下賤な血と蔑まれ冷遇されていた時代に。

 

 …だが、私はツノが小さくも大きくもなく、平均的な大きさだったため辛い思いもしていないから口には出せないがな。

 私よりも苦しく、私のように好きなことを学べない者だっているのだ。

 …本当に、私は幸運だった。


 「ねぇねぇ、おじちゃん。お母さんがご飯だって!!」

 とそんなことを考えていると、私の可愛い可愛い姪っ子が夕食だと呼びに来てくれた。

「おい!早くしないと冷めるだろうが、早く来い!!!

 ミナも、そんな耄碌ジジイ放っておいて早くおいで〜」

「ふふふ、は〜い!

 それじゃあ、おじちゃん。下で待ってるから!」

 などと、私と姪っ子を呼ぶ姉の声に姪っ子が元気よく返事をしてこの部屋から去っていく。

 

 私に手を振りながら去る姪っ子はいつみても可愛らしい。

 …台所からいい匂いがするな。今日は…あの旧人間が生きていた時代からあったとされている伝統料理”カリー”か。

 様々な香辛料を使って肉や野菜などの食材を煮込んだ料理で、隠し味にリンゴをすり潰したものを入れると美味い。

 と思いながら私は目の前の机に広げていた本や書類を片付けてから、重い腰を上げて一階にあるリビングへと向かう。

 

 そして、この平和な日常をいつも見て思う。

 あの世界襲撃事件や数々の残酷な事件を読み、知った私は、この平和は数々の危機を乗り越えて生き残った者達とあらゆる偶然が作り上げた奇跡なのだと。

 ツノの大小など関係ない。

 己で決意し、命を危険に晒しながらも、あの化け物と戦ってくれてる者たちがいるのだ。

 そして今も突如として現れ、我々を脅かすモンスターから身を挺して討伐し、この国を守っているハンターや治安を守る騎士たちに心より感謝を申し上げたい。

 

 …最近、旧人間がいた時代に出たモンスターと同等な強さを持った個体も出てきているらしいがな。

 時を経つにつれて、我々は先代の偉人の力を借りてばかりで衰退ぎみなのだが…

 今のモンスターは、ある程度決まった規則的な攻撃をしてくるモノしかおらず。

 ここ数年は新種も出ていないため、先代の教えやコツを必ず守れば容易に倒せるから問題ないのだ。と誰かが言っていた記憶がある。

 

 だが、最近急に強力になっているらしい。

 新種はまだ出てきていないが、何かと新しい技を放つようになってきたのだとか。

 そのせいで中には、命を落としたハンターも少なからずいるらしい。

 本当に、私は何もできないが、せめて彼らに幸福が有らんことを。と思うばかりだ。


 

 「よし、ジジイも来たことだし。

 食べるか。ミナ」

「うん!それじゃあ!」

「「「いただきます!」」」

「…ん!これ美味しいよ!お母さん!」

「お、そりゃよかった。たくさんあるからいっぱいお食べ」

「うん!」

「あと、ジジイも。またずっと部屋で本ばっか読んでるんだろ?少しは食べて運動もしろよ」

「わかってるよ。」

「あ!ミナ、おじちゃんと一緒にまた散歩したい!!おさんぽ!」

「…だとよ、どうす」

「わかった、いこうか。」

「やった〜!!」

「…まったく、怪我させんじゃないよ?」

 「わかってるよ」

 と、楽しい食事をしながら何気ない会話が続く。

 これが、当たり前なことだと思えるのが本当に幸福だ。

 それに、代償があることもわかってはいるのだが。

 …だが、本当に明日が楽しみだな。

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