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六 ”傷”

超超超素人作品です。文法がおかしいところ多々あり。それでも良いよって方のみ閲覧お願いします。

「……んで、いつまで待たせる気だ?」


 入学式終了後、俺は琥珀朧に連れられ理事長室に来た。……超強引にだけど。


「結局逃げようとした……」

「やっぱりか。どうせそうなるんだろうなとは思ってたけど、まさか本当に逃げるとは」

「クソッ……!」


 俺は今、後ろから秘書に両腕を拘束されてる状態で突っ立っている。さっきから離せと言ってるんだが、「理事長が来るまで逃げられないように」と言って一向に離そうとしない。振りほどこうにもあまりの馬鹿力の所為でビクともしない。どこからこんな筋力出てきてんだ……!


「驚いたでしょ? こう見えてかなり力あるんだ」

「マジで、離、せねぇ……!」


 琥珀朧が「諦めなよ……」とでも言わんばかりに目で訴える。クソッたれが……ッ!


ガチャリ


「やっほ〜! 待たせてごめんね〜! ちょっと他の教職員に説教されてたら遅れちゃった☆」


 するとその時、勢いよく理事長室のドアが開き、現況が転がり込んできた。


「おい来たぞ! とっとと離しやがれ!」


 俺は秘書にそう叫び訴えるが、一向に離そうとしない。


「離せってんだよ!! もう来たんだからいいだろ!!」

「まだ油断できないからね。離した瞬間逃げる可能性も捨てきれないし」


 ジタバタと暴れる俺を涼しい顔で無視する秘書。すると理事長が秘書に話しかける。


「久遠、離してあげて。この子なら逃げないわよ」

「理事長!しかし……!」

「離しなさい」


 渋々と俺を離す。思いっきり掴みやがって、腕クソ痛ぇし……!


「さて、まずは来てくれてありがとう。今日は少し2人にお願い事があって呼び出したの。お祭りを楽しみたかっただろけど、少しだけ我慢してちょうだいな」

「いや別に祭りはどうでもいい」


 回ったところで金払えんから何も出来ねぇよ。


「私も別に。お祭りより猫ちゃんたちと遊びたい……」


 理事長が笑顔のまま硬直する。そしてすぐに我に返ったと思ったら、今度は隣にいた秘書に飛びつく。


「久遠〜! この子たち冷た〜い!」

「離してください! だから毎年言ってるじゃないですか! 入学式の日に祭りを起こすのはやめましょうって!」


 理事長が部下である秘書に泣きつくという、あまりにも立場逆転した絵面に俺はドン引きしながらも、理事長に本題を問う。


「いいからとっとと話せよ。俺らにお願い事ってやつ」


 俺がそう言うと、理事長は渋々と自身の机に戻り、そして何事もなかったように淡々と話し始める。


「……コホン。まあお願い事って言ってもね、そんな大したことじゃないわよ」

「じゃあ帰るわ」

「待って待って。最後まで話を聞きなさい」


 帰ろうとする俺を口で制し、そして話を続ける。



「お願い事ってのは2人に一つずつ。まず黒峰くん__貴方には他の特別枠の推薦者たちと仲良くなってほしいの」



 そのシンプルな内容に俺は思わずガクッとなる。


「は? 仲良く? 何で俺がんなことしなきゃいけねぇんだよ」

「……まあ、そんな反応になるわよね。理由は至極単純よ。貴方や琥珀朧さんのような特別枠での入学者には、皆何かしらの“傷”を抱えているのよ。些細な出来事から傷つき始めた子もいれば、最初からどうしようもないトラウマになるレベルで傷つけられた子もいる。__貴方もその一人でしょう?」


 その言葉にグッと胸を締め付けられる。この女は一体、どこまで知ってるんだ……?


「……だから、そのケアを俺がやれと?」

「“療養(ケア)”じゃないわ、必要なのは“共感”よ。悔しいことに、私にはその“傷”を視認することは出来ても治すことは出来ないのよ。もし出来るとしたら、せいぜい“傷”が広がらないよう抑えることだけ」


 ……そして、真剣な眼差しを俺に向けて言う。


「だからこそ貴方にお願いするの。あの子たちと同じく“傷”を抱える貴方にしか出来ないことだから」


 ……んなこと言われても、「じゃあやるか」とはならねぇだろ。俺の()()がどんだけのものなのか、この女が分かっててもソイツらには分かんねぇだろ……


 ……けどまあ、他の推薦者がどういう奴らなのかは少し興味あったし、話すくらいならいいだろ。


「……分かったよ。話くらいは聞いてやる」

「ありがとう。それだけでも十分よ」

「んで? ソイツらの顔と名前は?」

「それは自分で探してちょうだい?」


 はて、なんだか今ものすごくムカつくこと言われた気がするなぁ? 他の推薦者は俺自身で探せと? あんだけいた新入生の中から?


「いや教えろよ! 誰か分かんなきゃ話せるもんも話せねぇだろ!?」

「だからって教えることは出来ないわよ。デリケートな問題だもの、初対面の人間に「お前が推薦者か?」って聞かれたら向こうもビックリしちゃうでしょ?」

「なら今の時間なんだったんだ!!」


 そう叫ぶ俺をよそに、理事長は琥珀朧に目を向ける。


「琥珀朧さん。貴女には彼のサポート役をお願いできるかしら?」

「え……」


 少し目を見開き、驚いた表情を見せる琥珀朧。しかしすぐに無表情に戻り、言う。


「……やだ。そんなことする暇あったら猫ちゃんたちと遊びたい」

「そう言わないでちょうだい。黒峰くんの学園生活の中を最低限サポートしてほしいだけよ」

「……具体的になにをするの?」

「そうねぇ……最初は彼に勉強を教えてあげてほしいわ。彼は諸事情で1年半ほど中学校に通ってなかったから」


 僅かに眉間にしわを寄せ、声のトーンを低くして言う。


「なんで私がそんなことを……」

「なにも今日からやれなんて言わないわよ。けど授業は来週から始まるから、」


「………………………………………………分かった」


 長い葛藤の末にようやく決心がついたのか、琥珀朧は俺のほうを向いて言う。


「……聞いてたでしょ。これからよろしく」


 その表情は依然として無を貫いていたが、明らかに嫌がってることが分かる。理事長が何を考えてこのお願いとやらをしたのかは分からん。ただ、俺の学園生活はコイツの監視化で管理されると考えると虫酸(むしず)が走る。


「じゃ、お願いね! あ、あとこれ。これであなた達の教室の場所確認してね」

「ん……」


 そう言って理事長は地図みたいなやつを琥珀朧に渡す。


「これから3年間、全力で青春を謳歌しなさい」


 ⌘


「……よろしいのですか?」


 彼らが部屋を出たあと、僕は理事長に問いかける。


「理事長なりの気遣いだったのかもしれませんが、僕には悪手に見えました。本当に彼にあんな大役が務まると思ってるのですか?」


 理事長はしばらく黙ったあと、やがて口を開き言う。


「まあ、ちょっとしたお節介焼きってとこね」

「……はい?」


 そうして理事長はとてもいい笑顔で、


「霧も霞も、似た者同士ってこと!」


 そんな、理解できるようで出来ないようなことを言うのだった。


 *   *   *


 理事長室を出てしばらく、俺たちは振り分けられた教室へと向かう。俺は学内地図を持つ琥珀朧についていくが、その間少しの会話も生まれなかった。


「……」

「……」


 静寂に包まれた廊下を黙々と歩く。こっちからは背中しか見えないが、多分ずっと表情筋を崩すことなく無を貫いているのだろう。かく言う俺もほとんど無表情を貫いており、時折あくびをしながら琥珀朧についていく。

 ……あ、そういえば一つ気になってることがあったんだっけ。


「……なあ」


 俺が琥珀朧に呼びかけると、一度立ち止まってからゆっくりとこちらを振り向く。


「なに?」


 少しぶっきらぼうに返事をし、俺を見つめる。そして俺は気になっていたことをソイツに問いかける。


「さっきの話、俺らのような特別枠の推薦者は何かしらの”傷”を抱えているってやつだが__お前にもあんのか? その”傷”ってやつが」


 琥珀朧はしばらく黙った後、ゆっくりと口を開き、


「……あっても、あなたには教えない。仲良くないし、今のあなたへの好感度は-1000だし……」


 冷たくそう吐き捨てた。だが俺はその態度にキレることもなく、その言い分に対して文句を言おうとは思わなかった。

 なぜなら俺も全くの同意見だからだ。微塵も仲の良くない相手に自分について語るなんてことはしたくないだろう。


「そうかよ。ま、気になったのはそれだけだ」

「ん……」


 そこで会話が終了し、俺たちは再び歩き始める。


 そしてしばらく歩いているうちに、『1-A』と書かれた教室の前で立ち止まる。


「ここか?」

「うん」


 ようやく俺らの教室にたどり着き、グッと背伸びをする。そしてドアに手をかけ、教室の中に入る。さてさて、いったいどんな奴らが揃ってるのやら……


「ようやく来たか問題児ども」


 入って早々ひどい言われようである。そんなことを言ってきたのは目の前の教壇に立つ女教師。そいつは俺らを見比べ、そしてすぐにキレたような表情に戻って言う。


「さっさと座れ。そして黙って私の言うことを聞け」


 中々に乱暴な口調で指図をしてくる。そして空いてる席に座るが、なんと俺と琥珀朧は隣同士だった。


「……理事長が仕組んだね」

「だろうな。そうとしか考えられん」


 ……なんだかあの理事長の手の上で転がされてる気がするなぁ、と。そう思いながらも、俺は前に立つ女教師に目を向けるのだった。

最後まで読んでいただきありがとうございます。

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