第7話 「真っ白な世界」
真っ白な世界――――
何もない――――
ふと目の前に黒い何かが生まれた――――
恐るおそる手を伸ばす――――
触れた――――
白と黒が反転する――――
――――真っ黒な世界。
――――何もない。
――――ん? 小さな灯が一つ。
――――二つ、三つ、さらに続く。
――――僕は追いかける。衝動的に。
――――あれ? 止まった。
――――全部消えた!
――――前も後ろも、左も右も分からない。
――――僕は立てているのか?
――――ん? あなたは誰?
――――えっ! あたなが僕を呼んだ? この世界に!?
――――必要だから? 何故!
――――そのせいで雄一は、僕の親友は死んでしまった…………。
――――えっ! 生きている? 本来の姿になって!?
――――それじゃ朝人?! もうひとりの親友は?
――――そっか、…………よかった、本当に。
――――ん? これを僕に?
――――いつか必要な時がくるから?
――――待って! まだ答えてもらってない!
『オマ……エ……ハ、ワタ……シ』
――――黒と白が反転する。
目の前に真っ白な世界が広がる――――
誰かいる――――
あれは僕? 幼い頃の?――――
泣いているの? どうして?――――
『やりたくない』――――
何を?――――
『全部』――――
あぁ、この時の僕は――――
それを上手く伝えられないのかい?――――
『…………うん』
僕も同じさ、同じだった――――
結局のところ、あの人達にその想いを伝えられなかった――――
そのことで今も後悔してる。ずっとね――――
でも、だからこそ今の僕があるんだ――――
昔の僕は目標が持てなかった――――
だから言われたことだけをする。苦痛だった――――
僕の心はいつしか壊れてしまった。でも、だからこそ気付けたんだ――――
もっと我儘に生きていいんだと――――
でも生半可な我儘はダメだ。自分にも他人にもすぐに崩される。「何もしない」を「何も出来ない」と言っているのと同じだ――――
僕に必要だったのは、物怖じしない、芯のしっかりとした我儘だ。「やりたいことを全力でやる我儘」だ――――
だから言うよ、あの頃の僕に――――
君のその手には、歌には、君以外の人を幸せにできる力が宿っている――――
その力で自分が目標になるんだ! それが僕の目標なんだ――――
そして「世界」をシビレ(感電)させるんだ――――
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僕が目を覚めたのは来賓用ソファーの上だった――――
後からテアーナに聞いた話しだが、僕が気を失っていたのは一時間程度らしい。その間に、僕をこのソファーで休ませてくれたのは、部屋の方隅で佇むスーパー執事ことトッコー先生とのこと。
「あ、トッコー先生」
「おや、カナデさんお目覚めですね。ご気分は如何ですか?」
「まだ少し頭が重たい感じが」
「そうですか、こちらのグラスをどうぞ」
僕は差しだされたグラスに注がれた水を一気に飲み干した。思ったより喉が渇いていたらしい。
「ありがとうございます」
「いえ、それではカナデさんが目を覚まされたこと、奥様にご報告してまいります」
「あ、はい、お願いします」
しばらくしてテアーナとヴェルーチカさんが来た。
「カナデ! でっ、どうだったのよ!」
『ほらテアーナ、カナデさんまだ目覚めたばかリだから落ち着いて』
この後、僕は二人に「真っ白な世界」での体験を話した。