第3話 「でも今日を生きるために」
「ここはどこだ? 確か光に包まれて……。」
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令和XX年八月XX日 零時 ――――
出演したライブの出来について、僕ら三人はいつものファミレスで反省会中だった。
「あれ何?」
「ちょっ、動画撮っとけよ!」
緊張と興奮の入り混じったで声で窓際のカップルが騒がしい。
僕はメロンソーダを片手に思わずそちらをチラ見する。
カップルがスマホを向ける先で、窓越しに赤い光が立ち昇るのが見えた。
――――刹那!
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で、今に至る訳だが……。
僕の眼前にはファミレスのテーブルではなく、見渡す限りの草原が広がっていた。
なんとなく幼い頃に行ったカルスト台地を思い出す。
空を見上げる。
あぁ、雲一つない青空が広がっている。電柱と電線の無い空を見上げたのはいつぶりだろう?
足元も見てみる。気になっていた。
あぁ、良かった。僕の相棒(ギグバックに入ったギター)も一緒だ。
ふと視界の端にあった赤い花に目が留まる。
ん? 何か浴びた? 塗られた?
ッ!!
「うぇっおぅっ」
嗚咽と伴に声にならない声が込み上げる。そして背筋が凍る。
無意識に、そして本能のままに、僕はその場から離れようとした。
しかし、それを足元の相棒が赦してくれなかった。
僕は相棒に躓く。転んだ。
そのまま地べたを這って後ずさった。我武者羅に。
思うような呼吸が出来ない。
ハァ、ハァ……ングッ、スゥーッ、フーッ。
「何があった!」
「いや、何もなかったはずだ……」
「じゃぁ、これはっ? これはいったい何の冗談なんだよ!」
僕は自問自答しながら声を荒げて頭を掻きむしった。
僕が「これ」と言ったのは血まみれの肉塊だ。
そして、それが何の肉塊かを認識してしまった。
先ほどまでファミレスで一緒にいた親友「子守 雄一」のそれだ。
肉塊には、雄一が来ていた服やズボンの切れ端が混ざっていた。
僕は逃げるように相棒だけを回収し、泣きながらその場を離れた。
雄一には申し訳ない。だが、これ以上近づくことも見ることも出来なかった。
僕の中で、弔いの良心よりも得体のしれない死への恐怖心の方が勝ったのだ。
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あれから僕は、無我夢中で歩き続けた――――
もし手元に鏡があったら、きっと僕は乾いた汗と涙でぐちゃぐちゃだろう。
そんなことを歩きながら思える程度に、今の僕は落ち着きを取り戻していた。
だからこそなのかもしれない、ふとファミレスにいたもう一人の親友「北宮 朝人」を思い出した。
もしかしたら朝人も雄一みたいに……。
いや、ひとの心配をしてる場合じゃないか、とりあえず今をどうにかしなきゃだな!
こんな時のために無人島系バラエティ番組を見ていたのだ……って、本当に来るとは思っていなかったが。
まずは水と寝床の確保だな。幸いにも今のところ雨の降る気配はない。気温も肌寒い程度で半袖でも特に問題ない。
――――バチンッ!
「あ痛っ!」
さっきから静電気がひどいな。
僕はブツブツ言いながらもその一歩を踏みだしていた。
不安を抱え、でも今日を生きるために。