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第3話 「でも今日を生きるために」


 「ここはどこだ? 確か光に包まれて……。」


■□■□■□■□■□


 令和XX年八月XX日 零時 ――――


 出演したライブの出来について、僕ら三人はいつものファミレスで反省会中だった。


 「あれ何?」


 「ちょっ、動画撮っとけよ!」


 緊張と興奮の入り混じったで声で窓際のカップルが騒がしい。


 僕はメロンソーダを片手に思わずそちらをチラ見する。


 カップルがスマホを向ける先で、窓越しに赤い光が立ち昇るのが見えた。


 ――――刹那!


■□■□■□■□■□


 で、今に至る訳だが……。


 僕の眼前にはファミレスのテーブルではなく、見渡す限りの草原が広がっていた。


 なんとなく幼い頃に行ったカルスト台地を思い出す。


 空を見上げる。


 あぁ、雲一つない青空が広がっている。電柱と電線の無い空を見上げたのはいつぶりだろう?


 足元も見てみる。気になっていた。


 あぁ、良かった。僕の相棒(ギグバックに入ったギター)も一緒だ。


 ふと視界の端にあった赤い花に目が留まる。


 ん? 何か浴びた? 塗られた?


 ッ!!


 「うぇっおぅっ」


 嗚咽と伴に声にならない声が込み上げる。そして背筋が凍る。



 無意識に、そして本能のままに、僕はその場から離れようとした。


 しかし、それを足元の相棒が赦してくれなかった。


 僕は相棒に躓く。転んだ。


 そのまま地べたを這って後ずさった。我武者羅に。


 思うような呼吸が出来ない。


 ハァ、ハァ……ングッ、スゥーッ、フーッ。


 「何があった!」


 「いや、何もなかったはずだ……」


 「じゃぁ、これはっ? これはいったい何の冗談なんだよ!」


 僕は自問自答しながら声を荒げて頭を掻きむしった。


 僕が「これ」と言ったのは血まみれの肉塊だ。


 そして、それが何の肉塊かを認識してしまった。


 先ほどまでファミレスで一緒にいた親友「子守 雄一」のそれだ。


 肉塊には、雄一が来ていた服やズボンの切れ端が混ざっていた。


 僕は逃げるように相棒だけを回収し、泣きながらその場を離れた。


 雄一には申し訳ない。だが、これ以上近づくことも見ることも出来なかった。


 僕の中で、弔いの良心よりも得体のしれない死への恐怖心の方が勝ったのだ。


■□■□■□■□■□


 あれから僕は、無我夢中で歩き続けた――――


 もし手元に鏡があったら、きっと僕は乾いた汗と涙でぐちゃぐちゃだろう。


 そんなことを歩きながら思える程度に、今の僕は落ち着きを取り戻していた。


 だからこそなのかもしれない、ふとファミレスにいたもう一人の親友「北宮 朝人」を思い出した。


 もしかしたら朝人も雄一みたいに……。


 いや、ひとの心配をしてる場合じゃないか、とりあえず今をどうにかしなきゃだな!


 こんな時のために無人島系バラエティ番組を見ていたのだ……って、本当に来るとは思っていなかったが。


 まずは水と寝床の確保だな。幸いにも今のところ雨の降る気配はない。気温も肌寒い程度で半袖でも特に問題ない。


 ――――バチンッ!


 「あ痛っ!」


 さっきから静電気がひどいな。


 僕はブツブツ言いながらもその一歩を踏みだしていた。


 不安を抱え、でも今日を生きるために。

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