第七話 「5月25日 “正義の翼(ジャスティス・ウィング)”中編」
「…………予想外だったよ、君がここまで粘れるなんて」
「まあ、耐久には自信があるからな……っ」
ここは浜桜市の一角にある工事現場。そこで二人の少年は向かい合っている。片方は翼の生えた少年、もう片方は満身創痍の少年が。
くっ、まずいな……あまりにも戦力差がありすぎる。俺は世界晴翔。現在、正義翼とかいうやつに勘違いの末殺されそうになっている。俺も使える二つの能力“治癒”と“直撃加速”で応戦しているが、同じく二つの能力を使えるこいつに押され押されの状態だ。ついさっき余った粒子をほとんど使って逃走を図ったのだが、それも破られてしまい、絶賛大ピンチだ。
「君の“能力粒子”はそろそろ切れそうな気がするのだが、もう一回“治癒”を使ったら……それこそ消滅の時だね」
「そうだな、そうなってしまうなら回復はもう使わない」
「ほう? でも“直撃加速”も残り数回、といったところかな。でも今の僕にはもう効かない。まずその能力の性能については僕のほうが知っている、だってその能力の持ち主は」
そこまで言って、彼は向こうのほうに横たわっている女性の死体をチラ見した。
「そこの、まなるのものだったから。……君が殺した、僕の大切なバディ」
「だから、違うって何度も……」
「うるさい、君の言い訳なんてこちらもご免だ」
なんでこいつここまで俺が殺したと思い込んでいるんだ。確かにもともとサイキック部を疑っていたらしい彼にとっちゃ、『元部員の俺が自分の相棒に手を下した』と考えるのが自然と思い込んでも仕方ない気もするが、しかし俺にとって理不尽この上ないことであることは間違いないわけで。
「こんなとこで、死にたくねえよ」
「なら教えろ、サイキック部と『プロジェクト パーフェクト・ワールド』を」
「やだね」
「即答か、やはり死んでも教えたくないようだね」
まず仮にこいつに教えたとしても、俺が無事に生きて帰れるのかは不確定なのだ。相棒をなくした彼が俺をそうホイホイと帰らせてくれるのかなんてほとんどわかりきっている。最悪生かせられてもほかのみんなに対して、人質なりなんなりでいろいろ聞きだそうとしてくるのがオチだろう。今でさえ迷惑かっけぱなのに、そんなことされるなら死んだほうがいい気もしてきた。
「まあ、君を殺す権利はこちらにあるし、そのあと君にいないサイキック部に、武笠学園に強制捜査すればいい。君やサイキック部は黒だということはもうわかりきっているんだ。そこをたたけば、もう部のみんなや学園は責任取らなきゃいけなくなるからね」
「……っ! まさかお前、俺をダシにしてサイキック部と学園に喧嘩売ろうってのか! 汚ねえぞ!」
こいつ正義正義言っといて、やり方が汚すぎる。しかも今の言い分じゃ武笠学園にも危害を加える気だ。そんなことしたら璃々奈の身も危ない。そんなの
「止める……っ! そんなの絶対に許さない」
一瞬でも自己犠牲でなんて考えてしまった俺が馬鹿だった。そうだ、俺は“目的”のためにも、生きなきゃいけない。その一歩としてこいつは止めなきゃいけない。俺の大切な人たちみんなに危害を加えようってんなら、絶対に許しちゃいけない。そんなの“正義”じゃない。いまここで……過ちをしてしまう前に正さなきゃいけない。
「来い……っ、お前を今ここで! 俺がっ! 倒す!!」
そう告げた俺に対して、翼は一瞬驚くように目を見開いた後、こちらをにらみつけ、そしてその目はだんだん憐れむような、こちらを見下した目になった。
「そうかそうか、死にたいのか。ならここで……幕引きにしよう。まなるの仇!」
「ああ! 来い! 全部、奪い取ってやる!」
無意識に、そう俺は言い放った。なぜそういったのか、自分でもわからなかった。でもその言葉はあまりにも自分にしっくり来ている気がしたのだ。そして、俺は魂の叫ぶまま、翼に言い放った。
「全部全部! それがお前の幸せでも! 奪い去ってやる……っ!」
何となく俺は気付いていた、自分の能力“能力の奪取”を。
「なんてお似合いな能力だだ」
俺は自嘲とともに、彼ともう一度向かい合い、この手を握りしめた。
“生徒総会”まであと31日
~続く~
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